第3話 転生者

俺が転生してからしばらく経ち、だいぶこの世界のこともわかってきた。

 

 わからないとすれば、この体の使い方。

 

 スキルと呼ばれる力の使い方だ。

 

 父親であるサーベルと戦うことになり、残り5年の猶予。

 

 それまでに力をつけなければならない。

 

 そのため、俺は家の庭でひたすら、体を動かしていた。

 

 だが、一向にスキルとやらは使えない。

 

 「スキルチェック。」

 俺は意識を目の前に集中させ、そう唱える。

 

 目の前には見知ったスキルが並ぶ。

 

 リバイア・ガードナー

 男。5歳。ヒューマン。

 ユニークスキル︰バリア

 

 パッシブスキル︰精神攻撃耐性、毒耐性、属性耐性、神からの祝福、能力値上乗せ、言語自動翻訳

 

 アクティブスキル︰回避上昇

 

 年齢以外なにも変化していないな。

 

 今スキルチェックを発動できたように、恐らく発動条件はイメージ。そして、集中。

 

 この二点であると思う。

 

 ユニーク、アクティブ、パッシブ。

 

 恐らくは発動の条件が違うはずだ。

 いわば、括りで言えばスキルだが、種類が違うスキルを指している。

 

 単純に考えれば、自分個人の持つ特殊なスキル、条件に合わせて自然に発動するスキル、自らの意思で発動させるスキル。

 

 恐らく俺にはイメージと発動条件が足りていない。

 

 ゲームはやったことない訳じゃないが、基本はアニメばっかだった。

 

 生前、運動もまともにしていない。

 

 人より劣っていたから人より事前に努力する必要があった。

 

 懐かしいな、バスケの試合には出られなかったけど、ハンドリングとドリブルのテストは合格したんだっけ。

 

 一人でひたすら、練習したな。

 

 「考えてもしょうがない。ひたすら試す、ひたすら調べる。凡人の俺にはこれしかない!」

 

 恐らく発動しやすいのはアクティブとユニークのはずだ。

 

 多分だが、パッシブは気がついた時に使えるはずだ。

 翻訳も特に意識はしていない。

 

 その環境下になれば発動するもののはずだ。

 神からの祝福と能力値上乗せだけ、どういうものか分からないが、パッシブは受け身なスキルだ。

 

 対人戦とかあればわかりやすいのにな。

 

 そうか、対人戦。

 オレはスキルが発動しないもうひとつのことに気がつく。

 

 わかったぞ、今まで発動しなかったわけが。

 

 俺が追い詰められていないからだ。

 

 追い詰められた時に明確なイメージ、気持ちがあれば具現化するはずだ。

 

 まったく、考えすぎて、3日も無駄にしてしまった。

 

 俺のスキルは受け身なものが多い。

 

 危険にならないと発動しない。

 

 なら、危険な状況をつくればいい。

 

 「お父様に頼むしかないか。.........でも、自分の能力を客観的に理解出来ればな、てか俺、攻撃出来ないのかよ。不便すぎんだろ。こーいう世界に来たらなんとなーくで使えるもんじゃねーのか?」

 

 俺はひとりブツブツ呟く。

 

 紛れもない現実。

 

 ただ、生まれ変わっただけ。

 

 どんな世界だって生きていくためにはそれ相応の努力が必要、ということだろうか。

 

 両目は見える。

 

 こんなにも世界は広かったのだと痛感させられる。

 

 まったく別の人生だ。

 

 甘えるな、俺。

 

 ここで生きていくんだ。

 

 今度は上手くやっていくんだ。

 

 自分の好きなことを。

 

 「.........だめだな。よし、じゃあまた、調べ直すか。」

 お父様に聞くのはダメだ。

 

 俺自身の力で見つけないと。

 サーベルはきっと俺を試している。この世界で生きていけるのか。

 

 ならば、尚更だ。

 サーベルは恐らく酷く転生者を嫌っている。

 

