第8話 選択していく道


 入門し、数ヶ月が経った。色々あって同室となったデミとも上手く溶け込めてきていた。

 

 相変わらず、チーノとリアスは仲悪く、ギスギスとした雰囲気が流れる。

 

 色々あったせいか、リアスの謎行動の理由は分かりかねているが、彼女にも事情があるのだろう。

 

 俺は深く追求しないようにした。

 チーノは気にくわない様子で、「あのメルヘン女」とよく愚痴を言っている。

 

 入門と言っても最初の2年は基礎の復習。

 この基礎固めでランク付け、適正分け、いわゆるクラス決めが行われる。

 

 この2年の間に行われる、進級試験にて、全てが決まると言っていい。

 

 専門的な知識や力を手に入れるためにはそこで合格しなければならない。

 

 そしてこの2年はスキルなどの実技授業は少ない。にもかかわらず進級試験は級友との試合形式で行われる。

 自らで調べ、学ぶ。

 

 そういう方針だ。

 

 偏ったやり方ではあるが、やる気のないものは淘汰され、力を欲するものだけが生き残る。

 

 実力は正当に評価される。力あるもののみが差別を免れる。

 差別化が進むこの世界において、力は重要なものということだろう。

 

 嫌なやり方だ。

 

 モグの件もあったが、特に特別な講義もあったもんじゃない。

 

 依然、デミは周りから嫌な目で見られる。

 

 その都度、俺やみんなが助けているにもかかわらず、何も変わりはしない。

 

 どうしようもない無力感だけが俺を襲う。

 

 差別を覆すことは出来ない。

 そう言われてる気がして、腹が立つ。

 

 本当にこの世界は人種差別がすぎる。

 

 考えてみれば、俺がいた日本が少なかっただけで、海の向こう側は、いつも争っていた気がする。

 

 俺は外の世界のことだと気にしていなかった。

 

 本当に嫌になる。

 つくづく俺は自分のことで頭がいっぱいで、自分がまるで被害の中心にいると、そう思っていたと痛感させられる。

 

 俺は俺の中で眠っていた気持ちを自覚する。

 

 徐々にオレがするべきことがわかってきた、そんな気がしていた。

 

 俺はメサイアに設置されている図書館にて、書籍を眺めていた。

 

 魔法、スキル、魔族、人間。

 

 ここら辺の話を先生方はあまり詳しくは話さない。

 

 しかし、力を正しく使うためには理解する必要があると感じた。

 

 家にあった本ではディフィード設立の話が多く、細かい話は割愛されている。

 

 勇者のことも一般程度のことしか分からない。

 

 そのため、俺は書籍をひたすら読むことが日課となっていた。

 

 『転生者と召喚の門事件について。(刊行N1600 著ベスト・エラン)』

 

 なんだ、この本?

 俺が生まれた年に刊行されているな。そういえば、俺が産まれる前に召喚の門が4つ開いたとかってロンが言ってたな。

 

 俺は興味本位でその本を読むことにした。

 

 設備してある椅子に腰を下ろし、机に何冊かの本と、先程の本を並べ、読み進める。

 

 ーーーー先に、勇者というものの存在について軽く紹介しよう。

 N歴1570年、勇者は突如として、この世界に現れた。

 

 類まれなる力を持ち、魔族との戦いが続く世の中で、次々と有力な魔族を倒して行った。

 名は、ユーリ・ダークド。独特な名前であったため、表記するとこのようになってしまうが、理解頂きたい。

 

 ユーリ・ダークド?なんだろう。この感じ。どこかで聞いた馴染みのある名前だ。

 

 とても嫌な感覚が全身を襲う。

 

 独特な名前?って日本語に近いってことだろうか?よく、海外の人は日本人の名前が言いづらいと聞いたことがある。ニュールドの人達もどちらかというと発音は英語に近い。

 

 なまってこのように伝えられているのだろうか?

