第14話 辿り着いた答え


 突然現れた青髪女騎士、彼女が語ったのは、亜人国家ミデミアムがエランティア帝国に飲み込まれるという旨のことだった。

 

 「な、なんだって?」

 俺は耳を疑った。

 

 だが、彼女は怪我を負っている。

 

 ひとまずは回復させた方がいい。

 

 だがーーーー。

 

 「どうやら、訳アリのようだ。俺はお嬢様を守る。お前はすきにしろ。」

 

 傍らに立つモグは、青髪女騎士とは、別に他の気配があることを俺に伝える。

 

 「騎士様、俺ら雇いますか?そしたら、助けられます。」

 

 「くっ。そうだな。……私はモズールに行きたい。貴公らを雇おう。」

 

 「あいわかった。じゃあひとまず、リアスは騎士様を回復。モグは防衛。俺とチーノで倒すぞ。」

 

 全員が頷く。

 

 固唾を飲み込む中、もうひとつの気配がやってくる。

 

 「また、面倒なことを。」

 

 現れた男は、いかにもな格好であった。

 黒いローブを深くまで着こなしており、顔は見えない。声からして男だろう、ということだけ分かる。

 

 「その方を渡してくれるかな。私も仕事なのでね。」

 怪しげな喋り方で、ローブの男は話す。

 

 「奇遇です。私達も先程雇われましたので。……行きますよ。」

 

 俺は一声かけるとチーノと共に飛び出す。

 

 俺は小手調べに身体加速、能力値上乗せを使用。

 

 「「セイクリッドスキル・裁き!!」」

 

 俺とチーノは同時に裁きを発動し2倍の威力となったスキルを男にぶつける。

 

 煙が舞い上がり、男が無傷で現れる。

 

 「まあ小手調べってところですかね。どうですか。私には効きませんよ。」

 

 確かに、まるで効いていないようだった。

 それどころか避ける気配や何かをして様子すら、見られない。

 

 「そ、ソイツはセイクリッドスキルが効かないんだ。どういうカラクリか分からないが、ほぼ全てのスキルを無力化してくる!」

 

 「動かないで、傷が開きます。」

 

 リアスに回復されながら、女騎士は俺たちに忠告してみせる。

 

 「スキルが効かない?」

 「これは……ワタクシでは対処出来なそうですね。」

 俺とチーノは頭を抱える。どう戦うべきか。

 

 「まあ、面倒ですし。説明しますか。私にはありとあらゆるスキルが効きません。効くのは物理攻撃のみです。」

 

 「なるほど、スキル無効がユニークスキルな訳か。……俺と近い存在って訳か。そんな大層な力を持ってるってことは、どこかの組織のお偉いさんか?」

 

 「生憎、私は雇われて力を借りてるまで。……私本来の力ではありませんよ。私が受けているのはそこにいる『キュリア・ベスト・エランティア』の確保です。」

 

 まったく、どうしてこの世界は国の名前をつけたがるんだ。

 

 そして、俺は毎回王族と会いすぎなんだよな。

 

 「キュリア・ベストといえば、最強の剣術使いとして有名じゃないか。」

 

 リアスを守りながらモグが説明してくれる。

 

 「モグ知ってるのか?」

 

 「ああ。パラディンの中でも最強と言われてる。何でもどんな剣術も見ただけで取得できるらしい。パラディンスキルにおける剣技全てを自分の能力に変換して戦うと言う。」

 


 なんだそのチート能力は。

 

 でもそうなると疑問が残る。物理攻撃最強のキュリアをスキル無効の男が倒せるのか?

 

 「ちっ。名前がバレてしまっては仕方あるまい。……私はスキル耐性がまったく無くてな。むしろスキルによるダメージが3倍になって返ってくるんだ。」

 

 回復が終わり、立ち上がるキュリア。悔しそうに自分の弱点を話す。

 

 チートには代償が付き物ってわけか。

 

 「避けたり、遠距離からの攻撃をしたりと、やってみたが、奴は『視覚を奪うスキル』を持っているんだ。」

 

 「……視覚を奪う?」

 俺は胸の奥底から嫌な感情が湧き上がるのを感じていた。

 

 男の顔を見やると不敵な笑みを浮かべている。

 

 ーーーーああ、そういうことか。

 

 俺はこの顔を知っている。ひとを虐げてきた人間の顔。

 

 自分の欲望しか見いだせない醜い存在。

 