 精神攻撃耐性のおかげで気が付かなかったが、あれば『威圧』のスキル。

 本によれば、相手の人間らしさを露わにする精神攻撃スキル。

 

 そして力の差が歴然であることの表れ。

 

 あれは本気の警告。

 

 俺はあの時、サーベルは頭が回らないと勘違いした。

 

 勝ってしまえばどうにもできる。

 

 フェアな戦いに見えるようにしたんだ。

 

 彼が、いやこの世界の人が、転生者を嫌う。

 

 理由はひとつ。

 

 以前の転生者、勇者。

 いや、勇者と名乗った青年が正しいか。

 その勇者が転生したことにより、ニュールドの情勢は大きく変わったからだ。

 

 多くの火種、未だに続く戦争の種を撒き散らし、魔族をすべて討ち滅ぼし、消えた。

 

 言ってしまえば、戦火を拡大させたと言ってもいい。

 

 きっと多くの人間が勇者に国や家族を殺されたんだろう。

 

 この国、ガーディアンが多く住む、中立国ディフィードは勇者が消えたあと、戦争に反対する国や人々が集まったできた中立国家。

 

 他国に干渉しない、戦争に加担しない、そんな国だ。

 

 守りは鉄壁。どんな国にもディフィードの守りを突破することは出来ていない。

 

 勇者はどこから現れたのかわからない、とされているが、行動や今の戦火を見るに、セイクリッドを中心とした宗教国家、セインペトで召喚されたと言われている。

 

 セインペトは絶対神テフェトを信仰しており、神に愛されしもの以外を許さない国家だ。

 絶対神テフェトは俺らニュールドに生まれる存在全てに幸福をくれるとされる神様だ。

 

 この世界の信仰の対象である。

 

 彼らの言う神に愛されしものというのが何に当たるか定義はされていないが、セイクリッド以外の存在を認めない国家と言える。

 

 勇者召喚に際し莫大な力を手に入れたセインペトは暴走を始めた。

 

 もともと人間と対立していた魔族を滅ぼす、勇者をサポートすると宣戦布告をしたのだ。

 

 それに対し色んな考えが浮かんだ。

 戦争を利益化するもの、魔族を討伐しお金を稼ぐもの、亜人種・エルフ・魔族・それとの間に生まれたハーフを迫害するといった人種差別。

 

 そして魔族の全てが悪では無いと救いの手を差し伸べた若き王フラットペース。

 

 そして魔族と関わったもの全てを殺した勇者。

 

 一度始まった差別や野望は無くならない。

 

 魔族を葬りさり、国は3つの勢力に分かれた。

 セイクリッド以外全てを消し去ろうとする暴走したセインペト、疲弊した隣国全てを飲み込み復讐の限りを尽くす独裁国家エランティア帝国、そして戦争根絶を願う中立国家、ディフィード。

 他にも周辺に小さいな国は存在するが、主にこの3つの勢力が争い続けている。

 

 そして戦争の毎日。

 

 そんな、戦火のなかだ。

 

 俺は警戒されるし、殺されてもおかしくはない。

 

 どうにかしてでもオレは上手く父親であるサーベルを納得させなければならない。

 

 そして、言ってしまえば、面倒ごとは御免だ。

 

 オレは自由に生きたい。

 

 この国に居ては、この国のことしか見えない。

 

 これが全ての真実だとは思えない。

 

 争っているのであれば、どこの国だって悪い。

 

 自分の目でこの世界をニュールドを見て、自分に出来ることを探したい。

 

 まあ、のんびり暮らすことが出来ればそれに越したことはないが、今何をどうこうしても、ここまで高ぶった争いは終わらない。

 

 もっとこの世界を知り、俺自身も本当にしたいことを見つけたい。

 

 当面の目標だな。

 

 とりあえず、今んとこ悪いのはセインペトと勇者だって感じだな。

 

 歴史書を漁り、俺は自分の考えをまとめる。

 

 戦争か。

 

 自分には全く関係と生きてきた。

 

 滅びた国は、大切な人を失った人は、迫害された人は。

 

