第4話 バリア使い

あれから俺はチーノと名乗る少女と実戦形式で戦うことになった。

 

 「あなたは、スキルを使えていない。そして、力もない。このままでは殺される。」

 チーノは夕暮れの庭に俺を連れ出すとボソボソと語り始める。

 

 「お父様にってことか?」

 

 「いいえ、わたくしに、ね。わたくしは転生者を許しはしない。この世に混沌をもたらした転生者には。あなたも信用していない。」

 

 「そーいうこと。見込みがないなら、殺せって。そういうことか?」

 

 「概ね、そういう事ね。あなたのお母様は、反対したそうよ。だから、条件をつけた。どっちみち、強くならなきゃ、あなたはこの世界で生きていけない。そして、あなたのお父様は、訓練中に殺すってことにしたのよ。.........ここで、生き残れるなら、わたくしは、あなたをサーベルと戦わせる。無理なら殺す。」

 

 「訳わかんねぇな。文化の違いってやつか。どうして、さっきまで探ってたのに、急に話す気になった。」

 俺は急に語り出し、先程とはうってかわり感情を出し始めたチーノに質問する。

 

 「あなた、ワタクシと話していくうちに警戒を解いた。力の差がハッキリと分かった。.........でも、悪人では無いと思った。所詮、巻き込まれただけの子供であると。」

 

 「アンタも充分子供だろ?」

 

 「体は、ね。わたくしはセイクリッド。神に愛されている存在。何度も生まれ変わるわ。あなたとは違ってこの世界でね。ワタクシも2度目の人生なのよ。あなたと同じくらいの時に殺された。勇者とセインペトの連中に。」

 

 酷く復讐に満ちた瞳だ。

 

 「.........でも、俺は関係ないだろ?その勇者とやらと俺は違う。」

 

 「それが、前回この世界を混した一番の原因よ。何も知らない世界の人間が、力を得た。間違った知識を得た、いや、持っていた。そして世界は壊された。」

 

 「.........そうかい。じゃあ殺せばいい。殺せるもんならな!」

 

 俺は足掻いてやる。

 

 チーノは恐らくそこまで悪い人ではない。

 

 そして恐らくは、サーベルも。

 

 きっとそうするしか出来ないんだ。

 

 生き残って強くなって、証明すればいい。

 

 「愚かね。セイクリッドスキル・裁き!!」

 俺はがむしゃらに走って、チーノに突撃する姿勢をとる。

 

 呆れたようにチーノは目を瞑り、俺に手のひらを向けて放つ。

 

 瞬時に魔法陣が形成され、雷がほとばしる。

 

 どうするーーー俺。

 

 「発動しろ、俺のスキル!!」

 

 当たらなければいいんだ。

 避ければいい。

 

 避けるーーー。

 

 そうか。

 

 

 「アクティブスキル・回避上昇!!!」

 

 発動してくれ!!頼む!!

 

 刹那、体が一気に軽くなる。

 

 時間が遅くなる。

 

 この感覚、俺は知ってる。

 

 避ける!!

 

 俺は右前方に方向転換し、勢いに任せて、チーノ目掛けて受身をとる。

 

 俺はチーノの間合いに低姿勢で入り込む。

 

 「.........へえ。やるじゃない。」

 チーノはニヤリと笑う。

 

 相手は異世界の人間。

 馬鹿みたいな力も使える。

 

 俺はしっかり目で焼き付けた。

 

 これがこの世界の常識。

 

 スキル。

 

 そして俺も近いことは出来る。

 

 イメージと感覚は掴んだ。

 

 そして、強い気持ちだ。

 

 証明された。

 これなら、行ける!

 

 「これで、俺の勝ちだぁああっ!!!」

 

 俺は拳を握り込み、チーノ目掛けて放つ。

 

 パッシブスキル能力値上乗せ。

 

 どこまで通用する!?

 

 そして、いくらなんでも女の子を殴っていいのか!?

 

 「調子に乗らないで!アクティブスキル・反射!」

 

 「しまっーーー!?」

 

 俺の体は気がつくと宙に浮いている。

 

 攻撃を跳ね返すスキルか。

 

 俺の運動エネルギーを倍にして返す。そういう類か。

 

 倍になってるから判断ムズいけど、割と素の状態で力はついてるみたいだな。

 

 俺は元の位置まで、飛ばされる。

 

 「っ.........痛ってぇ!」

 地面に強く、体を叩きつけられる。

 

 「言ったでしょ?殺すって。この世界に転生者はいらないのよ。」

 

 「くっそ、体痛え。」

 俺は必死に力を振り絞り立ち上がる。

 

 刹那。大きな光が俺を包む。

 

 ウソ、だろ?

