第11話 見てきた世界


 もうすぐ、進級試験が控えている今日この頃。

 

 俺はと言うと、変に緊張し朝早く目が覚める。

 

 俺たちの住むこの大部屋は各部屋があり、中心にリビングあるという設計だ。わかりやすく言えば、シェアハウスという形だろうか。

 

 メサイアに入門して2年が経つが、特にルームメイトと話したりはしていない。

 

 だが、みんなが困った時は助ける、そういう風潮はある。

 

 みんなそれぞれに事情を抱えており、それを探らず一定の距離を保ってきた。

 

 少なくともオレはそうしてきたつもりだ。

 

 決して仲が悪いとかではない。他愛のない世間話とかはする。

 

 俺たちの関係はそんな感じだ。

 

 

 部屋のカーテンを開ける。心地の良い日差しが俺を照らす。

 

 ふと、思いにふけってしまう。

 

 こういう静かで一人の時間になると、色々考えてしまうよな。

 

 「……この世界に来てから、色々あったな。」

 

 12年前、俺はこの世界に生まれた。

 

 急に異世界に来て、知らない土地で、ワクワクしつつ、不安を抱えてた。

 

 父親なら頼れるとそう思っていたが、異世界人はこの世界では生きづらく、何故か戦うことになったり、変に因縁持たれて、モグが暴走したりと。

 

 それでも、前世よりは人生を謳歌できていると思う。

 

 前世の俺、衛藤立生は生きることで精一杯。自分を変えようとはせず、世界が変わるのを待っていた。

 

 人と積極的に関わったり、自分の道を切り開こうとはしなかった。

 

 そんな俺が異世界に来て、結局どこの世界にいたって、努力無しじゃ何も出来ないことを知った。

 

 そして、戦争をしている世界でいかに自分が幸せであったかを知った。

 

 結局俺はこの世界でも裕福な家庭で育ったせいでそこら辺の感覚はまだ足りていないが。

 

 それでも、チーノやデミと関わって、世界の理不尽に苦しんでいたのは自分だけではなかったと思い知った。

 

 そして、前世の俺がいかに、周囲と関わっていなかったか、そして、自分のことしか考えていなかったか。

 

 「未だに、ルームメイトのことも知らないけどな。…まあみんなそれなりに大変な人生なんだよな。」

 

 4つの召喚。少しアタマによぎる。

 

 「俺がなんで、異世界に来たか……考えなかったな。とにかく、この知らない世界でどうして行くかばっかりだった。まあオレは自殺を試みてたようなやつだからな。……ようやく、なにか掴めそうなんだ。この世界に来て、過去の後悔を知って、やるべきことが見えそうなんだ。」

 

 だから、俺がこの世界に来た意味とか、勇者とか、闇の魔法とか、今はとりあえず知らない。

 

 「進級試験、受かって、さらに強くなるんだ!」

 

 オレはモヤモヤと浮かぶ霧を晴らすかのように、気合いを入れ直す。

 

 なるようにしかならない。

 

 俺はこの世界で能天気に生きるって決めたんだ。

 

 前世の経験を糧にして、前に進むだけだ。

 

 そのためには、この世界で生きる力が、必要なんだ。

 

 「んー。喉乾いたな。」

 

 オレはリビングへと足を運んだ。

 

 「あら、おはようございます。リバイア様。」

 

 「おぉ。はやいな。リアス。」

 

 リビングに着くと、リアスが出迎えてくれる。

 

 お茶の用意をしているようだ。

 

 「一杯、頂けるかな?」

 「ええ、もちろんです。今日はお早いんですね。」

 

 「ん?ああ。なんか緊張してな。そこまで対人戦の経験がなくてな。」

 

 俺はソファに腰掛け、リアスに向かって話す。

 

 相変わらず、透き通るような白い肌。綺麗に煌めく、金髪。

 俺を捉え離さないその蒼き瞳。

 

 どこまでも、ユノを思い出す幼い顔立ち。

 

