第5話 能天気でいい

俺を剣で攻撃したのは、ロン・パステワード。

 

 俺のバリアの力によって攻撃がはねかえされ、フードで隠れていた顔が露になる。

 チーノと同じ銀髪赤眼。

 髪は整えられ、後ろ側は綺麗にまとめられている。

 どこまでも白い肌。

 美青年と言って問題は無いだろう。

 

 男は口を開く。

 

 「まだ、そんな力を隠していたとはな。破壊者。妹とその力に免じて生かしてやろう。テフェト様は貴様を殺すなと言っている。」

 

 テフェト様ねぇ。

 オレは呆れた顔をする。

 

 宗教国家セインペトが信仰する絶対神。

 

 この世界の人間が信仰している神。

 特にセインペトやセイクリッドはその傾向が強い。

 

 身寄りがないものや神の力をその身に宿すことが出来るため、通常の人間より距離が近いらしい。

 

 「お兄様、私の仕事、私に任せるって言いました。どういうつもりですか?」

 

 聞いていたチーノがオレの間に入る。

 

 「言ったろ?殺せって。コイツは破壊者である可能性が高い。今のセインペトにでも行ったら危険だ。お前もわかっているはずだ。」

 

 「分かってます。でも見極めも大切です。救世主様である可能だってあります。噂によればエランティアで儀式が行われたとか。」

 

 「失敗したそうだ。セインペトの介入と多くの不確定要素が混じり、召喚の門が四つ開かれたそうだ。…厄介だ。ま、チーノの言い分もわかった。だが、俺はそいつを認めていない。いくら守りに長けているサーベルさんの息子でも知らないスキルが多い。…チーノ、答えを急ぐな。お前は人を許すのが早すぎる、そう言っているのだ。」

 

 「でも、こんなやり方。私は気に入りません。以後手を出さないでください。私なりに見極めて、彼を判断します。」

 

 「あくまで、立場を忘れるな。俺はどんな手を使っても、不安要素を排除する。お前の判断が間違いだと分かれば直ぐにそいつを消す。」

 

 2人は睨み合う。

 

 何やら、考えがぶつかっているらしい。

 どちらともサーベルに頼まれている事は確かだが、やり方で揉めているようだ。

 

 「事情は知りませんが、とりあえず今日の俺は合格…なんだろ?約束は守れよ。もう遅いし、明日から特訓頼む。ロンさんもそれでよろしいのでしょう?不意打ちで、俺の本性でも見抜こうとしましたか?」

 

 「ああ。今のところはただのガキだな。」

 いちいち、敵意丸出しだな、こいつ。

 見た目的には20前後ってところだが、チーノと同じように転生している可能性が高い。頭硬そうだし、結構歳いってそうだな。

 

 ロンは嫌味な顔してその場を後にする。

 チーノは一礼し、「兄がすみませんでした、明日からお願いしますね。」と口にしその場を後にする。

 

 2人がいなくなったのを確認し、オレは尻もちを着く。

 

 あたりは暗くなってきており、夕暮れが終わりを告げている。

 

 長い一日だった。

 

 急に襲われて、敵意丸出しで、オマケに差出人は父親。

 

 俺に何を求めてる?サーベル。

 

 それにしても……

 

 「怖かった。はぁ。死ぬかと思った。」

 

 俺は一気に気が抜けるのを感じた。

 

 その日からサーベルが、家に帰ってくることは少なくなり、母親であるリッツも心配はするが、特に何かを話したりはしていない。

 

 転生者。

 そこまで待遇が悪いとはな。

 

 正直浮かれていた。

 この世界に来て、知らないものに触れて、ゲームみたいで、目も治って。

 

 戦争をしているのは知っていたが、この世界で生きていくのは面倒くさそうだ。

 

 俺は翌朝、朝の身支度をしながら考え込んでいた。

 

 戦争、俺の知らない世界だ。

 勃発したのはセインペトと勇者がきっかけ。

 

 そこから拡がった人種差別。

 

 チーノとロンは2人ともセイクリッドだった。

 

 だが、セインペトと勇者に殺されたと言っていた。

 

 つまり、混血である可能性が高い。

 

 「そうですよ。わたくしと兄は混血です。」

 「うわっ!?」

 

 急に背後に現れたチーノに俺は驚く。

 

 こいつ毎回俺の背後取りやがって、いつでも殺せるアピールか?

