第3部 journey
第13話 争いの兆し
灼熱に染ったかのような髪色、光を灯さないような冷めた瞳。
彼は俺を捉え、ゆっくりと笑う。
辺りは見覚えのない神殿。
だが、朽ちていく建物。
終わりが近づいている。
オレは彼を知っている。
この世界に生を受けるその前から。
目の前に立つ男はーーーーー勇者。
この世界では破壊者と呼ばれた男だ。
俺は対照的に『救世主』と呼ばれていた。
周りには見知った仲間達。
対する彼はひとりきり。
俺は彼に手を差し伸べたーーーー。
「……っ。」
カーテンの隙間から光がさす。
目を霞ませながら、ゆっくりと開ける。
「……変な夢見てたような。」
俺は、頭をボッーとさせながらポツリと呟く。
慣れないベッドだったからか、夢見が悪かったようだ。
寝汗でシーツが濡れている。
「……そろそろ慣れないとな。」
徐々に意識が覚醒してくる。
俺の両サイドには、美女が2人、際どい格好で寝ている。
普段とは違って、髪を結っておらず、無防備なその姿に、ドキドキする。
俺は額に手を当て、呆れたように2人を起こす。
「チーノ、リアス。自分の部屋行ってくれ。着替えるから。」
「あら、お早いのね。」
寝ていたにもかかわらず、案外早く回答するチーノ。
こいつ、さては起きてたな?
「夢見わるくてな。」
「……そうでしょうね。うなされていたので添い寝してあげました。…先にリアスがいたのは気に入りませんが?」
やや、圧をかけてきている気がするが、隣で寝ていたのは、彼女なりの善意であることを知る。
俺はチーノに苦笑いで返す。
そんなことをしているともう1人の美女が目を覚ます。
「……ふあぁあ。おはようございます。リバイア様。わたし、つい寝ぼけて……」
本当に寝ていたようでリアスは眠そうに欠伸をしながら、挨拶をする。
「ああ。すまないな。起こしてしまって。」
2人はフラフラしながら出ていく。
メサイアを卒業し、旅を始めて2年。
わざわざ、宿代を3人分払っているのに、2人とも俺の部屋に来るのが日課となっていた。
誓って言おう。なにもやましいことはしていない。
ーーーー。
朝の支度を終わらせ、出発の準備を始める。
進級試験後、俺たち5人は好成績で、メサイアを卒業。
特に俺とレストは進級試験での決勝をしたということでポイントが高く加算されていた。
実はポイントは入門時から設定されており、卒業時一定数を超えていたものは進路を自由に選択できるという制度があった。
本来であればパラディン、ガーディアン、セイクリッドのうち、どれかになり、どこかの国に配属されることになっていたが、俺たちは好成績であったため、その点は免除された。
一応俺はガーディアンの称号を獲得。これはこの世界で身分を示すことができるようだ。
レスト、デミはパラディン。チーノ、リアスはセイクリッド。
それぞれ称号を獲得している。
俺とチーノは文字通り旅をしている。
リアスは病弱で家にいた期間が長いため、世の中を知るために旅に同行している。
レストとデミはそれぞれ自国に帰った。やることがあるそうだ。
俺も卒業後すぐにディフィードに帰り、レストのことや召喚門のこと、勇者やセインペトの事を聞いた。
俺はそんな2年前のことを少し、思い出していた。
ーーーー。
2年前、旅に出る前のことだ。
フラットベースについて知ることが出来た。
「フラットベース王の事だな。確かに俺が裏切った形になるな。」
サーベルは悲しげな表情で語り始める。
「俺の父、ルシードは代々、フラットベース王を守るということについて、誇りを持っていた。」
「確か、ガードナーの名も、王族を守ったことで与えられた名前…でしたよね。」
「ああ、そうだ。代々フラットベースを守る。そういう家だったんだよ、俺たちガードナー一族は。」
どこか、遠くを見るようにサーベルは思いを馳せる。
ーーーーー。
しかし、フラットベース王は優しすぎたんだ。