 

 読み進めよう。

 

 ーーーー。

 彼は灼熱の髪色、漆黒に染った瞳をしていた。

 

 複数の魔法を使い、スキルも桁違いの強さ。

 

 人間を超えていた。

 知識も高く、適応も早い。

 

 彼は自らを『転生者』と名乗ったそうだ。

 異世界の地より舞い降りた、そう表現したらしい。

 

 その当時、魔族討伐に力を注いでいたセインペトの神官『ペーテル』は、人間絶対主義を提唱しており、今のセインペトを作り出したのは彼と言ってもいい。この彼が勇者を召喚したと言われている。

 

 元々、平等を唱えていたパステワード卿を殺害したという噂もある。

 

 「っ!?なん、だこの本?なんで、こんなモンが…」

 どう考えてもおかしかった。重要な歴史の一部を知っている人の本であると推測されるもの。

 

 それが、この世界において、こんなん簡単に見れたら、世界はこんなにも複雑化していないからだ。

 「それは、私が答えます。」

 

 不意に声をかけられ、振り返ると、チーノがそこにいた。

 

 「いないと思ったら、また、本ですか?」

 「俺のいた世界じゃ、本ってのは真実が書かれることが多かったんだ。ネットよりも信ぴょう性が高いって。」

 

 「ネット、というものが、この世界にはありませんから。この世界で言えば、情報を得るなら、本って、この世界は決まってます。でも、だからこそ、目で見たことが、この世界においてはもっとも信ぴょう性が高い。どこも戦争してますからね。私たちみたいに教育受けられるところも少ないですから。」

 

 「つまり、本はあんまり、信じられてないってことか?」

 

 「そういうことになります。本よりも自分で試す、証明する。これが基本です。」

 

 「なら、座学も意味ないじゃんか。」

 「ええ。だから、進級試験があるんです。」

 

 「つまりは、学んだこと、調べたこと、試して、物にして、最後に発揮する、そういうことか?」

 

 「そういうことになります。」

 

 俺はため息をする。

 

 「歴史は意味ないってことか?」

 

 「そうなります。だからこの本も、真実は書かれていたとしても、証明できない。だからここにあるんです。」

 

 「そうかよ。なら見なくていいか。でも、確認。読んでたなら、さっきの文章、本当か?」

 

 俺は少し含みを持たせて質問する。

 

 「はい。詳しくはいいませんけど。」

 

 「それでいい。誰聞いてるか分からんしな。」

 

 俺はその場を後にした。

 

 「さっき、誰かいましたね。」

 「ああ、俺もそう思って含ませた。」

 

 「あの本、見られると困る方がいたみたいですね。」

 

 「そうなんだろうな。恐らくは、後半部分だ。」

 

 「4つの召喚門。ですね。」

 

 「ああ。多分このメサイアに一人はいる。」

 

 「もし、なにかあるのであれば、時が来れば分かりますよ。」

 

 「狙われるか?俺は?」

 

 「どうでしょう?探っていたみたいでしたから。」

 

 「まあ、暗殺は無理だし、気にせず過ごすか。」

 

 ーーーーー。

 

 『回収したか』

 『はい。こちらです。』

 『バレてないだろうな。』

 

 『いえ、アイツ思ったよりも凄腕みたいっす』

 

 『ちっ。まあいい。奴が転生者なのは、間違いねえ。こんな本に釣られるとはな。』

 

 『兄貴は、アイツを殺すんっすか?』

 

 『ガードナーは、俺たちフラットベースを裏切った。そして、今度のセガレは転生者だ?許されるわけないだろう。世界を救うために転生者には消えてもらう。』

 

 『じゃ、じゃあ!あのデミって女は俺にやらせてください!!』

 

 『っ!!!亜人族はちげえっつてんだろ!!悪ぃのはガードナーと転生者、そして、セインペトだけだ。』

 

 『いった、いたた、やめ、す、すみませんでした!!!』

 

 『罰だ。ガードナー殺して見せろ。』

 

 ーーーー。

 

 深夜。寝静まった頃だ。

 

 俺はチーノに警戒するように伝えていた。

 

 おそらく、相手は俺を試している。

 

 情報を得ようとするはずだ。

 

 まずは、手下を仕向けてくるか?