 魅せつけられる。どうしても胸が高鳴る。彼女を見ていると、淡い恋心が疼く。

 

 「対人戦の経験がなくとも、貴方は負けはしないでしょう?」

 

 「まあ、そうなんだけどさ。」

 少し、思い出して悲しくなる。

 先の戦い、リアスは大活躍だった。

 今回チーノは守りに徹したが、彼女だって強い。

 

 そして、あの二人。同い年とは思えないほどに強かった。

 

 「人それぞれ、ですよ。リバイア様には、他の方にない力が、やり方があるはずですよ。」

 俺の考えを読んだのか、リアスが助言をしてくれる。

 

 「そんなもんかな。」

 話しているとカップにお茶が注がられ、目の前に出される。どーぞと促され、口にする。

 

 「おぉ、こりゃいいな。」

 「少しお高いのを用意しました。」

 

 にこやかに、リアスは微笑み、隣に座る。

 

 この子、ユノと違うとすれば、近いんだよな、距離が。

 

 ドキドキして、お茶の味がわからなくなる。

 それよりも、花のような女の子らしい、リアスの香りで心が満たされる。

 

 「リアスはどうやって、あんなに強くなったんだ?レストの話じゃあんま体良くないんだろ?」

 

 「ええ、まあ。昔はそうでしたね。……せっかくですし、はなしましょうか。うふふ。前回はタイミング逃しましたからね。」

 

 「いいのか?俺に話して。あんまり、言いたくないんだろ?」

 

 「まあ、言いたくないわけでは無いんです。……ただ、信じて貰えないことが多くて。私はずっと家に引きこもってましたから。世情に疎くて、お友達も出来なくて。……きっと、変な話なんだと思います。よく、パステワード様にもメルヘン女って言われますし。」

 

 「……あはは。チーノはまあ、毒舌なとこあるから。…そ、それでも、仲良くしてくれてるだろ?あいつもあんまり、そういうの上手くないんだよ。」

 

 「あ、はい!そこは大丈夫です!パステワード様はとてもお優しいんです!私、大好きなんです!」

 

 この子、距離近くて、チーノやりづらいだろうなあ。

 

 そういや、ユノも興奮するとこんな感じだったよな。自分に自信ないところも、興奮して距離近いところも、病弱なところも似てる。

 

 もし、彼女も生きてここにいたら、こんな風に話していたのだろうか。

 

 どうしても彼女を重ねてみてしまう。悪い癖だ。

 

 オレも彼女も死んだんだ。

 俺はたまたまこの世界に転生した。

 

 決意したはずなのに、ユノのことになるとダメだな。

 

 ユノの事を思い出すと、向こうの世界のことも連想してしまう。

 

 家族はどうしているのか、生きていたら、俺はどう生きてどうしたのか、タクトと仲良くできていれば、あんな結末にはならなかったのか、タクトはあの後どうなったのか、俺にはどうして、あの日変な出来事が起きたのか、……。

 

 こうなるから、整理して、今お茶を飲んでいるのにな。

 

 俺は深呼吸をする。

 

 「せっかくだから、話聞かせてくれよ。」

 

 「はい!!」

 リアスはにこやかに話し始める。

 

 だが。

 

 刹那。俺の思考は停止した。

 

 答えは簡単だ。

 

 目の前の少女、フレリアスが語り始めた一言で、何かが繋がった気がしたからだ。

 

 「ーーーー私、別の世界で生きていたかもしれないんです。」

 

 「……え?」

 

 どこかで考えていた妄想が、今、現実になろうとしている。そんな気がしながら、俺は考えても無駄なことはやめて、目の前の少女の話に集中することにした。

 ーーーーーー。

 

 わたしは生まれてまもなく、病弱で、スキルも持たず、看病が必要なほど弱っていました。

 

 この世界では病気や怪我はすぐに治せます。

 

 しかし、生まれ持ったモノや呪いの類、寿命は変えられません。

 

 私の体の悪さは、生まれ持ったものに値いしました。

 