 フツフツと考えが。

 

 いや、怒りが沸き上がる。

 

 だが、転生者である俺も、生まれる国が違えば、こうなった可能性はある。

 

 突然大きな力を手にしたら。

 

 ゲーム感覚で楽しんだら。

 

 ゾワッとする。

 

 より冷静な行動が求められる。

 

 俺は片目をおさえる。

 

 この世界には病気なんてものは存在しない。

 

 全て治せてしまうからだ。

 

 そんな素晴らしい世界なのに。

 

 なぜーーーー。

 

 「なんで争うのか?なんで、差別は無くならないのか?ーーーと考えてます?」

 

 突如、背後に髪の長い女性が現れる。

 

 銀髪で、綺麗な顔立ちをしている。

 服装は青を散りばめた白い服に身を包んでいる。

 

 どこかの貴族だろうか。

 

 前までの俺なら驚いていただろう。

 

 だが、コレも精神攻撃耐性なのか、不思議と冷静だ。

 

 俺は座っていた椅子から降り、少女に向き合う。

 

 気品のある空気感のせいか、女性と認識してしまった。

 

 背丈は俺より低い。

 

 少女という表現が相応しい。

 

 「ふふ、突然声をかけてしまい、すみません。わたくし、チーノ・パステワード、と申します。」

 「僕は、リバイア・ガードナー。どなたか分かりませんが、紹介が遅れてしまいすみません。来賓の方ですか?あいにく、父は外出しております。」

 

 「精神は、20ぐらいですかね。以前現れた勇者よりは、まともそうですね。」

 そう言うと、チーノは歳に合わない妖艶な瞳で見つめてくる。

 すると白く細い腕が、俺の方まで伸びてくる。

 

 「.........なにか?」

 

 「警戒心が強いですね。前世のトラウマですか。」

 

 俺はチーノの伸びてくる腕を避け、少々不機嫌に対応する。

 するとニコッとチーノは微笑み、差し出した腕を引っ込め、語りながら、俺の周りを一周する。

 

 「わたくしは、あなたのお父様に、命令を受けてここに来たわ。あなたを強くするために、ね。」

 

 「.........そうですか。」

 こいつ。サーベルから何を頼まれた?出ている命令はそれだけでは無いはずだ。

 

 「.........警戒ですか。わたくし、結構見た目には自信あるのですが、想い人でもいるみたいですね。スキルが効きません。」

 

 スキル?こいつ、俺になにかスキルを使っていたのか。

 

 「なるほど。ただの高校生、という訳でもないようですね。」

 

 高校生?こいつ、何をどこまで知ってやがる。

 

 「.........まあ、いいや。気になる点は多々ありますが、最初の試験は合格、としましょう。あなたを強くする。これは本当に出ている命令ですからね。まあ疑いたいなら、好きにしてください。」

 

 「.........よろしくお願いします。」

 

 「あら、案外素直なのね。あと、敬語、やめていいわよ。肉体的にも精神的にも近い年齢のはず。」

 

 「そうか。実際どうすればいいか、悩んでたところだ。頼めるなら頼みたい。.........あなたは諸々の事を聞いてそうだし、隠せるとも思わない。.........見極めてくれ。そして強くしてくれ。」

 

 「.........ふふ。大方、そんな感じね。よかったわ、少なくとも、まだ、大丈夫なようで。」

 

 イタズラな笑みを浮かべるチーノ。赤い瞳が俺を捉える。

 

 赤。

 

 こういう時の赤は嫌いだ。

 

 アイツを思い出す。

 

 騙されて、殴られて、蔑まれて、舐められて生きてきたんだ。

 

 いまさら、そんなの効かねえよ。

 

 乗り越えてやる。

 

 誰も最初から信用なんかしちゃいない。

 

 お前もだ、チーノ。

 

 俺は誰も信用しない。

 

 利用して、好きなようにさせてもらう。

 

 「.........よろしく頼むよ、チーノ。」

 「ええ。よろしく、転生者さん。」

 

 

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