第10話 真名

メサイア入門から早2年。

 

 チーノの助言通り、あれから幾度となくモグに襲われる毎日。

 

 俺は敵の正体を探ろうとしていたため情報を盗まれたくなく、本気で戦えず、苦戦を強いられていた。

 

 「もう二年目だ。さすがにそろそろ本気出さないとまずいんじゃねえか?ガードナーさんよぉ!!」

 

 厄介なことにやつの姿は俺にしか認識できていないらしく、傍から見れば、俺がトレーニングをしているようにしか見えないらしい。

 

 これが、奴の言う四つ目の職業『アサシン』。影にまみれ、認識を阻害するスキルを得意とする。

 

 闇魔法によって派生した職業らしい。

 見えない攻撃に、バリアの無力化。そろそろ本気出さないとまずいな。

 俺は全身にバリアを張り巡らせる。

 

 「さてと、俺が受けているのはアンタを殺すことだ。だが、別に俺はお前を殺すことに興味はねえ。取引だ。お前、いい女侍らせてるよな?全部よこせ。あと、てめえのスキルもすべて情報を渡せ。それで勘弁してやる。」

 

 勝機が見えたのか、モグはいやらしい顔で交渉を持ちかけてくる。

 

 だれがお前なんかやるもんか。

 

 「ちっ。どこまでも腐った野郎だ。この世界の人間は無理やり大人にさせられる。だから、歪むやつが多いんだと思う。でもそれは、戦争をしているからだ。戦力が欲しいからだ。ドロップアウトしてまで、欲しいのがそんなもんなのか?お前は何しに、ここに来たんだ?」

 

 俺は怒りを顕にしながら、嫌味臭い言い回しをする。

 

 「うるっせ!!!てめえが俺を、俺のもの全部奪ったんだ!!!気が変わった!!殺して、好きにさせてもらう!!」

 

 俺が説教をすると、それが勘に触れたのか、モグは逆上する。

 

 たしかに、俺がこいつを退学させた。

 

 だが。

 

 その道を選んだのはお前なんだ。

 

 でも、それを利用するようなお前のバックが気に入らない。

 

 だから、オレはまた、お前を倒すよ。

 

 「……すまないな。本気で行くぞ!!」

 

 「来いよ、俺はてめえの全てを無力化してやる。まずは、『アサシンスキル・幻影』」

 

 唱えるとモグは姿を消す。

 

 影に身を潜めたらしい。これが厄介なのだ。

 

 前回、バリアで覆ったにも関わらず、影に潜むことでバリアから抜けた。

 

 俺のパリアは物理攻撃のみを無力化する。スキルで体を覆ったり、スキルで破壊することは簡単だ。

 

 バレてしまえば、あっさり破られる。だが、甘い。

 

 「これで貰ったぜ?アサシンスキル・影剣!!!」

 

 背後に現れたモグはアサシンスキルを唱え、影で生成されたスキルで俺を貫く。

 

 「ああああっ!!!」

 

 オレは反射的に悲痛の声を漏らす。

 

 「あはははっ!!!勝負あったな!ガードナー!!!」

 

 だが、俺の体に痛みは走っていない。俺はニヤリと笑ってみせる。

 

 計算通りだ。バリアで身を包めば、バリアを貫くために、こいつはスキルで俺を攻撃してくる。

 

 だが、それじゃ一歩届かない。

 

 「な、なんだ?この手応えのなさは!?」

 

 「確かに、俺のユニークスキルとお前のスキルは相性が悪い。俺は攻撃手段も少ないしな。隠れられると困る。でもな。」

 

 「な、なんでだ!?内蔵を貫いたはず!!」

 

 「教えてやるよ?……俺に属性攻撃は効かない!!クリエイトスキル・神の裁き!!」

 

 俺は拳に力を込め、混乱しているモグに拳を叩きつける。

 

 強烈に腹部に叩き込まれた拳は深くまで入り込み、モグはそのまま倒れ込む。

 

 「かはっ!?」

 

 俺には属性耐性のスキルがある。一か八か試してみたが、やはりそうだ。闇魔法から生まれたアサシンの攻撃は俺には届かない。

 

 

 「こいつは、セイクリッドスキル裁きを拳にまとってそのまま、解き放つ技だ。本来なら闇属性持ちの奴には効かないんだけどな。お前は与えられた闇属性で戦っている。直にスキルを食らったのと同じ痛みのはずだ。」

 

 俺は丁寧に神の裁きの説明をしてみせる。コレは混乱しているからこその説明だ。

 属性耐性を悟らせないために、攻撃を受けたことへ意識を向けさせる。

 

 「……くそっ。なんで、そんなに、強いんだ!!オレはこんなに、強くなったのに!!!ずるいだろ!!なんで、なんでなんだ!!!」

 