魔族との道を常に模索していた。
人間代表として。
お互いに疲弊していた魔族、人間も徐々に歩み寄っていく姿勢を見せていた。
特に、今は帝国となってしまっているエランティア周辺諸国は特にそうだった。
だが、これに反発したのが、人間に強く恨みを持っていた過激派の魔族。
そして、魔族に恨みを持った人間。
この両者だった。
両者は互いに国や王の命令を無視する形で争い始めた。
そして徐々にその状態は悪化し、奪い奪われ、憎み憎しみ合い、徐々に体系化された戦争の形を超え、民家を襲うようになった。
つまり、だれも止められないほどに常識がなくっていった。
そして、ロンが整えていたセインペトが魔族を恨む少年、ペーテルによって、人間以外を認めない今のセインペトが生まれたんだ。
そのタイミングで名を馳せたのが勇者だった。
魔族と人間の戦いの火は消すことは出来なくっていた。
中立を謳っていたフラットベース国はもちろん、これに反対。
そして魔族を滅ぼす事に賛成的な人間たちと勇者との定期的な戦いを強いられ、俺の父ルシードは勇者によって殺された。
なんとか逃げ帰ってきた頃には、国は疲労困憊。
守り続けてきた亜人達も守りづらくなってきていた。
俺は父に変わりガーディアン代表として名を連ね、王族と繋がりのあった娘であるリッツを嫁として迎えていた。
敗走を強いられて、間もない頃、勇者とセインペトはフラットベース国に攻め込むという条文を送り付けてきた。
内容はもちろん、勇者を支援し、魔族を淘汰せよ、とのことだった。
これに対し、俺やリッツ、亜人種達は、魔族と争うことを提案。
しかし、フラットベース王はそれを拒んだ。
「魔王である、アークブ王は、我ら人間と手を取り合いたいと言っているのだ。……暴走しているのは一部の魔族だ。道は模索するものだ。動かなければ何も変えられない。……だが、ここまで戦火が広がってしまってはどうにもなるまい。……提案だ。サーベル・ガードナーよ。聞き入れてくれるな?」
その提案とは、オレに別の国を作れということだった。
そして亜人種の有力者達にもだ。
これより、表向きは俺らガードナーと亜人種の裏切りによりフラットベース王は命を落とした。
そう伝えられる。
実際には国を守るための手段のひとつだった。
フラットベース王は人間と魔族の道を最後まで模索する姿勢と国を守り抜いた。
逆に言えば、俺たちガードナーと亜人種は王を守れなかった。
俺たちガードナー一族はディフィードを作り、リッツ持つ阻害を完全に生かす形で守りを強くして行った。
そして、条文はフラットベースに宛てたものだった。
だから、結局フラットベース王の首ひとつで全ては解決した。
ディフィードやミデミアムは戦争に介入しないことで、ここまで国を守ってきたんだ。
ーーーーー。
サーベルは語り終えるとゆっくりと息を吐く。
「でもまさか、フラットベース王の血筋が生きていたとはな。……国を裏切った、そういうことなのかもしれないな。」
サーベルは悲しそうな顔をする。
王は最終的には俺たちガードナーや亜人のことを信じなくなった。
王族を生き残らせるための方法だとは思うが、サーペルのように捉えてもおかしくはない。
そして、レストの言葉通り、もし、裏切っていなかったら、王の意見に賛成していれば、なにか方法があったかもしれない。
それは事実なのだろう。
つまり、俺たちは王を裏切ったことで生き残った。
そういうことなのか。
「親父が生きていたら、間違いなく、王を守っていたさ。最後の最後まで。……どうだ、俺が知っている限りの事は話したぞ。」
「ありがとうございます、お父様。」
「感謝するのは、俺の方だよ。せめて、彼らが生きて国を築いていて良かった。」
「お礼なら、チーノとデミに言ってやってください。俺は、なにも知りませんでしたから。自国のことすら。」
