第7話 個性

少し話は遡り、経緯を話そう。

 

 自室にチーノが裸でおり、それはロンとサーベルが仕組んだ事だと判明した。

 

 まあそれはいいんだが、すこし部屋の様子に違和感を覚えていた。

 

 「私も思いましたの。」

 「ああ、部屋多いだろ…明らかに。」

 

 そう、通常手配される部屋は個室。

 

 個別の部屋なんて用意されてるなんて、つまり、他に誰かが来る。

 

 そういうことなのだ。

 

 大方、大部屋を分けて手配してもらった。

 

 そして、俺とチーノがいるということは、流れ的には……。

 

 ブーブー。

 部屋のチャイムが鳴る。

 

 これまた、タイミングが良い事だ。

 

 扉を開く。

 

 そこには、金髪、青い瞳、どこかのお嬢様のような、それでいて病弱で守りたくなる少女。

 

 ーーーーリアスがいた。

 

 「ふぇ、ガードナーさま?」

 「あ、えっと。」

 「また、会えるなんて。運命ですか?」

 「…はい?」

 

 刹那。彼女は俺に抱きつく。

 「あなたが私の運命の人なのですね!」

 

 ななな、なんだ!?

 

 俺は目の前の出来事に困惑しつつ、柔らかいその体に意識を向けざる負えなかった。

 

 ああ、チーノとは違う良さが…

 

 「いたっいたたた!?」

 気がつくと後ろにいたチーノに背中を抓られていた。

 

 いや、これは電流!?

 

 「なんですか!急に部屋に入ってきて!」

 チーノが声を荒らげる。

 

 終始、俺の背中はチクチクとしている。おそらくバリアを貫くためにセイクリッドスキル・裁きを使って俺の背中を抓っている。

 手の込んだ嫌がらせだ。

 

 恐らく自分にダメージが来ないように静電気程度の微量な力を指先に集中しているようだ。

 

 もう一度言う。手の込んだ嫌がらせだ。

 

 「わわ!チーノ様!?」

 驚いた表情をするリアス。咄嗟に俺の体から離れる。

 

 「…私は名前呼びなのですね!2人だと思ったから抱きついたのですか!いいでしょう!この際言ってあげます!私は貴方がとても気に入りません!」

 

 「わた、私はなか、仲良くしたい…です!」

 

 なんだ、なんだ気がついたらとんでもない修羅場だ。

 

 「お、おい、なんか事情あるかもしれないんだから、頭ごなしに言うのは…」

 

 「うるさい!」

 怒鳴るとチーノは飾りで置いてあった金の剣を外し、俺に向かって斬撃を放つ。

 

 「やめろって!!」

 俺は応戦する形でバリアを前方に出現させる。

 

 飾りの剣は消失し、チーノは中央に位置するソファまで吹き飛ぶ。

 

 「え、いまのって『バリア』ですか?」

 

 キラキラした瞳で、俺を見上げるリアス。

 

 「えっとお。色々話聞かせてくれるかな?ちょっと拗れたみたいだから。…それでいいだろ?チーノ。」

 

 「はいはい、分かってますよ。…面倒な力ですね。一々小細工しないといけない。」

 

 「悪意なかったら俺のバリアは発動しないっての。てか小細工ししようとすんなよ。」

 

 「事情については、俺から離すよ。ふは、はははっ!」

 急に現れたレストにおどろく余裕もなく、彼は吹き出し、笑う。

 

 「何笑ってんだよ。」

 「お前ら、面白、あははっ!」

 

 しばらくして、落ち着いて話せる状況が出来た。

 

 「ま、わかってると思うけど、俺らも訳ありでな。ここの部屋に手配されたわけだ。部屋番の紙に同室者の名前書いてあるのに、ここまで揉めるなよ。メサイア側の配慮なんだぜ?」

 

 手配された紙?そんなものがあったのか。部屋適当に見てたら、リバイアの名前あって来てみたんだが。

 

 あれ、待てよ。俺が見た時は、俺の名前しか無かったぞ。

 