 

 「いいえ。昨日戦ってあなたを倒すことは無理だと分かりました。能力を使えるようになった今では。」

 

 なんだ、こいつ。

 「まだ、俺何も言ってないぞ。」

 俺は疑問に思ったことを口にする。

 

 「私のユニークスキルですよ。相手の思考を読んだり、操ったり出来ます。だいたいプラス精神攻撃をして、どうにかなるんですけどね。あなたにはききません。正直に言うと詰んでます。セイクリッドスキルも無効、ユニークスキルも効かない。物理攻撃はバリア。あいにく攻撃系のアクティブは持ってませんし、怖いからあなたのお嫁さんになろうかしら。」

 「思ってねえこと言うのやめろよ。」

 俺は思わずツッコミを入れてしまう。

 するとほらね、という顔をする。

 「今も使ったのですよ?スキル。効きませんてましたよね。」

 「ああ、なにも感じない。」

 「まあ、だから急に殺したりはしませんよ。…殺せない。それが正しいですね。」

 でも、不意打ちされたら、俺は太刀打ち出来ないはずだ。

 

 「気がついてませんの?」

 こいつ、また心読みやがったな。

 まあいいか。

 「説明してくれ。」

 

 「あなた、ずっとバリアを身にまとってますよ。…痛いことに対してあなた敏感みたいですね。」

 

 俺は絶句する。

 うそだろ、気が付かなかった。

 いや、おかしい。俺は昨日確かに痛みを感じた。

 

 「フリですよ。あなたは生まれてからずっと、体を守っている。」

 

 生まれてからずっと?

 

 「はい、だから不意打ちは意味が無い。答えになってますか?」

 「……サーベルは知ってたのか?」

 「知ってはいました。ただ、あなたの持つスキルは未知のスキルです。何かが分からなかった。すみません。私はサーベルさんに雇われたので報告はしましたが。」

 

 「いや、いい。それは間違ってない。」

 痛いことが嫌い、フリをしていた。

 『何も感じない』

 それがオレの今ってことか。

 

 精神攻撃耐性、バリア、回避上昇、セイクリッドスキル無効。

 

 嫌なことを避けているスキルと言ってもいい。

 転生する時聞こえた、あの謎のアナウンス。

 生前の情報から各種スキル獲得って言ってたな。

 

 俺はあいつに痛め付けられるのが、嫌だった。

 

 ユノを守りたかった。

 

 信じていた友人に裏切られたのが辛かった。

 

 いつも死にたかった。

 

 逃げたかった。

 

 それがスキルになったのか。

 

 そして全てゼロから始まるこの世界。

 

 両目が見えるこの世界。

 

 無意識にこの世界の主人公気取りしてたってわけか。

 

 でも、周りに誰もいない。

 

 身を守った。

 

 怖いから。

 普通であろうと演じた。

 

 この世界に認めてもらいたかった。

 

 無意識な自作自演。

 

 「いや、それでもいい。まずはこの世界を知ること、そして強くなること、最後に楽しくあること。それが今の目標だって思うよ。」

 

 「そうですか。では、今日から宜しく。……リバイア。」

 

 っ!?

 名前。

 

 不思議と心が落ち着く。

 

 こいつのことはわからないけど、この世界に来てはじめての同年代。

 

 楽しくやってこう。

 

 知らないから怖い。

 

 逃げてきたから怖いんだ。

 

 俺はタクトと向き合おうとはしなかった。

 

 今度は間違えない。

 

 俺なりにこの世界を生きてやる。

 

 この日からチーノは俺の教育係として、この家に住むことになった。

 

 この世界では10歳の入門前に自宅で独自の教育を受ける。

 

 家の家訓や独自のスキル開発に勤しむからだ。

 入門後は専門的な知識や技術を身につけ15にはそれぞれ役職に着くことが出来る。

 

 俺が入門する先、中立国家の中心教育機関ーーーーメサイア。

 パラディン、セイクリッド、ガーディアン全ての教育がなされる機関。

 

 亜人国家ミデミアム、平等主義モズール公国、中立国家ディフィードによる戦士の育成ご目的で設立された機関だ。

 

 就職先といっていいか、わからないが、どこかの国に従事するために教育を受ける。まずはそこに入門するための基礎知識やスキルを学んだ。


チーノに教わったが、職業はそのスキルや能力のスペシャリストであって、そのスキルのみを扱えるという訳では無いらしい。サーベルもその1人と言っていい。


適性はあるらしいが、俺は今のところセイクリッド、ガーディアンに適性があるようだ。

 

 あれから月日が流れ俺はついに10歳。

 

 この数年、以前のように殺されかけることも無く、チーノは熱心に指導してくれた。

 

 それとは別に貴族としての立ち居振る舞いはリッツから教わり、家系としての在り方も学んだ。

 

