第12話 友達

試合は開始された。

 

 その宣言とともに、レストは俺に向かって走り出し、剣を振り下ろす。

 

 「パラディンスキル・無双剣戟!!」

 

 「ユニークスキル・アクションバリア!!」

 俺はさかさずパリアを展開させ、レストの凄まじい剣戟をはじき返す。

 

 衝撃波と共に、レストは後ずさる。

 

 「やはりな。スキルは防げないバリアのはずだが、スキルで生成した剣は物理攻撃として処理されるわけか。ならばっ!!!」

 

 ニヤリと笑い構え直すレスト。身にまとっていた闇のオーラがみるみるうちに剣へと集中する。

 

 「クリエイトスキル・斬影波!!」

 下方に構えた剣を振り上げるように解き放つと、レストの影が実体化し、斬撃の余波のように俺目掛けて飛んでくる。

 

 「これは、バリアじゃ防げない…が俺なら防げる!!!」

 

 俺はそのままバリアを展開させ続け、斬撃のみをバリアで防ぎ、貫いてきた闇のスキルを左手でかき消す。

 

 「パッシブスキル・属性耐性。」

 

 「へっ。やはり、やりづらいな貴様。」

 

 「どうした?さっきから試すような戦い方ばかりしやがって。俺に恨みがあるんだろ?本気で来いよ。お前の全て受け止めてやる!」

 

 「ほざけ。お前は、デミやモグより弱い。いくら防御力が高くてもお前は俺には勝てない。」

 

 構え直すと、レストは左手を前に出し俺に向ける。

 

 「それにな。闇の加護が与えてくれるのは、別に属性の力だけじゃない。アクティブスキル・シャドウハンド!!」

 

 唱えると俺の影から無数の黒い手が繰り出される。

 

 「ちっ!だから、闇は俺には効かないっての!!!」

 

 俺は左手で黒い手を無力化しようとするが、弾き返される。

 

 「なにっ!?」

 すると、黒い手は俺の足元にまとわりつく。俺はそのままバランスをくずし転倒する。

 

 「うわっ!?」

 

 「アクティブスキル・グラビティ!」

 

 無理やり立ち上がろうとした瞬間を狙って、レストはなにやら唱える。

 

 それに呼応するかのように、俺の体は酷く重くなる。

 

 「うぐっ!!!な、何をした!?何が起きてやがる!!」

 

 レストはニヤリと笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。

 

 「さっきのデミとの試合、よく見てなかったのか?デミは重力の壁によって弾き返されていたんだよ。あとは、オレがあいつの攻撃を避けれたのは、そのシャドウハンドで動きを鈍らせていたからだ。」

 

 「つ、つまり、俺の体が急に重くなったのは、お前のその重力の力って訳か!」

 

 「ご名答だ。だが、チェックメイトだ。ガードナー。」

 

 気がつくと目の前に、レストが立ち塞がる。

 

 「お前のバリアは構える必要があったな。対象を決める必要がある。だが、常時体に張り巡らせることも出来る。属性耐性は、どんなモノも触れたものを無力化する。だが、欠点がある。バリアはスキルや魔法に対して耐性がない。すり抜けてしまう。そして、属性耐性は、攻撃だけをダメージを少なくできる。ってことはつまり、攻撃しなければいい。」

 

 「な、なるほどな。だからシャドウハンドは消えなかったのか。攻撃じゃないから。そして、グラビティは属性の扱いじゃない。」

 

 「ああ、そういうことだ。動けなければ、お前は何も出来ん。自分を守ることしかな。だが、属性耐性も属性無効ではない、つまり、それを超えればいい。物理攻撃はスキルで覆えばいい。そして、属性でも物理でもないスキルであれば、お前を簡単に殺せる。」

 

 「へへ、完全にオレを殺しに来てるな。参考までに教えろよ。今の俺は何も出来ない。死ぬ前になんで殺されなきゃ行けないのか。お前ほどの男に殺される理由を聞かせろ。」

 

 俺は時間稼ぎ目的でそんなことを呟く。実際、こいつがなぜ、俺に恨みを売っているのか知りたいというのもあるが。

 

 「いいだろう。冥土の土産に教えてやるか。」

 

ーーーーーーー。

 

 俺は妹とは違って幼い頃からやんちゃばかりして、オヤジにいつも叱られてた。

 

 ある日の事だった。俺はリアスの部屋に物心着いてはじめて足を運んだ。

 

 想像以上に弱っている妹を見て、俺はなんて冷たい兄なんだって思い知った。

 

 どうにかして、妹を助けてやりたかった。俺はこんなに元気なのに何かの間違いだって。

 

 そう思った。

 

 妹はうなされながら言った。

 