 「私が小細工しました。同じ部屋って言うのは知ってたので。」

 

 「そうそう、俺らが迷うようにセイクリッドスキル・聖域なんて作りやがって。まあうちのリアスはセイクリッド適正あるから、見つけれたわけだけど。そんで、パステワードは妹の突拍子もない行動でこころが乱れた。ってな、具合だ。」

 

 女って怖いな。

 

 「なんだよ、最初から知ってんなら、あそこまで怒らなくても。」

 

 「いやいやパステワードが切れたのはそこじゃないだろ?」

 

 「ん?」

 

 「とんだ、鈍感さんってとこか。」

 呆れたようにレストは言うと、先程から質問したくてうずうずしていたチーノが、やっと質問する。

 「で?さっきのは、なんですか。」

 「あの、私…」

 

 刹那。女性の悲鳴が聞こえた。

 話はあとにした方が良さそうだ。

 

 やれやれ、今日は厄日だな。

 

 「行くか。…身体加速。」

 俺は咄嗟に動き出し、それに一同も着いてくる。

 

 現場に駆けつけると、そこは暗がりで、身なりがとても汚された、恐らく亜人族の少女がそこにいた。

 

 「おい、犬がァ。何人様の服きてんだよ?裸になって、キャンキャン吠えてろよ?オラァっ!」

 醜い顔した男、複数名が少女をボコボコにしている。

 

 「能力値上乗せ。」

 

 試すか、貴族にどこまで通用するか。

 

 俺は身体加速と併用しながら、複数の男を制裁する。

 

 「な、なんだ、てめえ。鬼つつええぞ。どこのどいつだ!!」

 「先に名乗れよ?腐っても貴族だろ。」

 俺は見下しながら、低い声で呟く。

 

 「も、モグ・ザードっていいます。こ、この度はま、誠にすみませんでした。」

 

 「俺はリバイア・ガードナー。謝る相手違うだろ?」

 

 「す、すまなかった。あ、亜人族は魔族の血を引いてるって……」

 

 チーノの目が強ばるのを感じた。

 俺は目でレスト、リアスにアイコンタクトする。

 

 動くな。なにもするな。何もさせるな。

 

 そういう合図だ。

 

 「魔族は滅んだ。俺たち人間が滅ぼしたんだ。それに亜人族は遠い昔からいる種族だ。亜人族っていう名前も、俺らが勝手に呼んでいるだけだ。…入門やりなおせよ。そこに倒れてるお前らも同罪だ。」

 

 「本当にその通りです。…僕たちに知識が足りず、ガードナー一族に迷惑をお掛けしました。」

 おもむろに立ち上がった男達は、チーノ、リアス、レストに連れていかれる。しかるべきところでの処置が下される。

 

 この学校での差別行為は、発覚した時点で、退学だ。

 あの男たちも知っていたのに、行った。許されることではない。そして、あの言い訳。裁きを受けるといい。

 

 ガードナー一族は有名な家らしい。この3つの国が集まるメサイアでは、地位は上の方に位置すると教わった。


だが、嫌な感覚だ。時には自分の立場や力は、使うと嫌な気持ちになる。

 

 正しい使い方でもだ。俺はそう思った。

 

 オレはしゃがみ、倒れている少女に話しかける。

 

 「怪我は?立てますか?」

 

 少女は怯える瞳で俺を捕らえる。

 酷く、人を信用していない瞳だ。

 

 ーーーーー自分に似ている。

 

 差別を受け、友達も、教師も、何もかもが信じられなくなった。

 

 そういう瞳だ。

 

 「俺の部屋、個室じゃないんだ。部屋もいっぱいある。鍵もついてた。良かったら来ないか?女の子もいる。……今日だけでもゆっくりして行かないか?このまま、もどるの怖いだろう?手当とかしないとだしな。」

 

 俺はなるべく優しい声で話す。

 

 「わた、し。お金ありません。寮も部屋も与えられて…ません。」

 震える声。誰も頼れないのだろう。

 

 「わた、私は亜人族だから。」

 瞳には涙が浮かぶ。

 