 歴史、体術、スキル、品格の基礎的な所をこの5年でマスターしたと言っていい。

 

 だいぶこの世界に慣れてきたと言っていい。そしてチーノには、教育の合間に、戦闘スキルも学び、対サーベル用の戦いも訓練した。

 

 姿見で自分を見る。

 

 10歳の体じゃない。

 

 前世の自分と比較しても筋肉量が多く、背丈も高く感じる。

 

 世界が違うだけで成長速度も変わるのだろうか。

 

 この世界で10歳は俺たちの世界で言う大学生ぐらいの扱いだ。

 

 見た目も鍛え抜かれ、馬鹿みたいに飯を食わされ、急激に成長するようにスキルを毎日浴び、見違えるほど成長した。

 

 髪の毛はブロンドで綺麗に前髪が右に流れている。

 

 自信もって言える。イケメンだな、俺。

 

 目元は緑っぽく輝きを放ち、目鼻口はハッキリと整っている。

 

 色々あったけど、ここまで来ることが出来た。

 

 今日は最終試験だ。

 

 お父様を倒す。

 

 そして自由を認めてもらう。

 

 この数年真面目に取り組んできた。

 

 背後にチーノの気配がする。慣れたものだ。俺はいつものように振り向かないまま、話す。

 

 「…今日までありがとうな。おかげで俺はここまで来ることが出来た。」

 

 「リバイアなら、行けますよ。サーベルさんは倒せます。あなたはきっと救世主ですから。」

 

 「なんだよ、それ。」

 

 「少なくともこの5年、見てきた私にとっては、貴方はこの世界を変えられるお方です。」

 

 随分可愛くなったものだ。最初はどこか壁があった。

 

 俺は後ろを振り返ろうとする。

 しっかりお礼を言おう。

 

 チーノはどこか難しい。

 

 刹那。体全体をチーノの香りが包み込む。

 

 「何かあっても、私が守るから。」

 

 チーノから強い不安を感じる。

 

 「大丈夫だ。俺は死にはしない。…だから見守っていてくれ。」

 

 俺は少しの間、チーノを強く抱き寄せた。

この5年やれることは全てやった。覚えたことも沢山ある。


あとはこの世界の価値観とオレの価値観がマッチするか、それが決め手だ。

 

 「…まずは、よくここまでやってきた。本当は俺が育てるべきではあったと思うが。」

 「いえ、お父様に挑んだのは私ですので。遠慮せず。」

 

 「いいんだな。分かってんだろ?俺は殺す気で行くぞ。」

 

 目の前に経つ大男。

 5年経っても衰えない、その巨体が俺の前に立つ。

 

 草原。誰も寄らないようにスキルを発動されている。

 リッツが持つ能力、阻害。

 

 殺す気で来る。

 何度もこいつはそうしてきた。

 

 暗殺に、事故に見せかけ。

 

 今日は命懸け。

 

 「…俺も手加減はしません。」

 

 チーノが見守る傍らには、兄であるロン。

 そして遠くにリッツ。

 

 刹那。目の前の大男が雄叫びをあげる。

 

 「うぉおおおおおおおおっ!!!」

 

 耳を破壊する勢いの雄叫び。

 

 威圧のスキル。

 

 草原がザワつく。

 

 心が不安になる。

 

 「スキル精神攻撃耐性・全開!」

 

 不穏な空気が流れる威圧をかき消す。

 

 俺はそれを戦闘の合図として、走り出す。

 

 まずは情報を集める。

 

 不用意に近づいてもチーノの、時のように吹き飛ばされる。

 

 思い出せ。

 

 セイクリッドとの戦いは経験済み。

 

 残すはガーディアン、パラディンだ。

 

 精神攻撃耐性・全開のおかげで頭が酷くクリアだ。

 

 緊張も吹き飛んだ。

 

 まずは小手調べだ。

 

 能力値上乗せ回避上昇の合体スキル。

 

 「身体加速!!!」

 戦闘時自動的に俺のステータスは上昇する。

 そしてそのタイミング回避上昇を繰り返す事で普段の2倍のスピードで動くことが出来る。

 

 回避上昇はアクティブスキルで自由に発動できる。

 本来は相手の攻撃を避けるために体を軽くするものだが、

 繰り返し発動することで、移動速度を上昇できる。

 

 そしてその速度を力に変える!

 

 俺は勢いのまま、飛び上がり、拳をサーベルに叩きつける。

 

 さあ、どうくる!?

