第2部 campus

第6話 出会い

学校生活。青春。

 

 それは新しい環境。

 胸踊る新生活。

 

 だが、知っている。

 

 オレは知っている。

 

 学校はそれだけではない。

 

 苦手なことにも向き合う必要がある。

 

 そう、俺の苦手とするーーー人間関係だ。

 

 「ずいぶん、学校苦手ですのね。先程から、心がザワついてます。」

 

 入門初日。

 ガードナー家代表として、入門する事を許可された俺は、これから行われる集会を待っていた。

 いわば、入学式ってことだな。

 

 椅子などはなく、貴族の披露宴のような形だ。

 

 周りには同年代と思われる生徒で溢れている。

 

 制服などはなく、それぞれ上品な雰囲気を醸し出している。

 

 俺も珍しく、髪の毛を整え、額を露にし、紳士風の服に身を包んでいる。

 

 傍らに立つのは同じく、パステワード代表として、入門するチーノだ。

 

 彼女はいつも通り可憐で周囲に居る男共に話しかけられては、うまく話を流し、俺の元へと帰ってくる。

 

 今もちょうど帰ってきたところのようだ。

 

 「別に、苦手なわけじゃないけど、いい経験なかったから。」

 俺はチーノの質問に対してそれとなく答える。

 

 「そうなんですね。またリバイアのことが知れて嬉しいです。」

 するとチーノは顔を赤らめながら、嬉しそうに答える。

 

 おいおい、デレデレだな。

 ふと疑問に思う。

 俺は彼女に何かしたのだろうか。

 

 「……一緒に居て、色々見てきたからですよ。」

 心を読んだのか、チーノはあっさり答えてみせる。

 

 「よ!お前らがガードナー一族、パステワード一族代表?」

 

 不意に金髪の男性に話しかけられる。

 服装と育ちの良い雰囲気とは裏腹に、ものすごく馴れ馴れしい人だ。

 

 話しかけてきた男性は金髪に青色の瞳。白の服装に身を包んでいる。

 後ろには同じく、金髪青い瞳の少女が見え隠れしている。

 

 「ど、どうも。」

 少女は微かな声で挨拶をする。

 

 刹那。記憶が蘇る。

 

 『隣の席だね、よろしく。』

 『ど、どうも、よろしくお願いします。』

 ユノと初めて会った時、こんな感じで、人見知りという雰囲気だった。

 

 あれ、この子よく見たら、少しユノに似ているような気がする。

 

 気のせいだろうか。

 髪の色や目の色は違うが、雰囲気が似ている。

 

 俺が懐かしくて重ねてみているのか?

 

 「おいおい、お前が人見知り凄いから、ガードナー困ってんだろ?」

 「す、すすすすみせん!!わたわた、私!なにか失礼なことを!!」

 

 俺が考え事をしていたからだろうか、気さくに話しかけてくれた2人を困らせているらしい。

 

 「いえ、家のガードナーがそちらのお嬢様に見とれていただけです。」

 俺が話そうとしたが、チーノがやや不機嫌そうに会話を妨害する。

 

 「おい!変な事言うなよ!こういうのは初対面が大事なんだぞ!」

 

 「あーそうですね。お近付きになれますもんね。」

 「なに怒ってんだよ。」

 

 オレは少し困りながら、放置してしまっている2人に話しかける。

 「すみません、騒がしくしてしまって。リバイア・ガードナーです。よろしく。」

 俺は自己紹介し、話の流れを戻す。

 「申し遅れました。ワタクシはチーノ・パステワードと申します。」

 

 それに釣られるように自己紹介する流れが生まれる。

 

 「ああ。すまないな。急に話しかけて。俺はフレスト。家名は伏せさせてくれ。こっちは妹のフレリアス。ややこしいから、俺はレスト、妹はリアスって呼んでやってくれ。」

 

 「よろしくお願いします。先程はご無礼を。」

 

 「んいや、気にしてない。兄妹で入門って珍しいですね。」

 

 「ああ、妹が少々病弱でな。あと俺は、あんま頭良くなくってよ。少し遅れたんだよ。親父にいつも怒られてな。」

 

 病弱な所までも似ているのか。

 

 つい意識してしまう。

 彼女は本当によく似ている。

 

 病弱そうな白い肌。子犬のような無垢な瞳。サラサラの髪の毛。

 

 俺のーーーー。

 

 刹那。頭にモザイクがかかる。

 

 悲しいことに記憶が徐々に薄れている。

 

 ユノは死んだ。

 俺も死んだ。

 

 そしてタクト、あいつはどうなった?