「……そう悲観するな。外部の人間に教える必要は無いと思ったんだ。……お前にはこの世界に来てから色んなことに巻き込ませている。……前世、辛かったんだろ?少しは自由に生きて欲しかったんだ。……まあ、殺そうとしてたやつが、なに急に父親面してんだって、話だけどな。」
「いえ、ありがとうございます。」
「でも、分かってくれ。俺たちはそういう道を選んだ。もうこの国はそういう国なんだ。それに今更、フラットベースの一族に手をかそうとしても、レスト様のように敵意を向けられる。……すまないな。」
ーーーーーー。
俺は瞳を開ける。
「元気にしてるかな。レスト。」
出発の準備が整った俺は女性陣の準備の遅さに飽き飽きしながら、思い出に耽っていた。
今はガーディアンの身分を利用して、用心棒をこなしたり、財宝の警備などをしたりして、生計を立てている。
今の世界の情勢は、それはひどい。
魔族との戦争に勝利したセインペト。つまり、純粋な人間で、セイクリッドの適正を持つ存在のみが得をする世界。
それ以外の力を持たぬもの、人間では無い存在は、多額の税を課せられたり、奴隷にされたりしている。
そうした、力のない存在を受け入れているのが、エランティア。
だが、それは表向きの話だ。
実態としては市民全てを兵士とし、後にセインペトへ進行することが噂されている。
疲弊した国々を次々と取り込んでいるらしい。
セインペトのみが得をする世の中を変えよう、そう立ち上がった唯一の国である。
ミデミアムは財政難が続いているが、ディフィードの支援もあり、なんとか持ちこたえている。
ディフィードは、もともとフラットベースが収めていた領土の殆どをフラットベース王から貰っているため、セインペト、エランティア、の次に国力がある。
セインペトとエランティアの小競り合いは続いており、幾度なく戦っている。
だが、互いに消耗戦が続いているだけ、というのが正しい。
主に大きな国や他の小さな国たちは、魔族が滅んだ今争う必要は無いと、傍観を極めている。
いま戦争に加担しているのは、商売人、セインペトやセイクリッド、不当な差別を受け立ち上がったエランティアだけである。
「すみません、遅れまして。」
「少し、のんびりしすぎましたぁ」
「マイペースなことで。」
俺は呆れてように言うといつものように、3人で旅に出る。
馬車に乗り、出発する。
俺は馬に乗り、2人は後ろの荷台で休んでいる。
俺、尻に敷かれるタイプなのかな。
「そういや、今向かってるビーグはモズールの近くだな。寄っていくか?」
俺はリアスに向かって話す。
そういえば、普通に話しているが、リアスは、あのフラットベース家の娘なんだよな。
彼女はそこら辺どう思っているのだろうか。
「ええ!寄ってくださると嬉しいです!お兄ちゃんもリバイア様が来て下さると喜ぶと思いますし!!」
何も考えてないな、リアスは。
満面の笑みでリアスは高揚する。
「相変わらず、お花畑ね。リバイアにもバカにされてるわよ。」
「ほえっ!?なにか、まずいのですか!?」
「ん、まあ、レストには会いたいし、あいつ自身も大丈夫だと思うけど。俺が国に入るのは、まずいかなって。」
というか、今更だが、彼女はなんと言って家を出てこれたのだか。
「大方、レストが上手く手配したのよ。あいつ、バカ王子って噂されてたけど、子供の時だけみたいね。」
俺の心を読んだのか、チーノが納得のいく答えをくれる。
「へ!?え!?なんですか!私だけ、置いていかないでよ!!護衛ですか!護衛はモグさんがしてくれてますよ!!!」
俺は衝撃のあまり、馬車を勢いよく止める。
「はぁああああっ!?」
俺は驚きのあまり、大きな声を出す。
「に、2年だぞ!?なんで、なんも言ってくれなかったの!?」
「え、えっと。お兄ちゃんに適当に誤魔化せば、あいつ、2年ぐらい詮索してこないぞっていってて、揉めてもやだし、それでいいかなって。」
俺は頭を抱える。
あいつ、俺のことよくわかってんな。
俺は基本、人の事情には踏み込まないようにしている。