 「先程の話からして、やつ自身の能力だろう。……済まないな。このことに巻き込んでしまって。」

 

 「………。」

 

 「……リバイア?」

 

 周りの声が遠く聞こえる。

 チーノが俺の様子に声をかけている気がする。

 

 何だこの感情は。

 

 「……これで怖気づきましたか?さすがにこの人数相手にするのは面倒なんですよ。彼女を渡して下されば。それで構いません。……なーんてね。」

 

 男はいやらしい顔をすると、全員の視覚を奪う。

 

 心がザワつく。怖い。想像していた通りの人間だ。

 

 だが、それよりも、こんな思いをした人が沢山いる。

 

 そして、今俺の仲間も危険にさらされている。

 

 オトコは汚らしく舌なめずりすると、爆発したように叫び出す。

 

 「こーんないい女いっぱいいて普通に返すわけねーだろ!!!めっちゃくちゃに犯しまくってやるよ!!!それにエランティアの姫騎士だぜ?最高かよ!!!男もいい男ばっかりだァァ!ババアに高く売れるぜ!!!」

 

 言葉の全てが不快だ。

 

 感謝するよ。お前みたいなクズで良かった。

 

 その能力を持っているのが、お前みたいなクズで。

 

 「くっ!まずいぞ!!!この変態野郎!!……くっ!!リバイア!!!」

 

 モグが大きく叫ぶ。

 

 ーーーーー分かってるよ。こんな力存在していいはずがない。

 

 「……バリアランス」

 

 「ぐふぉっ!?な、何故だ!?見えていないはずなのに!!!!」

 

 見えていなくてもわかる。

 

 「8本か?お前に直撃したのは?」

 

 俺は低い声で男に向けて話す。

 

 「……なっ!?」

 それまで、得てきた常識を覆されたような声を出す。

 

 「……バリア」

 

 俺は周りにいた男以外にバリアを展開する。

 

 「な、なんだ!?全員の体が光出した!?」

 

 俺はゆっくり、ゆっくりと男に近づいていく。

 

 「な、なんだお前ぇええええ!!」

 

 男は俺に向かってナイフのようなもので斬りかかってくる。

 

 「バリアっ!」

 

 俺は前方にバリアを展開させる。

 

 攻撃は反射し、男は吹っ飛ぶ。

 

 「リバイア?」

 

 チーノが困惑した声を漏らす。

 

 「…その力で、今まで何をしてきた。」

 

 俺は男に高速で近づく。

 

 「な、何怒ってんだ?こええよ!お前!人間じゃないだろ!!今までこんなこと無かったぞ!!……た、確かに視覚しか奪えないが!それで色んないい思いをしてきたんだ!!あのキュリアだって視覚を奪ったら、逃げるしかなかったんだ!!!」

 

 男は地面に座り込んでいる。

 

 声が下から聞こえる。

 

 酷く怯えた声だ。

 

 そうか、今の俺は怒っているのか。

 

 「スキル無効なんだよな?ならどれだけスキルをぶつけても死なないんだろう?」

 

 「ああああっ!!!やめ、やめろ!!!!」

 

 俺は男の手足にバリアを形成する。

 

 「なんだ!?なんだこれ!!」

 

 地面に固定して形成したバリアは、こいつでは剥がすことは出来ない。

 

 こいつはバリアの効果を知らないから。

 

 「な、なんでだ!?なんで、スキルを無効しない!!」

 

 「知らないのか?耐性や無効のスキルは自分にかかるスキルのみを無効にするんだ。お前のその枷はいまは攻撃としてカウントされていない。」

 

 「じゃ、じゃあ!?対象が俺じゃなければスキルは効くのか!?」

 

 「当たり前だろ?……お前がやってきた事を返してやるよ。」

 

 「な、何言って……」

 

 「神の裁き。」

 

 俺は手に裁きを付与する。

 

 「お前も……神の祝福を持っているのか!?」

 

 「……っ!!!」

 

 俺は思いっきり男を殴る。

 

 「ぐはっ!?」

 

 俺はひたすら男を殴り続ける。こんなものでは足りない。こいつは動けない目が見えなくなった人をいいように使ったんだ。

 

 この程度の裁きで済むはずがない。

 

 「き、貴様っ!!調子に乗るなぁあああっ!!」

 

 男は俺に向けて様々なスキルを繰り出しているようだ。

 