 つまりは、生まれてまもなく、死ぬ事が決まっていたのです。

 

 それでもなんとか、命を繋ぎ止め、5年、生きました。

 

 徐々に体は蝕まれ、死を待っているような、退屈で不安で、生かされているという状況が続いていました。

 

 生きている心地がしなくて、死というものが徐々に近づいてくるような感覚。

 

 それが襲ってくるんです。

 

 こわくて、辛かった。

 

 そんな時、ふと思ったんです。

 

 私はなんのために生まれて、どうして今こうしているのだろう。

 

 なぜ私だけみんなのように遊べないのだろう。

 

 兄のようにヤンチャに過ごすことが出来ないのだろう。

 

 そう思ったんです。

 

 そして、強く願いました。

 

 『私、生きたいよ。生きて色んなことをしたいよ。……ねえ神様、私は何をしたらいい?』

 

 私に出来ることはただ、願うことだけ。それだけだったから。

 

 せめて死ぬ前に、こんな運命を背負わせた神様に会いたかったのです。

 

 たった一つの光を信じたかったのです。

 

 そんな時でした。私に一筋の光がさしたんです。

 

 体は眩しいほどの光に包まれ、声が聞こえたんです。

 

 『転生完了。ユニークスキル光の加護を獲得。一部記憶にエラー。……』

 

 延々繰り返される謎の無機質な声。

 

 理解も出来ずに、ただそれが終わるのを待っていました。

 

 そのうち、私は眠ってしまい、ひとつの夢を見たんです。

 

 『あなたがやるべき事は、もうひとつに別れた自分を探すこと。そして、きっと彼を好きになること。今度は自由に生きていいんだよ。』

 

 優しい声でした。どこかで聞いたことのある、まるで自分のような、安心感のある声でした。

 

 顔はよく見えなくて、見たことも無い船乗りのような服を着ていて、不思議と馴染みがある短いスカートを履いていました。

 

 その彼女は夢だったのかもしれません。でも、私に道を示してくれました。

 

 それ以来私の体は徐々に回復していき、不思議な世界や未知のことに興味を持つようになりました。

 

 あれは奇跡だって、はっきり今でも思ってます。

 

 そして何より、自分が何者なのか、誰かを探さないといけないのか、好きになれるような相手ができるのか、色んなことを知りたくなりました。

 

 だから私はきっと異世界から来て、記憶をなくしてしまったお姫様なんじゃないかって、勝手に思ってるんです。

 

 メルヘンって言われたらそれまでですけど、希望や奇跡はこの世界にはあるんだってそう思ってます。

 

 ーーーーーーー。

 

 「ふぅ。この話最後まで聞いてくれたのリバイア様がはじめてですよ。」

 

 話終えると、リアスは一息つく。

 

 たしかに、メルヘンな話だ。

 

 だが、無機質な声には聞き覚えがある。

 

 それに事実、彼女の体は回復した。

 

 そして、彼女は光の属性を使える。

 

 光はエルフが得意とするような属性だ。

 

 そしてこの間の白い盾。

 

 彼女は召喚の門によって生まれた可能性が高い。

 

 もしくは、何らかの経緯で、光の力を与えられたか。

 

 「そうだったのか。まあ生きてる理由なんて人それぞれだし、俺は否定しないぞ?……俺も奇跡や運命ってのはあると思う。……自由に生きるか……。せっかく元気になったんだし、楽しまないとな!」

 

 俺は自分に言い聞かせるように、リアスに向けて言う。

 

 俺も結局のところはそうだ。

 

 生まれ変わった。やり直せる。

 

 今度は後悔しないように。

 

 それが一番の気持ちだ。

 

 「なんだか、リアスの話聞いて、緊張解けたよ。頑張ろうな。これからも。」

 

 「もちろんです!!」

 

 俺は晴れやかな気持ちで、進級試験の試合へと向かった。

ーーーーーーー。

 

 「………。」

 