話してくれたことを鵜呑みにしてしまう悪い癖だ。
「あはははっ!してやられたわね!リバイア!」
「てか、お前!チーノ!心読めるなら分かってただろ!」
「いいえ、私!基本、貴方の心以外読みませんよ?最初、旅をしたいってリアスが言った時、悪意はなかったですし、問題ないかなと。」
「ええ。別に家を無断で出てきた訳では無いですし、むしろ父上は『おお!そうか。よく世界を見てきなさい。』って言ってくれましたから。」
「なるほどな、で?なんで、モグ?」
問題がないことはわかったが、モグが着いている理由がわからん。
「俺の事はどうでもいいだろ。普通に姫様の護衛だよ。闇の力を暴走させたあと、王子様が助けてくださったんだよ。」
どこからともなくモグの声が聞こえ始め、目の前に姿を現す。
こうやって、隠れたいたわけか。どうりで気が付かないワケだ。
「……なにも悪いことはしねえさ。お前が姫様に手を出さなきゃな。……あっ、チーノ・パステワードで性欲を満たす分にはなにも、指示されてないからいいぞ?」
「一言余計だ。」
「あら、物分りがいいじゃない。リバイア、今日にでも?」
「だめ!だめですぅ!禁止!禁止!モグ様、止めくださいね!む・し・ろ!私は止めなくていいのです!」
「わー!!!うるさい!訳わかんなくなるから、みんなボケるのやめろ!!」
ーーーーー。
要約するとだ。
レストはモグに闇の力を渡していた。
そして、その力が暴走してしまったことにより、大きな被害を被ったメサイアは、モグを監獄に送ろうとした。
だがそれをレストは止め、モズールで引き取ることにした。
そして、俺らがメサイアにいる間モズールで一般兵となっていた。モズールで兵士長にまで上り、特別にメサイアで試験を受け、筆記・実技ともに認められ、ガーディアンに任命されたらしい。
ちなみに余談だが、モグがメサイアに行っている間は、俺がブロックで戦ったガーディアンがリアスの護衛をしていたらしい。
2人ともなんで声掛けてくれないんだよ。
ーーーー、
「そうか、でも驚いたよ。モグがそこまで努力するなんてな。」
「あの時は暴走してしまったが、お前の言ったことが正しいと思ってな。王子様が、わざわざ助けに来た時、思ったんだ。やり直すチャンスだって。……いつも俺は自業自得だったからな。信じてもらえるか分からないが。」
「信じていいですよ、そいつ、嘘は言ってません。元々、デミを襲ってたのは彼女がタイプだったからみたいですよ。」
「あのな、今モグの改心してるいいシーンなんだよ。やめてやってくれ。」
「いいや、分かっててやったんだ。正直に心をさらけだして、信じてもらいたくてな。……それに重くなるのはあんまり好きじゃないんだ。んで、リバイアさん的には、合格かい?」
「べつに、周りの信用勝ち取って、お前はそこにいる。俺がとやかく言うことではないさ。……遅くなったが、よろしくな。」
「ありがとう。……ん?…はは、お前といると暇しないな。なにか強いやつが来るぞ!」
話に区切りが着いたところで、モグの言う通り、ものすごく強い気配を感じる。
「まったく、色々慌ただしいな。」
俺たちは警戒心を強くし、戦闘に備える。
刹那。
現れたのは、傷だらけの女騎士であったーーー。
「……っ。頼む、わた、私を、モズールにつ、連れていけ。救世主を見つけなければ……ならな……」
青い髪の凛々しい女性はそのまま、倒れる。
俺たちは急いで彼女の元に駆け寄る。
「大丈夫か!しっかりしろ!まってろ、今手当を!」
「私はいい……!早くしないと……エランティアに……ミデミアムが飲み込まれる……!」
「なっ!?」
女騎士によって語られた衝撃の言葉。
俺は胸騒ぎがするのを感じていた。
そして、これが大きな戦争の始まりを示唆しているなんて、この時の俺は知る由もなかったんだ。
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