 『私、生きたいよ。』

 

 俺は動かずにはいられなかった。

 

 そしてたまたま見つけてしまったんだよ。

 

 どんな病も、どんな痛みも、治せる。時間だって越えられる。

 

 そんな光属性の加護を持った武器『光のスクトゥム』を。

 

 俺が生まれて、しばらくだった頃から噂されていた召喚門に使用された武器。

 

 何の因果か、それが家にあったんだ。

 

 不思議と目にしただけで、それがどんなものなのかわかった。

 

 だが、触れた瞬間持ち主が決まってしまうということも伝わってきた。

 

 俺が使ってアイツを治せばいい。そう思った。だが、俺は別の力に引き寄せられた。

 

 まるで、それが自分であるかのように、闇のグラディウスが俺を呼んだ。

 

 『お前は俺だ。スクトゥムは妹に与えろ。そうしなければ妹は死ぬぞ。さあ、俺を選べ。』

 

 そう言われた気がした。

 

 だから、オレは闇のグラディウスをその身に宿し、闇を手に入れた。

 

 どうやら、俺が所有者だったらしい。なんらかの事情で召喚門にイレギュラーが起き、4人のうち、俺とリアスだけが、特別な形で後から力を手に入れた。

 

 その後無事、リアスは光を手にし、命を救われた。

 

 しかし、俺は魔王の生まれ変わりと世間から避難された。

 

 妹のリアスは光の巫女だともてはやされて、オレは悪魔呼ばわりとなった。

 

 その時知ったよ。なんて世の中は理不尽なんだって。そして、変える必要があると。

 

 だから俺はメサイアに来た。今のままでは、闇の使い手だと、そう言われるオチだからだ。

 

 だからここを卒業し、地位を得る。力を得る。

 

 それが俺だ。

 

 そして、俺は王になる。この力で。

 

 そして、世界を変える。

 

 俺は、モズール公国第一王子、フレスト・フラットベースだからだ。

 

 ーーーーー。

 

 「わかるか。俺の言いたいこと。オレら一族はお前ら一族に裏切られた。その結果が今の世界だ。」

 

 「な、何を言ってやがる!」

 

 「わからねえなら、言ってやる。元々ひとつだったフラットベースを分裂させた貴族『ディフィード一族』。そして貴様が、現ディフィード王子『リバイア・ガードナー・ディフィード』なんだよ!!!」

 

 「なっ!?」

 オレは言葉を失った。

 俺が、ディフィードの王子?

 

 「お前ら一族が、いや。貴様の父親、サーベルが裏切らなければ、お爺様は死なずに済んだんだ!!!国民を失い、良き魔族もみんな滅んだ!勇者なんかがいなくたって平和的な未来があったはずなんだ!!!なのに、お前らガードナーは自分たちだけを守る道を選び、魔族は滅び、この世界はまた差別が跋扈する世界に戻った!!!」

 

 「………」

 知らなかった。では済まされないと思った。

 

 俺は知らなかったのではない。

 

 『知ろうとしなかった』が正しい。

 

 重力に押されながら、必死に彼の顔を見る。

 

 酷く、俺を憎む瞳。

 

 当たり前だ。

 

 そんな業の深い家に生まれながら、俺は……。

 

 「それなのに、差別を無くしたい?世界を渡り歩く?……ふざけるな!!!綺麗事もいい加減にしろ!!!!お前がまず、するべきだったのは自国を良くするための、王子としての務めだろ!!!お前も結局同じなんだよ!勇者と!!この世界に来て力を得て、好き放題してるだけだ!!!」

 

 「くっ。」

 

 何も言えない。

 

 その通りだ。

 

 結局俺はこの力を楽しんでいた。

 

 それでもできることがあるのならと、甘えてた。

 

 差別をなくしたい。そう思ったのは本当だ。

 

 だが、オレは、馬鹿すぎる。

 

 綺麗事に過ぎないのだ。

 

 本音は、のんびりと自由に生きたい。その中で、できることがあるのならマイペースにやろう。

 

 そんな、能天気な考えだ。

 

 彼の恨みを買ったってしょうがない。

 

 だからーーー。

 

 「ああ。その通りだ。お前が正しいと思う。でもな。なら、尚のこと、オレは外に出て良かったと思うよ。お前に出会えて良かったとそう思う。きっと俺は能天気だから、きっと国に篭ってたら、お前のその気持ちも知ることはなかった。そして、差別をなくしたいってそう思うこともなかったさ。……そんぐらい俺は馬鹿なんだよ。だからせめて、無事に卒業して有言実行して、ディフィードもどうにかしてやる!!!!」

 

 俺は地面に手を付きスキルを発動させる。

 