 俺のバリアの有効範囲を調べるはずだ。

 

 襲ってきたら、バリアで封じ込める。

 

 「っ!!」

 きたか。

 

 刹那。服が擦れるような音がなる。

 

 俺は標的をイメージし、バリアを展開する。

 

 「しまっ!?」

 

 「男に夜這いされても、嬉しくねーんだが?おまえもそうだろ?モグ。」

 

 俺を襲ってきた犯人はーーーーモグ・ザード。

 

 以前の腹いせだろうか。それともーーーー。

 

 「ちっ。気が付いていたのか。」

 「当たり前だ。誰の差し金だ?」

 

 俺は、カマをかけてみる。こいつは頭がいいほうではない。どちらかと言えば、利用されるような人間だ。

 

 そして、以前負けている俺を倒そうとするということは、勝機があったからだ。

 

 そして、以前見せていないバリアを使用しても、驚きもしない。

 

 あたかも知っていたかのような素振りだ。

 

 「へっ。話すわけねーだろ?ミッションは達成した。…ちなみに、俺にチーノ・パステワードのユニークスキルは効かないから。無駄な努力はやめな。忠告しといてやる。お前らは後手に回ってる。……あばよ。」

 

 モグはバリアに包まれているにも関わらず、その場から姿を消す。

 

 いや、黒い何かに飲まれた、が正しいだろうか。

 

 「……闇魔法ですね。」

 

 「知ってるのか?」

 

 「はい。一度場所を変えましょう。誰に聞かれるか分かりません。」

 

 ーーーー。

 『バリアは物理攻撃のみ無効だな。スキルや魔法に対する耐性はない、合ってるか?』

 

 『はい、兄貴の魔法で体を覆えば、難なく抜けれました。』

 

 『ってことは、俺は簡単にアイツをやれるわけか。』

 

 『で、でも、驚きましたよ。殺せだなんて。』

 

 『ああ、期間は設けてなかったな。今回はバリアの効果範囲を知っておきたかった。これから数日、何回かに分けて、攻撃して、戦え。そして、全て報告しろ。そして、毎回殺す気でいけ。』

 

 『なあっ!?何言ってるんだ!オレが死ぬじゃないか!』

 

 『ああ?バリア、難なく抜けられるんだろ?なんのためにお前にアレを与えたと思ってる?働けよ。将来も約束してんだ。それとも、全て捨てて国に帰るか?』

 

 『わかり、ました。』

 

 ーーーー。

 

 夜。月が俺たち2人を照らす。

 

 辺りは草原。

 

 幻想的に煌めく、星々。

 

 チーノに連れられてやってきたのはメサイアから少し離れた場所。

 

 チーノは立ち止まるとセイクリッドスキル・聖域を展開する。

 

 これで暫くは誰も立ち寄れない。

 

 「外側にバリア張って貰えます?」

 

 「なるほど、ね。念には念をってね。」

 

 俺は言われたとおり、外側にバリアを展開させる。

 

 「ここまで、やるって事は色々久しぶりに話せそうだな。」

 

 「ええ。さっきの男。これからも襲ってくるので、ここらで時間を作っておかなければと、思いまして。」

 

 「まあ、そうだな。さっきの本、そして、闇魔法。あとはチーノ。お前の話もだな。」

 

 「はい、差別を嫌うあなただからこそ、お話します。そして、きっと貴方は、それを変えるために、動ける人です。ーーーだから、これから語るのは、あなたの進むべき道の糧にしてください。」

 

 「……俺の道。」

 

 「見えてきているのでしょう?この世界でやりたいことが。そして、元の世界での後悔が。」

 

 「よく分かってるな。聞かせてくれよ。お前が歩んできた道を。そして、これから進む、道を。」

 

 

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