 「その件については、解決しましたよ。私たちの部屋に来るといいです。メサイア側とは話はつけてあります。」

 

 戻ってきたチーノは、そう告げる。

 彼女ならそうしてくれると思った。

 

 「わたくしも亜人族に近い立場です。一緒に、助け合いましょう?」

 

 「ま、1度来いよ。服も洗濯しないとな。」

 彼女は不安そうに、こくりと頷いた。

 ーーーーー。

 

 彼女の名前はデミ・グラス。

 

 亜人族の少女だが、勇者が現れた際、ディフィードに逃れた一族らしい。

 

 両親はお金が無く、既に他界。

 幼いながらに必死にお金を貯めて、メサイアに入門したらしい。

 

 メサイアには、名門の貴族以外も受け入れる制度が複数ある。

 

 彼女には貴重な亜人族の血が流れており、微力ながら魔力を有している。

 

 そのため、入門を許可されたらしい。

 

 しかし、知識も力も足りず、あのように、貴族の坊主共に虐められ、今に至るというわけだ。

 

 入門は許可されたが、寮に入るだけのお金は持たず、入門式のあと運悪く、貴族に絡まれたそういうわけだ。

 

 「……嫌な話だな。特待を認めはするのに、待遇は平等。…なんとも言えないな。」

 

 「さっすが、お力のあるガードナーは考えることが違うねえ。」

 嫌味っぽくレストが茶々を入れる。

 

 「……わかってるよ。それがいまのニュールドの情勢、差別が当たり前。……メサイアは亜人族だからって特別扱いもしない。ただ、差別もしない。そういうことだろ?」

 

 「ああ、少なくとも、モズールから分離した3国家である、ディフィード、ミデミアムはそうだな。そして、偏りや、より面倒さがある。」

 

 もともと、ディフィード、モズール、ミデミアムは同一国だった。

 しかし、誰しもを愛する王フラットベースの考えから、国を守る主義と種族を守る主義へとそれぞれ分離した。

 

 そして残ったモズールは平等を謳い続けた。

 

 「お風呂ありがとうこざいます。」

 お風呂から上がり、身だしなみを整えたデミが現れる。

 

 茶髪のくせっ毛で、どこかの愛らしさを感じる耳やしっぽ。

 俺の知っている動物で言えば、犬が近いだろうか、それに近いしっぽやミミが特徴的だ。

 

 瞳は相変わらず、俺たちを警戒している。

 

 「先程は助けて頂き、ありがとうございます。」

 

 部屋に招き入れた時は、不安がピークで死に場所は自分で決めるだの、さんざん暴れたが、チーノが無理やり、お風呂に入れてすこし、スッキリした様子だ。

 

 彼女には魔力の波長が形となって見えるらしい。

 魔力の波長とはその人間の性質を体言するものらしく、俺らの『個性』とも言えるそれは強烈らしい。

 

 「先程は混乱してしまい、すみません。でも、すこし安心したんです。私には、知識がありませんので、皆さんが何を隠しているかは、分かりませんが、皆さんは自分を貫いて、何か目標がある。それが伝わってきて…」

 

 彼女はすこしココロを開いてくれたのだろうか。少し自分の考えを拙いながら、吐き出そうとしている。

 

 俺はそんな彼女の様子に、見守っていきたいと感じ、アタマをそっと撫でる。

 

 「ゆっくりでいい、デミも個性を見つけるといい。抱えているものは人それぞれで、これからそれを学び、知っていく。それが、メサイアの醍醐味なんだろ?初日から大変だっただろうけど、これから、よろしくな!」

 

 俺はそう、彼女に告げる。

 

 皆も頷く。

 

 そうなのだ。

 

 俺もやっと、前向きになれそうだ。

 

 世界が違くても、やることはきっと同じ。

 

 これから始めるんだ。

 

 なんだか、面白くなりそうじゃないか。

 

 まだ先が見えないこの世界で、俺は俺らしさを。

 

 前世でなし得なかった答えを。

 

 これから探すんだ。

 

 

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