 予想通り、モグは怒りを露わにして、本来の目的を忘れているようだ。

 

 「それは、お前が努力していないからだ。与えられた力に甘んじて、努力しなかったからだ。」

 

 俺はさらに、煽りを加える。

 

 どこの世界でも都合よく力が手に入るものでもない。

 

 俺はこの世界に来る前に様々なことを経験してきた、それの結果だ。

 

 スキルは恐らく生きてきた道で生成される。

 

 そして、先人の知恵を学び、努力することで磨きがかかる。

 

 こいつのスキルはただのまやかしに過ぎない。

 

 貰い物の力だ。

 

 「……くそがぁあああっ!!!」

 

 モグは大声で怒りに満ちた声をあげる。

 それに呼応するかのように、モグの体を陰が包み込む。

 

 「なんで、いつも、お前ばっかり!!!お前ばっかり、恵まれてるんだァ!!!俺はっ!!!オレはモグ・ザードなんだぞ!!!!」

 

 「なっ!?馬鹿な。まだ、そんな力が!?」

 

 モグは叫びながら体を黒く染めながら、立ち上がる。

 

 闇属性。一体どんな、からくりだ?感情に起因しているのか?

 

 凄まじい闘志を感じる。

 

 先程より、威圧を感じる。

 

 「ってことは、能力値で差が出たな。」

 

 だが、元来、与えられたもの・急激な力には代償が必要だ。それに、奴は瀕死だった。体が持つわけが無い。

 

 「やめるんだ!!!そんなことしても何も無いだろう!?」

 

 これはもう、戦いではない。モグも完全に我を忘れている。

 

 「アガァァァっ!!!!」

 

 力の暴走か。闇の力がモグを包み込む。そしてそれは、大きな竜巻となり周囲を破壊し始める。

 

 俺の力では止められそうにない。

 

 「くっ、ここまで計算して、力を与えたのか!?」

 

 さすがに焦りを感じる。煽りすぎただろうか。

 

 油断していたようだ。完全に勝った気でいた。

 

 こういうところはまだまだだと痛感させられる。

 

 「いえ、それは無いと思いますよ。リバイア様。」

 嘆いていると不意に声をかけられる。振り向くとリアスがそこにいた。

 

 「私なら、多分、彼を何とかできます。でもそれにはお兄ちゃんとグラス様、パステワード様、リバイア様のお力が必要です。」

 

 「わかった!直ぐに連れてくる!!連れてくるまでなんとかなるか!?」

 

 「はい、これでも私、『属性の加護持ちなので』」

 

 属性の加護?まさか?

 

 いや、変なことを考えるのは後だ。

 

 「バリア!!!」

 俺はリアスに向けて、バリアを放つ。

 

 「っ!?え!?な、なんですか!」

 

 「気休めだ。女の子に怪我されたら困るしな。」

 

 「…リバイア様。」

 

 リアスは少し、顔を赤らめて微笑む。

 俺はそっと頭を撫でるとそのまま、全力で3人を探す。

 

 「身体加速!!!!」

 

 レスト、チーノ、デミ。

 

 3人を探す。

 

 ーーーーーー。

 

 『ちっ暴走したか。まさか、ガードナーに、あんなスキルがあったとはな。攻撃が効かないだけだ。どうとでもしてやるさ。とりあえず、モグはもう捨てだな。』

 

 ーーーーー。

 

 「連れてきたぞ!!!で、何をすれば?」

 

 「パステワード様とリバイア様で周囲への防御をお願いします。そして、グラス様はザード様の1番乱れている魔力波長を見つけて、私に教えてください!!お兄ちゃんは足止めを!!!」

 

 「わかった!!!」

 

 全員が配置に着く。

 

 俺は言われた通り、バリアを全体に張り、それから、その場にいた者に被害が出ないようバリアで包む。

 

 チーノは聖域を展開し、バリアへ重ねがけ。それから、周囲の人にセイクリッドスキル・反射を付与。

 

 聖域はもともと、認識阻害の他に、スキル・物理防御力の上昇効果、疲労回復の効果がある。

 

 よし、準備は整ったぞ。

 

 「守りはいいぞ!!」

 

 リアスは頷いてみせる。

 

 「ユニークスキル・獣化!!!」

 デミがそう唱えると体全身の毛量が増え、髪の毛は尖ったように鋭く、爪は伸び、牙が生え、筋肉量が増す。

 

 これが亜人族の力か。何も出来ず、虐められていたデミがここまで、すごいスキルを持っていたとは。きっと相当な鍛錬をしたのだろう。

 

 デミは飛び出すとモグに鋭い爪攻撃を繰り出す。

 

 「パラディンスキル・剣、一刀斬撃!!!」

 レストはそう唱えるとどこからともなく、黒い剣を生成する。そして、そのまま、斬撃を放ち、斬撃をなぞるように黒い波動が放たれる。

 