 

 いかんな。つい、昔のことを考えてしまう。

 

 俺は今、第2の人生を歩んでいるんだ。

 

 過去の経験を参考にすることは大事だが、今のは違う気がする。

 

 俺には今、チーノがいる。

 

 それに目の前のリアスに失礼だ。

 

 俺はそれから少し2人と話し、仲良くなったのでそのまま4人で入門をやり過ごす。

 

 今日は入門の式だけで終わりらしい。手配された寮に戻る。

 

 「じゃあここでお別れだな。明日からよろしく。」

 俺は寮に入るとチーノにそう告げる。

 

 メサイアでは、それぞれ一人用の個室が用意されており、軽くホテルのように設備がいいらしい。

 ご飯だけはみんなで食べるようになっているようだが、ほかは基本自室で済ますことが出来る。

 

 時代背景が最初は掴めなかったが、属性系スキルを使える人が魔道具というものを作ったらしい。

 本来は誰しもが魔法というものを使えるらしいのだが、魔族が淘汰されたこの時代、魔力の文化が薄れている。

 

 それで属性を誰でも使えるように応用されたのが、魔道具という名の石。

 

 これがあれば水も火も使い放題って訳だ。

 

 能力を上手く使える分俺がいた世界よりもものに関しては発展していると言える。

 

 こういうことができるなら、戦争なんて起きないように工夫できそうだけどな。

 

 オレは自室の扉を開く。

 

 「ーーーーっ!?な、何してんの!?」

 

 俺は目の前の光景に大声で反応する。

 「なにって、自室でシャワー浴びて、今拭いてるところ?」

 

 そう、目の前にはタオル一枚の美少女ーーーチーノがいるのだ。

 

 「あら、えっち。恥ずかしがりながら、ガン見じゃない。」

 

 「おわっつ!?す、すまん!!」

 オレは即座にチーノに背を向けて、出ようとする。

 

 だが、何を思ったか、チーノはそのまま抱きついてくる。

 

 「おお、おお、おい!?」

 「さっき、あの子のことばっかり考えてた。私、少し嫌な気持ち。」

 

 そうか、忘れてしまいがちだが、こいつ、心の声とか、考えとかわかるんだよな。

 

 いや、まて。だとしても、この状態じゃ、まともに考えられない。

 

 ああ、すげえいい匂い。

 なんか背中に心地の良い物が当たってるし、程よい肉付き。

 

 ああ、この世界の10歳、おかしいって。

 

 常識が違うってレベルじゃない。

 

 「てか、なんで、同じ部屋?」

 俺は必死に冷静な風を装いながら、話す。

 

 「……まあ、いいか。今のは数分、私のことしか考えてなかった。許します。」

 

 「あ、はい。」

 チーノのご褒美…ではなく、チーノは俺から離れ、服を着る。

 

 「同室になってたのよ。大方、ロン兄さんとサーベルさんよ。」

 恐らく、人種差別のことを気にしてだろう。

 俺も転生者だし、色々と気をつけて生活しないといけない。

 その反面、味方が近くにいると夜は安心だ。

 

 …今は別の意味で寝れないけど。

 「そういえば、転生後もハーフでロンの妹なのか?あ、いや、答えたくなかったらいいけど。別にどっちでもチーノは変わらんし。」

 

 「……ふふ、そういうところよ。」

 

 「え?」

 「よく覚えてないの。でも異常な事が起きない限り、種族は変わらないし、生まれも変わらないみたい。2度目はディフィードに置き去りにされていて、同じような経験をした方々に助けてもらった。」

 

 「色々あるんだな。」

 

 「ここは、そこまで差別する人は少ないだろうけど、亜人やセイクリッドは立場が危ういから。あと、転生者は過去の例が最悪だから。」

 

 「そうか、なら同じ部屋で安心だな。」

 

 

 ともあれ、新たな出会いもあり、始まった学校生活。

 

 だが。

 

 どうしてこうなった。

 

 「す、すみません。放っておいて。好きな死に場所探すから。」

 

 目の前には猫耳、しっぽ。

 

 ボロボロで髪も手入れされていない少女ーーーーーデミ・グラス。

 

 いじめられている亜人族の少女が俺の部屋にいた。

 

 隣には複雑な心境のチーノ。

 ビクビクしているリアス。

 

 笑いをこらえているレスト。

 

 初回から波乱万丈だろ。

 

 俺は楽しく生活したいだけなのに。

 

 こうなったら、意地でも諸々の問題解決してやる。

 

 俺の平穏を邪魔すると言うなら。

 

 俺のやるべき事、今やるべき事ってことだ。

 

 これは神様からの試練だ。

 まともに人間関係こなせず、こんな異世界に来てしまった俺への。

 

 ああ、満喫してやる。

 この複雑で面倒な世界を。

 

 

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