 だが、現実は甘くなかった。

 

 会場は大盛り上がり。

 

 何が問題か。

 

 それは舞台上だ。

 

 そこでは平気で人殺しが行われていた。

 

 「な、なんでこんなことに」

 

 「降参しないからだな。」

 ふと気がつくと、横にレストが立っている。

 

 「そういうことなのかよ。」

 俺は血が出るほど、強く拳を握った。

 

 「悔しいか?だが、みんながみんな、力があるわけじゃない。本当の意味でここに命をかけに来てるやつだっている。……戦争をやってるんだ。外の世界は。」

 

 「ああ。そうだな。降参しないしないんじゃない。色んなものを背負って戦ってるんだ。……そして、悲しいのは、相手も同じだから、手を抜けないんだ。手を抜いて勝てるほど強くないんだ。」

 

 「そういうことだな。……殺す方が手っ取り早い。諦めないんだから、そうするしかない。気を失わせるなんて、出来るわけないしな。中には殺すつもりがなくて、全力で叩き込んだ一撃で殺してしまった奴もいる。……このメサイアは本気で戦士を育てようとしている。そういうところなんだ、ここは。」

 

 「こんなところで死んでしまうようなやつはいらないって……ことか。だから、止めないのかっ。」

 

 「ああ。……お前はどう見る?この世界。」

 

 「間違ってるって言いたい。でもそういうのじゃ足りない。一人一人が動かないといけないんだ。」

 

 「俺もそう思う。……勝ち上がってこい。俺は決勝まで行く。」

 

 「俺と戦う気なのか?たしかにトーナメント制だ。だが、ポイントを多く取れば、生きていれば可能性だってある。別にそこまでしなくたって」

 

 「確かにその通りだ。だが、ポイントは明示されていない。なら俺らは結果を残すしかない。お前だって強くなるためにここに来たんだろ?本気で来いよ。……じゃあな。」

 

 いつにもなく、敵意が向いていた。

 

 俺はあいつのことを何も知らない。

 

 ふと会場を見ると、一旦休憩に入ったらしい。職員たちが清掃をしている。

 

 「レストのこともっと見ておけばよかったな。何も知らねーや。」

 オレは会場に背を向けて、歩き出す。不意に廊下で見知った顔に会う。

 

 「兄貴は何も知らなくていいと思う。純粋に戦えば。私は、あの人が何をしようとしているのか知ってしまった。だから、止める。勝てないかもしれないけど、私の想いは貫いてみせるよ。」

 

 声をかけてきたのは、デミである。気がつくとデミは俺の事を兄貴と呼ぶようになっていたが、そこはスルーしよう。

 

 それにしても遠くの音も聞き取るデミの亜人としての能力は敵になったら恐ろしいものだと感じる。

 

 俺たちの会話を盗み聞いていたのだろうか。入門時は何も出来なかったのに、偉く成長したものだ。チーノが鍛えたらしいが。

 

 まあ悪意はないみたいだし、ちょうど話を聞いてもらいたかったところだ。普通に会話に乗ろう。

 

 「まったく、みんな色々抱えてんだなあ。俺何も知らないよ。」

 

 「何言ってんですか!兄貴が言ったんでしょ!違いを知って学んでいくのもメサイアの醍醐味ってさ。」

 

 「そんなことも言ったな。まあそういうことなら、俺なりのやり方で行くよ。」

 

 「それでいいと思うよ。」

 デミはしっぽをフリフリ振ってみせる。機嫌がいい時の反応だ。

 

 「ちなみに、デミはいつからレストのこと気に入ってんの?」

 

 「ひゃえっ!?や、やめてくださいよ〜そういうの、苦手なんですから!お、女として見られたことないですし。」

 しっぽが逆立つ。そしてその後、モジモジし始めたデミに呼応するように、クリクリと動くしっぽ。

 

 そして、自信が無いのか耳が垂れ下がる。

 

 「んーそうかなあ。」

 

 俺はデミを見やる。

 