 「……は?な、なんだお前!?スキルを無効にしているのか!?なんなんだよ!!!その目はっ!?」

 

 「……ああぁあああっ!!!!!」

 俺の中で何かが爆発したような気がした。

 

 ーーーーーそこからの記憶が無い。

 

 男はその後オレに殴られ続け、失禁し、全員の視覚を返すまで俺は殴り続けたらしい。

 

 最後に男は恐怖のあまり、気絶。

 

 その後、然るべきところに送り、わかったことは強盗、強姦など、数々の悪行を行ってきた指名手配者だった。

 

 「……取り乱した。すまない。」

 

 「そーね。もう何日か休みなさい。」

 ビーグ宿屋の自室。

 

 俺は少しチーノと二人で休暇を取っていた。

 

 リアスやモグ、キュリアはモズールへ向かったらしい。

 

 「私、部屋に戻ります。何かあったら、声掛けてくださいね。」

 

 「…っ。怖かったか?俺は。……引いたか?」

 

 今俺は自分が怖くなっている。

 怒りに任せて、あんなことをしてしまうなんて。

 

 「一歩間違えたら、殺してた。」

 

 「……そう、でしょうね。」

 

 「みんながいなくなる気がしたんだ。すごく怖かった。……でも!俺はっ!!!」

 

 自分の奥底に眠る嫌な記憶。

 

 タクトに拘束され殴られ続けたあの日々。

 

 「俺は……なんのために……」

 

 この世界で頑張ってきたのだろう。

 

 俺は彼を否定していた。

 

 そんなやり方ではなく、常に最善の方法を尽くしてきた。

 

 ただ戦うだけでは得られないことがあると知っていたから。

 

 それなのに、俺はあいつと同じことをした。

 

 相手が悪なら、自分の正義に反するなら、人を殺してもいい?

 

 そんなバカげた話があるわけが無い。

 

 あの男にだって何かしらの事情があったかもしれない。

 

 それなのに、俺は一方的に暴力で解決した。

 

 「怖くはなかったです。ただひたすらに、貴方は自分のためではなく、人のために怒っていた。……それだけは伝わっていましたよ。……それにあの『スキルを無効にする瞳』。あの力の暴走でしょう。とりがーは確かに貴方の感情かもしれませんが。……どちらかというと、私は貴方がどこかへいってしまうよな、そんな気がして。あなたがあなたで無くなる、そういった怖さはありましたよ。」

 

 「……そうか、ありがとう。」

 

 ニコッとチーノは微笑む。

 

 そして部屋を後にしようとする。

 

 その腕を俺は引っ張り抱き寄せる。

 

 「キャッ!」とチーノが可愛らしい声を出す。

 

 「……少しだけでいい。」

 

 「……大丈夫。私はここにいますよ。」

 

 

 俺はこの日、失う怖さと我を忘れる怖さを知った。

 ーーーーーーーー。

 

 

 翌日、合流したリアスとモグは深刻そうな顔をしていた。

 

 「体は休めましたか?リバイア様。」

 

 「ああ。色々任せてすまなかった。……ゆっくり休めた、ありがとう。」

 

 「本当は私も付きたかったのですが、キュリア様は国を追われたとは言え、王族ですので。」

 

 「ああ、そうだよな。」

 

 どうやら、キュリアは現在のエランティアに不満を持ち、動いた1人らしいが、国によってそれは拒絶され追われる身となったらしい。

 

 キュリアを襲っていたあの男は、セインペトからの使者でエランティアの内情を探っていたらしい。

 

 国を追われ逃げることになったキュリアは運悪くあの男に遭遇し、今に至るというわけだ。

 

 「キュリア様はエランティアが召喚した『救世主』を探していたそうです。」

 

 聞きたかったひとつの話はそれだ。

 

 「エランティアで召喚した者たちは各地に召喚された……合ってるか?」

 

 「はい、そのうちの二名。私とお兄ちゃんは、たまたま力を手に入れました。その情報が巡り巡ったらしく、残りの一人『救世主』はモズールにいると、噂されていたらしいのです。」

 

 「救世主の力を使えば、セインペトも止められるし、セインペトさえ止めてしまえば、戦争は終わるとそう踏んだらしい。」

 モグがリアスの説明に付け加えてみせる。

 

 「なるほどな。で?その後は?」

 

 「救世主様はモズールにはいませんので、どうにもならないというのが國の返答です。モズールも色々あったので、戦争には関わりたくないというのが姿勢です。」

 