 

 「ふっ、面白い。小手調べか!!ねらば、答えよう!!この世界はそんなに甘くない!!セイクリッドスキル裁き!!」

 

 魔法陣が形成され光が俺を包む。

 

 「くっ!俺にセイクリッドスキルはきかっ」

 

 落ち着け。なにか、作戦があるはずだ。

 

 「バリアっ!!!」

 俺は瞬時に守りの姿勢に入り、バリアを展開する。

 

 「だから、甘いっつってんだよ!!!」

 

 サーベルの拳が俺の腹部に直撃する。

 

 「ぐはっ!!!?」

 

 息が出来ない。

 なにが起きた!?

 

 くそ、頭に酸素回らねえ。

 

 身体加速、バリアでの反射、そしてサーベルの謎のスキル、その全ての反動が俺にかえってくる。

 

 俺は勢いよく、地面に叩きつけられる。

 

 俺は体全身をバリアで守っている。

 

 にもかかわらず、激痛が体を襲う。

 

 この感覚、嘘じゃない。

 

 まじの痛覚だ。

 

 ってことは、今、バリアは溶けてるのか。

 

 許容を超えた攻撃はバリアを破壊する。

 

 サーベルの能力を知ろうとしたら、たったの一撃でこのザマか。

 

 「オラッ!!ぼーっとしてると死ぬぞ!!ガーディアンスキル・隆起!!」

 

 地面が蠢き俺は天高く飛ばされる。

 

 「セイクリッドスキル・飛行!!」

 サーベルの体は光り輝き、俺の所まで瞬時に現れる。

 

 「マジで、しつこいんだよ!!!」

 俺は対象をサーベルとしてバリアを形成する。

 

 「なにっ!?」

 サーベルの周りをバリアが包み込む。

 

 試すか。新技!

 「セイクリッドスキル裁き!!」

 俺は自分の手に裁きを付与する。

 

 オレはこのスキルを無効化する。

 だから体に纏っても痛くはない!

 

 これを攻撃に応用する。

 

 「神の裁き!!!」

 

 俺はそのまま、拳を放つ。

 

 今、サーベルはバリアで囲まれて動けない。

 

 そして恐らく、バリアは物理攻撃以外は通す!

 

 「っ!?」

 「ぶっ飛べぇぇぇえええ!!!」

 

 予想通り、スキルでコーティングした俺の拳はバリアを貫き、サーベルはそのまま落下する。

 

 俺もそのまま、落ちるが体勢を整え、回避上昇を使用し、着地する。

 

 サーベルは地面に激突し辺りに爆風が起こる。

 

 ここまでかなり息が上がっている。

 「はぁはぁ。勝てる気がしねえ。マジで、…死ぬかと、思った。」

 

 さっき、バリアを張った時、油断した。

 サーベルはバリアが物理攻撃にしか通用しないと知っていた。

 

 そして、俺がどう対応するかも。

 

 バリアに過信、そして神からの祝福に頼りきっていた。

 

 「今のは、さすがに焦った。だが、知っての通り、ガーディアンは守りが命だ。そして俺は全職持ちだ。分かるな?」

 

 「つまり、物理攻撃は効かず、スキルも無効にできる。そして、パラディンとして、最強の力もある。」

 

 「分かってるじゃないか。お前は俺を倒すことは出来ない。転生者なんかに負けないために俺は英雄になったんだ。お前にとって俺は相性が悪い。」

 

 「知ってます。でも、まだ、本気じゃない。あなたが本気で答えてください。俺はーーーそれを乗り越えて証明する!!」

 

 「ちっ、なら終わらせてやる。パラディンスキル剣。」

 

 サーベルは何も無い空間から剣を生成し、構える。

 

 ガーディアンは守ることへの特化。使い方によっては攻撃への応用。

 

 セイクリッドスキルは魔法に長けたスキルで遠距離を得意とし、スキルの幅が広く、特殊な能力も多い。

 

 そしてパラディンは攻撃に長け、自らを強くすることに特化している。またどんなスキルも攻撃へ変換することを得意とする。

 

 「我が、全てを持って、終わらせる。奥義スキル・フルバースト。」

 

 サーベルの肉体が光り輝き、剣に全て注がれる。

 

 持っている全てのスキルを攻撃力に変換するパラディンの奥義。

 

 そして、サーベルは全職持ち。

 

 そのスキル数は計り知れない。

 

 「このスキルはここら一体を吹き飛ばす。……お前が本当に、悪意がないか、そして証明出来るものならやってみろ。どれも間違いだ。ーーーさあ!どうする?」

 

 「俺は楽しく、生きたいんです。そして、その中でも自分の出来ることを。面倒な事は御免です。でもそんな中でもできることがあるのなら、俺はやります。ーーーーだって俺には守る力があるから。」