 愛らしい耳やしっぽ、褐色の肌にくせっ毛の茶髪。黄緑色に輝く大きな瞳。

 

 服の上からでも分かる年に似合わない大きな胸。

 

 男なら誰でもツボにハマりそうだけどな。

 

 そりゃあリアスやチーノは偉く美人かもだけど、デミも負けてないと思うけどな。

 

 「見た目とかで判断するような男じゃないだろう?あいつは。俺はあいつのこと知らないけど、悪い奴ではないんだと思う。ただ、たまに闇が見えるって言うか、だからそばにいて支えてやればいいんだと思うよ。」

 

 「そうっすね。」

 鼻の下を擦りながら、恥ずかしそうにデミは言う。

 

 「あら、2人とも。観戦なんて悪趣味。」

 声の方を見やると銀髪の美少女チーノがそこにいた。

 

 「どんなものなのか見に来たけど、ドロドロだな。」

 

 「あら、私の試合を見に来たの!?嬉しいです!!」

 

 「いや、えっと、今日試合だったのか。最近見ないと思ったら。」

 

 「はぁ。あなたって。引いても押してもとことん動じないわね。」

 

 「いやあ俺も色々とあってな。」

 

 「リアスと話す時間はあったみたいだけど?」

 

 「うう。えっと……」

 

 最近のチーノ、前まで見せていた気品みたいなの無くなって、なんかちょっと怖いんだよなあ。

 

 砕けた感じあって、接しやすいけど。

 

 「……その様子だと試合勝ったんだな。無事でよかったよ。」

 

 「……ええ。でもあまり、気持ちいいものではなかったですね。絶対的な力を見せているのに、降参してくれなくて。ヒヤヒヤしながら戦ってましたよ。」

 

 「みんな必死なんだな。」

 

 「デミは次、レストとでしょう?」

 

 「はい、そうなりますね。」

 「死なないように。」

 

 「はい、姉貴に教えてもらったこの力で勝ちます。決して兄貴に助けて貰ったこの命無駄にはしませんよ。」

 

 「そうか。安心したよ。」

 

 ーーーー。

 

 デミ、レストは同じパラディンブロックαでの進級試験だ。

 チーノ、リアスはセイクリッドブロックγ。

 

 そして俺はガーディアンブロックβ。

 

 このブロック分けは、2年間で行った適性の結果、職業にあったブロックに振り分けられてある。

 

 同じような力を持つもの同士が戦うことになるというわけだ。

 

 そして決勝は各ブロックを勝ち残った者が戦う。

 

 ルールは特になく、1対1で勝てばいい。相手を殺しても良し、降参するも良し、とにかく相手を戦闘不能にすることが条件だ。

 

 負ければ退学になる可能性が高い。しかし教師陣の間でポイント加算が行われており、基準は分からないが、例年通りなら、ブロックの最終戦以降は退学になることは無い。

 

 そして、最終的にポイントを集計し上位30名だけがメサイアに残れる。

 

 メサイアの2年の生徒数は約90名。それぞれ各ブロック30名ずつ分けられ、αβγというグループに分けられ5組ずつになる。

 

 だが、だいたい各ブロックの決勝まで行くと全員が降参する。その時点で上位18名は固定だからだ。

 

 「あんたは降参しないんだな?あんた戦うの好きじゃないのによくやるもんだ。」

 

 目の前の男はこのブロック決勝の相手。俺は順調に駒を進め、ここまで来た。

 

 「ポイント加算ってのをそこまで信じてなくてな。1位取っておけば安心だろ?」

 

 「まあたしかにな。例年通りなら何人かは残る。アンタと同じ意見のやつもいるからな。俺もそうしたいけど、アンタには勝てそうにないからな。」

 

 男は去っていく。

 

 そうだ、ここからは意味の無い戦いだ。

 

 だが、メサイア側は例年開催している。

 

 ということは、何か意味があるはずだ。

 

 さて、チーノとリアスは降参しているはずだ。

 