 「まあ、そうなるよな。……残る問題は……」

 「ええ、ミデミアムの件ですわね。」

 チーノが俺の言葉に続く。

 

 エランティアとセインペトの下りは今に始まったことではない。

 

 救世主とやらも今のところは分かっていない。

 

 だが、現状気になるのは、ミデミアムがエランティアに支配されるというもの。

 

 「モズールもディフィードも独自の政治で国をまわせている。エランティアはもちろん、色んな国が集合して、成り立っている。セインペトは言うまでもないしな。」

 モグが考えを口にする。

 

 言いたいことは伝わってくる。

 

 つまりは、ミデミアムはエランティアにとって打って付けという訳だ。

 

 財政難が続くミデミアム。そして戦闘力の高い亜人種。

 

 そして、セインペトが嫌う人種。

 

 ここまで条件が揃っていて燻り続けている火が、ミデミアムに飛ぶのは必然だろう。

 

 「お父様もこればっかりはどうにも出来ないよな?」

 オレはチーノに答えを問う。

 

 「2年前の感じならね。考え方的には今のモズールと変わらない答えになりそう。……多分事情は知らなかったでしょうけど、この状況で動けるのはモズールだけよ。」

 

 確かにその通りだった。もし、以前のフラットベースが現在ならこんなことにはならなかった。

 

 別れてしまった国々。遺恨の残る中、黙っていることしか出来ないのだろうか。

 

 「……まだ悪い話はある。」

 「これ以上か?」

 

 「はい。もう、1度ミデミアムとエランティアがぶつかっているのです。……そして、ミデミアムは負けています。」

 

 「ってことは……。」

 

 「ああ、どうやら、遅かったようだ。もうミデミアムはエランティアの領地になっている。……こうなると、どうなるか、分かるか?」

 

 「……戦争が始まる。」

 

 ミデミアムを手に入れて更に軍事力を上げたエランティア。

 

 このまま、行けば軍事力だけでセインペトを制圧できる。

 

 ここで、セインペトがやることはひとつだ。

 

 「……セインペトが動きました。モズールに進行しています。」

 

 「……俺は……。」

 

 モグが俺の肩に手を乗せる。

 

 「お前は今回の件で、自分勝手さを知った。……だが、それが、なんだってんだ。……お前はそのまま、その能天気さで、これまで何とかやってきたんじゃないか。……ぶつかることを恐れるな。俺たちにできることなら手を貸してやる。……だから俺とお嬢様は戻ってきたんだ。」

 

 ニヤリとモグは笑ってみせる。

 

 「そうだな。……やれるだけのことはしよう。……また暴走するかもしれない。それでもついてきてくれるか?」

 

 俺は全員の顔を見渡す。

 

 「なんのために旅してきたと思っているのよ。この世界を学ぶためでしょ?今こそ、私達の出番じゃない?」

 

 チーノは得意げに語る。

 

 「私も同じ意見です。……私たちが動けば、世界は変えられます。それほどの地位と力を持っています。」

 

 「……今度は、エランティア、そして世界を救って見せろよ?リバイア。俺はお前に守る力を教わった。力には限界がある。……でも守ることに限界はない。……そうだろ?バリア使い!!」

 

 「ああ!!!いくぞ!!!」

 

 ここから戦争を止めるために俺達が動き出した。

 

 それは言うまでもないだろう。


ーーーーーー。


俺はひとまず、ディフィードに帰ることにした。話すだけ話してみようと思う。どっちみち、戦争が本格的に始まろうとしている。

俺達が『ガードナー』であるのなら、守るはずだ。


「バリア使いか……。」


俺は馬車で移動中、1人考えを巡らせる。

 

 ユニークスキルは人それぞれの価値観を反映したものになると言う。

 

 チーノなら、『知りたい』。

 

 レストなら『圧倒的な力』。

 

 リアスなら『生きたい』。

 

 

 なら俺はーーーーー。

 

 『守りたい』その気持ち。

 

 そうだと思う。

 

 心を乱すのではなく、俺は守ることで世界を変えてみせる。

 

 自分を変えなければ、世界を変えることは出来ない。

 

 昔、何かの言葉で読んだ記憶がある。

 

 全くその通りだと思う。

 

 衝突を恐れずに、自分の闇を受け入れて俺は前に進むよ。

 

 

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