 

 マジで死ぬじゃんーーーこれ。

 

 気がついた時には体を光が包む。

 

 「うっわぁあああっ!?.........ってあれ。痛くない?」

 

 まるで、何も感じない。

 

 「うそ、どういうこと?私のセイクリッドスキルが無力化!?」

 

 これは、なにかのスキルが発動したと考えるしかない。

 

 恐らくはパッシブスキルだ。

 

 俺が意図せず、発動した。

 

 俺はスキルを確認する。

 

 パッシブスキル︰条件下で自然に発動。

 精神攻撃耐性︰確認されている条件(威圧、魅了のスキル対象時)

 精神攻撃スキルへの耐性。発動時、一時的にクリアな思考となり、自分の考えを発言しやすくなる。

 能力値上乗せ︰確認されている条件(戦闘時、認識される攻撃対象がいる場合)

 現在の肉体+前世の身体能力×50のステータスとなる。

 しかし、ニュールド基準では高くはない。一般的なステータスよりは高いが、セイクリッドより少し強いくらいである。

 神からの祝福︰確認されている条件(セイクリッドスキルでの対象時)

 セイクリッドスキルを無力化。ほかのスキルと併用された場合効果はうける。セイクリッドスキル分のみ軽減。

 

 なんだ、これ。スキルの詳細が解放されている。

 こいつは大体俺が考えていた通りのようだ。

 

 なるほど、戦闘経験を一瞬でも詰んだことによって、俺のスキルチェックも進化したわけか。

 

 なるほど、つまりは、チーノのセイクリッドスキルってやつは無効化されるわけだ。

 

 なら今のうちに決める。

 

 「行くぜ。.........反撃タイムだ。」

 

 俺はまた、一直線に走り、チーノ目掛けて拳を放つ。

 

 「ちっ、学ばない人ね!反射!」

 

 「へっ、俺も馬鹿じゃねえんだよ!!回避上昇!!」

 

 スキルには条件があった。

 そして、対象も必要だ。

 

 つまり、俺を認識出来なければ、そして、俺が攻撃しなければ、そのスキルは発動しない!

 

 俺は反射に対して回避上昇を使用し、チーノの背後に回る。

 

 オレは護身用に常備していたナイフをチーノの首元に近づける。

 

 「俺の勝ちだな。約束通り、御指導、たのむぜ。」

 

 「.........。殺しなさいよ。あなたはそれをしても許される。」

 

 「リバイア。」

 

 「えっ」

 

 「俺はリバイア。ふっ、気にすんなよ。アンタが最初から本気だったらオレは死んでた。それにさっき、反射のスキルじゃなくて何かしらのアクティブスキル放てば、勝てただろう?」

 

 「.........ワタクシはあなたを認めた訳では無いわ。ただ、なんとなく、あなたは違う気がした。正々堂々と戦った。ワタクシの知ってる悪い人間ではなかった。それだけよ。.........でも、負けは負け。ワタクシはあなたに力を与えるわ。」

 

 「ふぬけたな。チーノ。お前、ここで終わりだ。どんな手を使っても殺せ。そういったはずだが?」

 

 「おに、おにぃさま。」

 

 「代わりに俺がやってやるよ!」

 

 「だめぇえええええっ!!!」

 

 「えっ!?」

 

 刹那、目の前に現れた青い服の素顔の見えない男は、ニヤリと笑い俺に向けて、剣を振り下ろす。

 

 それをチーノが間に入る。

 

 記憶がよぎる。

 

 思い出す。

 

 そして、重なる。

 

 ーーーーユノ。

 

 俺は何しにここに来た。

 

 俺は何を願った?

 

 俺は何が出来る?

 

 

 今の俺は、なんだ?

 

 

 

 

 「俺は.........守りたい!!!」

 

 全部全部守りたいんだ。

 

 誰も俺の前で殺させてたまるか!

 

 ちゃんと、向き合うんだ。

 

 

 今度こそ。

 

 

 知るんだ!俺は!

 

 「発動しろよ!!!バリアーーーーッ!!!!」

 

 俺は全力で叫ぶ。

 

 全力で。今まで溜めていた全てを吐き出すかのように。

 

 守るんだ。俺が。

 

 目の前に空気の壁が出現し、チーノを守る。

 

 男の振った剣は砕け散り、激しい衝撃音がなり響く。

 

 それは、俺がはじめて、バリアを使った時の出来事であった。

 

 俺は、この世界で、守る力を手に入れた。

 

 その瞬間だった。

 

 

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