 あとはデミとレストだ。

 

 正直どっちが勝ってもおかしくはない。

 

 前回モグが暴走した際、2人は主戦力だった。

 

 俺はパラディンの会場へと足を運ぶ。

 

 ーーーー。

 

 「フレストVSデミ!!!試合開始!!!」

 

 審判の男が高らかに宣言し試合が開幕する。

 

 「今なら、降参できるぞ?デミ。」

 

 「しませんよ。レスト。私は全力で行きます!!」

 

 「はいよ。気が済むまで打ち込んでこいよ。」

 

 「ユニークスキル・獣化!!!」

 デミは叫ぶと姿を獣のそれに変える。筋肉量は増し、毛は逆立ち、歯や爪はより鋭利に、そして鋭い眼光でレストを睨みつける。

 

 「グォオオオオオオオッ!!!」

 遠吠えのような耳を劈く声が響きわたる。

 

 ヒリヒリとした緊張感が会場全体に広まる。

 

 「こ、こええ。あれが亜人族か。」

 「だが、俺らパラディンの中じゃあそこの2人がトップクラスだ。こんなすげえ試合見れねえぞ。」

 

 「あいつらパラディンの枠に収まらないだろう。見たか?レストの試合!何も見えないまま終わるんだぜ?」

 

 会場がザワついている。

 

 まだスキルを1度発動しただけなのに、凄まじい盛り上がりだ。

 

 「でもありゃ、魔物と変わらなく無いか?」

 「魔力も使えるんだもんな。正直御先祖たちが亜人族を差別したのわから無くはないな。」

 

 まあ中にはこういう意見はあるだろう。

 

 俺だってもし、この世界に来て最初に魔物を見たら恐怖したはずだ。

 

 俺は今デミと出会ってあいつを知ってるからこそ、そうは思わない。

 

 ただ、その違いだ。

 

 「来ないんですか?なら、遠慮なく行きますよ!!」

 デミは叫ぶと、そのまま突進する。スピードもかなりのものだ。

 

 どうやら、獣化は全身体能力の底上げができるようだ。

 

 「パラディンスキル・乱舞!!!」

 

 勢いのままデミは飛び上がり両手を広げ体を回転させながら凄まじい速度で爪の攻撃を繰り返す。

 

 そのまま勢いは留まることはなく、足を地につけても回転速度は、なおも上がり、攻撃回数が増えていく。

 

 だが、一歩のところで全て攻撃を避けられている。

 

 「はぁはぁ。……な、なんで、当たらないのっ!?」

 

 「終わりか?今度は俺からあたりに行ってやろうか?」

 

 「なっ!?」

 

 「殺す気でこい。じゃないと俺は止められないぞ。」

 

 「それなら、パラディンスキル・刹那っ!!」

 

 「消えたっ!?」

 俺は当たりを見渡す。まるで、誰もいなかったかのようにデミの姿は補足できない。

 

 いや、ちがうか?

 

 早すぎるのか?

 

 耳を澄ましてみる。

 

 ヒュヒュヒュ。

 

 風切り音が聞こえる。

 

 なるほどつまり、獣化による身体強化を生かした高速の攻撃をしているのか?

 

 「面白い。死角から仕掛けてくるのか。たしかにそれなら、俺はお前を捉えられない。いい判断だ。だが、考え方次第だと思うぜ。」

 

 笑いながら、レストは目の前に手を出すと何か小声で唱える。

 

 刹那。

 

 「うわぁあああっ!!!」

 何かがレストに衝突したのを捉えたが、その瞬間にデミは吹き飛ばされる。

 

 「何が起きてるんだ?あのデミが手も足も出ていない。レスト、お前何者なんだよ!」

俺はつい心の中で思っていことを口に出してしまう。

 

 「デミ、お前が本気だってのは伝わった。でも、俺は止まる訳には行かないんだ。」

 

 ボロボロになったデミがゆっくりと立ち上がる。

 「そ、それでも、あの人と接してきたなら分かるでしょ!!話せばきっと、分かってくれる!!」

 

 「話は終わりだな。俺にも俺の事情がある。たとえ、あいつが救世主だろうと、俺が見てきた世界があいつを許さない。」

 

 「あ、あいつ本気かっ!?」

 レストの目は本気だ。

 

 「パラディンスキル・剣。終わりだ。幻影斬撃!!!」

 

 デミの影から剣が生成されデミを貫く。

 

 「あがぁっ!!?」

 

 「っ!?」

 

 冷や汗が流れる。これでいいのか?こんなことが許されるのか?