 

 「綺麗事抜かすなぁああっ!!!」

 

 サーベルの全力の一撃が放たれる。

 

 俺は戦わない。

 

 俺は証明するために、ここにいるんだ。

 

 サーベルを倒すためでもない。

 

 外に出て自由に生きるために、自分のやりたいを見つけるために。

 

 この世界を知って、貢献して、楽しく生きるために。

 

 俺はそれ以外考えない。

 

 「だって俺は、能天気だから。」

 

 刹那。フルバーストは消失する。

 

 「なっ、なにを……した?」

 

 「スキルの穴ですよ。対象がしっかりと存在しないと使えない。俺は戦うことをやめたんです。だから、スキルは消滅した。」

 

 「なっ」

 

 「貴方が対象として見ていたのは憎い転生者・勇者です。俺は転生者であなたの息子、リバイア・ガードナーですから。」

 

 オレは微笑む。

 

 「はっ、はは。」

 サーベルは吹き出す。

 「俺が、ただ復讐に魂奪われるとはな。そうか、お前の証明ってそういうことか。……俺も偉く歳をとったものだな。」

 

 今のサーベルに敵意はない。

 

 俺の知っている父親のサーベル・ガードナーだ。

 

 男前でかっこいい、自慢の父親。

 

 そしてこの国最強の男。

 

 サーベルは俺の頭を力いっぱい撫で回す。

 

 「デカくなったな。……やるだけやってみろ。少しだけ、お前に期待してやる。俺はてっきり、お前は俺を殺す気でいると思ってた。でも違った、お前はどこまでもまっすぐ、俺に認めてもらうために頑張ってた。自分が汚れていたんだって気がつくぐらいに。俺の言った通り、お前は知識を得て、証明して見せた。何も言うことは無いさ。その能天気さ、それは武器だ。」

 

 サーベルは遠くを見つめながら話している。

 

 「戦うことしか出来なくなったこの世界。そんなのは嫌だって、それでこの国のためにやってたのによ。いつの日か、勇者やセインペトを倒すことを考えていた。親父がな、いや、お前からすればじぃさんか。目の前で勇者に殺されたんだ。中立をうたう、国である限り、仕方なかったが。俺はあいつを恨んで恨んで仕方なかった。そんな時お前が生まれて、天からの導きだと思った。また、破壊者なる前にってな。でも違うよな。そうならないように育てる。それが、正しかった。この世界は平和ではない。戦って、やって、やり返されて、戦うことでしか道が見えなくなった世界だ。……お前は能天気でいい。それでやってけ。」

 

 サーベルはにこっと微笑む。

 リッツは涙を流している。

 

 チーノは勢いよく俺に抱きつく。

 

 ずっと頑張ってきた。一緒に頑張ってきた。

 そうだよな?チーノ。

 

 「文句はないよな。ロン。」

 「ええ。彼なら問題ないでしょう。チーノはベタ惚れですし。……多分殺してたら、俺らが殺されてますね。」

 「ああ、戦闘中殺意バチバチだった。」

 「……好きなことのために頑張る。ですか、やはり異世界の方は変わってます。でも彼ならセインペトとも、破壊者とも違う、何かを見つけてくれそうです。俺たち大人はそれが崩れないように支援していきましょう。彼の戦わない向き合う姿勢は、我々の長年の答え……なのかもしれませんね。」

 「ああ。俺も危うく、同じことをするところだった。争うという本質を本当に教えられたのは俺たちなのかもな。」

 

 それから月日は流れ、俺とチーノはメサイアに入門することとなった。

 

 「チーノ。準備はいいか。」

 「はい、リバイア。」

 

 銀髪に赤眼。

 透き通った肌。

 青色の服が良く似合う少女。

 

 チーノ・パステワード。

 

 「あ、あの。そんなに褒められると照れます。」

 「ほえっ!?す、すまん。ついな。」

 おかしい。最近、チーノがやたら可愛く見える。

 魅了も精神攻撃も受けていないのに。

 

 「あの、相談が。」

 チーノが不安そうに口を開く。

 

 「メサイアに入ったら、私と関わらない方がいいかと。」

 

 「人種差別の件…だろ。気にすんな。どちらにせよ、俺は常識が偏ってる。…それに、チーノと一緒の方が安心だしな。」

 チーノが嬉しいそうに微笑む。

 

 ついに、学校生活の始まりか。

 

 人間関係、自信ないけど。

 

 もう一度訪れた学校生活だ。

 

 能天気に楽しむとするか。

 

 

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