 「ガーディアンスキル・穿孔!!」

 

 「しまっ!?足場が!?」

 

 オレは地面に穴を開けることで、足場を崩す。それにより陰は形を変え、シャドウハンドは姿を消す。グラビティの効果もレストがバランスを崩したことにより発動が切れたらしい。

 

 「決めさせてもらうぞ!!!アビリティプラス!身体加速!能力値上乗せ、神の裁き!!!」

 

 俺は右手に全ての力を込め、全力でレストの腹に打ち込む。

 

 「俺に接近戦でかなうわけないだろ!!!スロームーブ!!」

 レストは左手でオレを捉え、俺のスピードは激減する。

 

 「くっそ!!!届かない!!!」

 あと一息のところで、攻撃は当たらず、避けられる。

 

 「終わりだ!!!影斬撃!!!」

 

 レストは目の前から姿を消す。

 

 知ってる。この感じは、俺の背後だ。

 

 恐らく、闇スキルで覆った剣でバリアを貫き、その後、剣で刺し殺すつもりか。

 

 俺は、リアスの言葉を思い出す。

 

 『人それぞれ、ですよ。リバイア様には、他の方にない力が、やり方があるはずですよ。』

 

 俺には、俺の戦い方があるんだよ!!

 

 「助かったよ!間合いに入ってくれて。見せてやる!……新技!バリアランス!!!」

 

 俺が唱えると四方八方、俺の周りから棒状のバリアが飛び出す。

 

 「ぐはっ!?」

 

 攻撃力は少ないが、不意打ちにはもってこいだ。

 

 そして俺は、レストの手足をバリアで覆い、レストは地面に固定される。

 

 闇で覆えば簡単に抜けられる。だから、この一瞬の隙で決める。

 

 「バリアラッシュ!!!!」

 

 俺は自分の手にバリアを付与し身体加速を併用し、レストの体を殴り続ける。

 

 「うぉおおおおおっ!!!これで終わりだ!!!ーーーー帰ったら、また話の続き聞かせろよ!!!」

 

 最後にありったけの気持ちを込めて拳を放つ。

 

 「俺は、お前ともっと話したい!!きっと、分かり合えるから!!!」

 

 「うっ!?がぁっ!!……く、お前、本当に、能天気だよ…。」

 

 レストはすこし苦笑いして見せて、気絶する。

 

 「はぁはぁ。し、審判。これでいいだろ」

 

 「え、あ、はい!!!勝者はリバイアだぁあああ!!!優勝だぁああ!!お疲れ様でしたァァァっ!!」

 

 会場が大盛り上がりしている。

 

 「俺は、このメサイアでトップをとり、そして、この世界の理不尽を、差別を無くしてやる!!!そして、戦争なんて終わらせるんだ!!!それには色んなやつの力がいる!そして、オレは馬鹿だ!!!だから、世情を知るためにも、この世界を旅して、いつの日か、この世界を救ってやる!!!」

 

 俺は高らかに宣言して、その場に倒れる。

 

 結局、俺は尚のこと、前に進むよ。レスト。

 

 起きたら色んな話をしような。

 

 きっと、分かりあって、友達になれるはずだから。

 

 俺はそのまま、意識を失ったのであった。

 

 ーーーーー。

 

 あれから、しばらく経ち試合の結果、俺は、進級試験優勝を果たした。

 

 ポイントの結果は分からなかったが、レスト、リアス、チーノの予選を勝ち抜いた3人は余裕で合格していた。ギリギリで、デミも合格しており、ひとまず、身内は全員合格した。

 

 デミの怪我の具合もそこまで酷くはなく、回復しているようだ。

 

 俺とレストはというと、関係は以前より、マシになったように思う。

 

 もともと、フランクに話してくれていたレストだったが、変に距離が近い感じではなく、『普通』に接してくれている気がする。

 

 今は進級試験も終わったということで1ヶ月の休暇中だ。

 

 そして、休みを迎え数日がたった今日、メサイア内の見晴らしの良いテラスでオレとレストは穏やかな風に吹かれながら、話している。

 

 「まあ、恨みとかいうか。気に入らなかったんだよ。同じ王子なのに、自由で羨ましかった。何も知らなかった頃の自分を見ているようでな。」

 

 「まあ、ごもっともだよ。俺はこの世界に来て、前世の経験を生かして、自分から積極的に動いてみることが増えた。まあ、反省することもあるけど。……結局、人付き合いに関してはなんも成長してなかった。周りのこととか考えてなかったから。」

 

 俺は、改めて反省していた。

 今回の件、チーノやデミは闇の使い手のことを知っていた。

 

 誰がどんな気持ちで動いているのか、自分は何をしたのか、全く考えもしなかった。

 