 

 俺には何が出来る?

 

 酷く時間がゆっくり進む。

 

 またこの感覚だ。

 

 これは人生の分岐点だ。

 

 もう何も失わない。

 

 ゆっくりとレストは剣を生成し、そのまま、デミに最後の一撃を与えようとする。

 

 これが決まれば、確実にデミは死ぬ。

 

 だからーーーー。

 

 『やめろォぉぉおおおおおおっ!!!!』

 

 俺は心の底から叫んだ。

 

 レストの動きが止まる。

 

 やっと全て繋がった。

 

 「……身体加速。」

 俺は瞬時にレストの前に移動する。

 

 「大丈夫……ですよ。獣化しているので、た、多少は……。」

 

 酷く苦しそうにデミが話す。

 

 「もういい。あとは任せろ。」

 

 「へへ、やっぱり、兄貴は命の恩人……だなあ。……どうかレストを嫌わないで……」

 

 そのままデミは倒れ、姿は素の女性に戻る。

 

 「審判、彼女を医務室へ。俺はガーディアン代表者、リバイア・ガードナー。これから進級試験、最終戦だ。」

 

 俺はレストを睨みつける。

審判は固唾を飲むように、こくりと頷くと、デミを運んでいく。

 

 「……さすがのお前も、理解したか?」

嘲笑うかのように、こちらを見据えてレストは話す。

 

 「ああ。さっきの影から攻撃する技には見覚えがあった。モグが使っていやつに似てる。」

 

 「やっと、お前と戦える。もうここまで来たら、隠す必要ねーな。」

 

 レストはニヤリと笑い剣をこちらに向ける。

 

 「ユニークスキル・闇の加護っ!!!!!」

 

 レストの周りを覆い包むようにして黒くて禍々しいオーラが解き放たれる。

 

 「アクティブスキル・アビリティプラス。」

 

 俺も同様に新しく獲得したスキルで身体能力を強化する。

 

 これはステータスに加え、全スキルの効果を上昇させるスキルだ。

 

 発動時間は限られているが、レストには本気で行かないと殺される。

 

 それに。

 

 「お前は仲間に手を出すような奴だとは思ってなかった。俺に恨みがあるんだろ。なら、俺に直接来いよ。汚いやり方ばっかしやがって。」

 

 何度も味わってきた。

 

 この感覚。

 

 どこかで気を許していた接しやすい少年。

 

 彼は俺をずっと騙していた。

 

 親身に思ってくれていたデミを傷つけた。

 

 なにより、ずっと一緒にいたのに、信用を得られなかった自分に腹が立つ。

 

 「本気で行くぞ。お前の気持ちぶつけに来い。俺も答えてやる。とりあえず今俺は。無性に腹が立つ!!!」

 

 「ああ。言われなくてもやってやる。瞬殺されんなよ?」

 

 『準備が整いましたァ!!!!ついに、進級試験、最終戦だぁ!!リバイアVSフレスト!!!試合開始!!!』

 

 ついに始まった進級試験最終戦。

 

 相手はレスト。

 

 俺をずっと狙ってきていていた闇の使い手。

 

 「いいかげん、決着つけてやる!!!」

 

 見てきた世界が違うだけで、こんなに想いはすれ違うものなのだろうか。

 

 それでも俺は、今度の俺は向き合ってみせる。

 

 きっとここの先に友達になれると思うから。

 

 

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