 「すげえ、2人とも。あんなに溢れ出る闘志をかき消したのか!?」

 

 気がつくとモグを覆い包む陰は消える。

 

 「見えた!!!胸の中心部です!」

 デミがリアスに伝える。

 

 「わかりました!!!!皆さん、伏せて!!!『光魔法・浄化!!!』」

 

 リアスが唱えると周囲は眩い光に包まれ、強い波動が大地を揺るがし、モグに力が、解き放たれる。

 

 渦巻く闇は光により打ち消され、モグの肉体は吹き飛び、地面に大きく打ちつけられる。

 

 しばらくして、大きな光の爆発が起きる。

 

 それに遅れるように耳を刺す巨大な衝撃音が鳴り響く。

 

 煙が舞い、視界が不良だ。

 

 霞んだ瞳が捉えたのは、モグの体に宿ったいたであろう陰が近くにいた人物に飲み込まれる。

 

 「っ!?」

 俺は咄嗟に大きな声を出そうとしたが、大きく息を吸ったため、むせ込む。

 

 再度確認するとその姿は消えていた。

 

 見失ったか。

 

 煙が晴れてくると、デミは元の姿に戻っており、それぞれ皆も、無事な様子だ。

 

 1番の功労者である、リアスは白い大きめの盾を生成しており、無傷なようだった。

 

 モグはその場に倒れ込んでおり、確認しに行くと息はまだあった。

 

 遅れて教師陣が遅れてやってきて、事の経緯をきかれるのであった。

 

 ひとまず、事態は収束を迎えたようだ。

 

 そして、これで、当分命を狙われることは無いだろう…そう思いたい。

 

 この世界に来てから、命を狙われてばかりだ。

 

 だが、俺を狙う闇の魔法の正体がまだ、明らかになっていない。

 

 今回の件でオレはかなりの情報を与えてしまった。

 

 あと与えていないのは神の祝福だけ。

 

 大方対策される可能性が高い。

 

 今回のことで俺は防御力が高くても、攻撃手段が少なく、隠れながら戦われると武が悪かった。

 

 そして、死角からの攻撃。

 

 もしモグの攻撃が、スキルでバリアを貫いたあと、物理攻撃に切り替わっていたら、俺は死んでいたかもしれない。

 

 そしてもし、パラディンスキルであったなら、確実に死んでいたであろう。

 

 考えただけでゾッとする。

 

 俺は手に持つ手紙に視線を落とす。

 

 差出人はモグ。

 

 『剣、盾、祝福、血、名前。答えを辿れ。お前らにめちゃくちゃにされた俺の気持ちを察しろ。馬鹿野郎。』

 

 こいつもこいつで色々とあったんだな。

 

 いや、だとしてもこれがモグ・ザードの選んだ道だ。

 

 だが、この手紙はあいつなりの筋の通し方だろう。

 

 そして、俺ももう少しあいつに寄り添うことが出来れば、こうはならなかった。

 

 嫌な気持ちになる。

 

 タクトを思い出す。

 

 俺は何も成長出来てないな。

 これじゃあ、ダメだ。

 

 認めないものを認めないままなら、俺が嫌うものと変わりはない。

 

 押し付けるのもダメだ。

 

 自分を守り、障壁を壊すだけじゃダメだ。

 

 もっと、寄り添い受け入れる気持ちも大切なんだ。

 

 認めるよ。モグ。

 

 俺も結局力を手に入れただけの子供だ。

 

 ーーーーー。

 

 「ここにいたんですね。レスト。いいえ、フレスト・フラットベース。モズール公国第一王子。」

 

 「ふっ、さすがエルフの生き残りだな。チーノ・パステワード。そして、デミ。お前にしっぽを掴まれるとはな。」

 

 「私はあなたを信じています。だから、ここに来ました。」

 

 「ああ、さすがにやりすぎたよ。今回の件は反省してる。だから、決着は『進級試験でつける。』」

 

 「それを聞いて安心しましたよ。」

 

 「あいつ、自分の本当の名前知らないみたいだな。だから、俺にたどり着けない。教えてやらないのか?」

 

 「彼には、そういうものではなく、あなたを見て欲しいですから。」

 

 「そんなに、あいつは救世主なのか?『リバイア・ガードナー・ディフィード』って男は。」

 

 「はい、あの人は『救世主です。』12年前、召喚の門によって召喚された『勇者を殺す使命を持った救世主です。』」

 

 「ふっ、なら期待してやるよ。これで4人が出揃ったわけだ。闇と光、破壊者と救世主。誰が魔王の血を受け継いでるんだろうな。」

 

 ーーーー。

 

 この時の俺は知らなかった。

 

 俺が知らないところで、この世界に変革が起きようとしていることを。

 

 この世界の小さなこの学園で。

 

 

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