 それに、自分がなぜここに来たのか、それすらも考えていなかった。

 

 ただ、ひたすらに、漠然とした『旅をしたい』『自由に生きてみたい』という考えだけだった。

 

 「いや、いいんだ。気がついた時に俺は暴走していた。転生者とかガードナーとか、そういうの消せば、丸く収まる。馬鹿みたいな考えだよ。」

 

 レストは自虐的に語る。

 

 「まあ、簡単な話、お前がウザかったんだよ。」

 「ストレートだなあ。」

 

 「同じ立場で同じような考えなのに、環境に恵まれてよ。…そんだけだ。色々ごちゃごちゃにしてすまなかったな。」

 

 レストは頭を下げる。言葉はあれだが、真剣な態度に本気さが伝わってくる。

 

 「いいって。俺も理想ばかりじゃダメなんだって思ったし、一連のことで、まだまだオレには足りないものがあるって思ったよ。ーーーーだから、ありがとう。ぶつかってくれて。」

 

 顔を見合わせて笑う。

 

 色々ゴタゴタして難しいことは分からない。

 

 それでも今は、笑い合える友達がいる。

 

 衝突したことで知り得たこともある。

 

 きっと、これが友達なんだ。

 

 また、俺は同じ過ちを繰り返すかもしれない。

 

 でもその都度、知っていけばいい。学んでいけばいい。

 

 今はそう思った。

 

 違いを恐れずに向き合っていこう。

 

 ーーーー。

 

 俺たちの戦いから、メサイア内の様子も少し変わりつつあった。

 

 自分たちはそこまで世界のことを考えていただろうか、と思う生徒が増えたようで、自国に帰り、考えを改める者が増えたらしい。

 

 俺もレストからディフィードの話を聞き、一度卒業後帰ることを決意した。

 

 きっと、俺にもできることがあるはずだ。

 

 その日俺は、レスト、チーノ、リアス、デミとの思い出を振り返る。


 これが、友達というものなのだろう。

 ーーーー。

 部屋に戻る。きょうはデミの回復記念日だ。

 ということでリビングにみんな集まっている。

 

 気がつくと、リビングで4人揃って話すことが増えた。

 

 「黄昏タイムは終わったのかしら。」

 開口一番、チーノがニヤニヤしながら、オレとレストに向けて話しかけてくる。

 

 「やめろよ、恥ずいから。」

 俺は照れながら返す。男と男の大事な話である。

 

 「今回の件、お兄ちゃんがすみませんでした。」

 

 席に着こうとするとリアスが勢いよくくっついてくる。

 すかさず、チーノが「ちかーい!!!」と無理やり、離す。

 

 「あはは、相変わらずだなあ。おふたりは。」

 苦笑いしながら、今回の主役であるデミが2人を見据える。

 

 「隣いいか。」

 すると、レストは照れながら横に座る。デミの耳とシッポがピーンと逆だったのは言うまでもない。

 

 「う、うっす。」

 デミは一言だけ添える。

 照れているのが丸わかりだ。全くコイツらはいつ、こんな関係になったのやら。

 

 「…怪我はもういいのか?すまないな。」

 

 「い、いえ。大丈夫っす。レストさんは不器用な方っすから。」

 

 「そうだな。…気ぃつける。」

 

 「初々しいなあ。おいおい。」

 

 俺はすかさず、冷やかす。

 

 「いや、お前が変なんだぜ?」

 「へ?なにが?」

 

 レストは呆れたように、俺の左右横を指さす。

 

 リアスとチーノがさも当然の如く、隣に座り、リアスが俺の腕にくっつくや否や、すぐさまチーノも腕を絡めてくる。

 

 「うおっ!?やめい!2人とも!」


ーーーーー。

少し落ち着いたところでレストが謝罪する。

 

 「改めて、この度は申し訳なかった。」

 

 「それは、俺もだよ。本当に色々ごめん。すみませんでした!」

 

 「何を今更。リバイアは、能天気ですからね。短所でもあり、長所ですし。」

 チーノが笑いかける。

 

 「おにぃちゃんは頭硬いからなあ。デミさんに良くしてもらいな。」

 リアスが冷やかすように言う。

 

 「う、うっす。自分引き受けます!」

 「馬鹿…真に受けんな。」

 

 全員顔を合わせて笑う。

 

 「じゃあ、これでおしまいということで。」

 リアスが空気を変える。皆グラスを手に持ち、『乾杯〜!!!』と叫ぶのであった。

 

 

 気がつくと俺たちはルームメイトから友達になっていた。

 

 これから、色んなことに向き合っていこう。

 

 この世界に来て本当によかったと、俺は友達と笑いながらそう思うのであった。

 

 

 

 

 

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