最終話 マイペース旅


 ついに決戦の日だ。

 

 俺は、眠りから覚め、体を起き上がらせる。

 

 「……見慣れたな、この光景も。」

 夢にユノが現れた時点で、予想は着いていたが、オレは目の前に広がる光景に呆れる。

 

 下着姿の美少女2人が俺の布団の中にいるのだ。

 

 「2人とも、今日は大切な日だろう?起きろよ。」

 

 「ふふ、大切な日だからこそですよ。いつも通りに、自分らしくしなくては。」

 チーノは俺のセリフを待っていたかのように右目だけを開けて、お茶目な様子で俺に話しかけてくる。

 

 「まあ、そうだな。」

 

 「おはようございます。リバイア様。……ユノ様とは、お話できましたか?」

 

 「ああ、サンキューな。2人とも。やっとケジメつけれたよ。俺はやっと、リバイアとして、この世界を生きることが出来る。」

 

 寝起きながらに心配そうな瞳で見つめてくるリアスに、俺は感謝の意を伝える。

 

 すると2人とも安心したように、頬を緩ませる。

 

 これで、2人にも枷は無くなったはずだ。

 

 あとは、俺が頑張る番だ。

 

 「さ、最後の戦いだ。」

 

 俺は高らかに宣言した。

 ーーーーーーーーー。

 

 「おお。ついに、作戦開始か。」

 出発の準備が整い、俺たちは新王『フレスト・フラットベース』に出発のご挨拶をしていた。

 

 「はい、王様。準備は整いましたので、ご挨拶に伺いました。」

 

 俺は跪きながら、王へ頭を垂れる。これが王族への正しい対応だ。

 彼はこれから一国の王となるのだ。近しい人間こそ、しっかり、態度を示す必要がある。

 

 「慣れないな。その感じ。まあ、いいか。まずは形からだな。頼んだぞ。」

 

 やや、苦笑いしながらレストはオレは俺に思いを託す。

 

 昨日、彼の想いは受け取っている。

 

 もう言葉は必要なかった。

 ーーーーーー。

 レストはこれから新たな国を作る。

 そのためには、まずはセインペトを止めなければならない。

 

 いや、セインペトというよりかは、ペーテルとタクトの2人の体制を崩す必要がある。

 

 「作戦は頭に入ってんだろうな?俺への負担すごいんだから頼むぜ。」

 王への謁見を終え、モグに肩を組まれ絡まれる。

 

 「ああ。お前の力が頼りだ。」

 

 「任せとけ。」

 

 俺とモグは目を合わせ、お互いに真剣な態度であることを確認し、頼もしいと感じる。

 

 「リアス、この戦いが終わったら、君は王家に戻ることになる。ギルドメンバーとして最後の仕事だ。」

 

 「はい、分かってますとも。私の光の力、存分に発揮します。」

 

 ーーーーーー。

 

 キュリアとデミは先に旅立っている。

 

 2人とも新たなエランティアに必要な存在だ。

 

 今はレジスタンスとして、国を足止めするのが目的だが、いずれ2人にはエランティアを変えるために動いてもらう。

 

 戦争が終わってしまえば、エランティアは自然的に消滅してしまう。

 

 そんな争いのためだけの国とするには惜しいほどに多くの国を飲み込んでしまっている。

 

 軍事国家としての役割だけでなく、新たな体系を築く必要がある。

 

 魔力の才能と亜人や他種族への理解のあるデミと、剣戟の天才であり、エランティアの血を持つキュリアなら、新たな国を作ることが出来るだろう。

 

 そして、残るはディフィードのあり方と、セインペトの今後だ。

 

 両国ともに、自分の国への愛が強すぎて、他の国と揉める可能性が多く含まれている。

 

 だから俺は、この戦いに勝って、『あることをディフィードに提案している。』

 

 ーーーーーー。

 

 「久しぶりですね。ロンさん。」

 

 「2年前にディフィード訪れた以来か。全く、転生者と言うやつは良くも悪くも自分勝手だな。」

 

 目の前には懐かしい顔。

 赤い瞳に、白銀の髪の毛。

 白と青を基調とした服に金色の刺繍のされた、まるで、神父のような服を身に纏う青年ーーーーロン・パステワード。

 

 「マイペースで能天気なのが、俺の長所と短所なんで。」

 

 「でも兄さん、リバイアの作戦賛成してるから来たんでしょ?」

 

 「まあな。今のセインペトが生まれてしまったのは私のせいでもある。……改めて礼を言う、今ディフィードに任をおくわたしにこんな機会をくれて、ありがとう。」

 

 「気にしないでください。今度は後釜間違えないでくださいね。」

 

 「ああ、もちろんだ。」

 

 今回の作戦、ロンも参加してもらう。

 ペーテルを撃つべき人間は彼でなければいけない。

 

 「俺は、タクトを、いえ。勇者を相手します。救世主として、この世界に呼ばれたんですから。俺にその責任があります。」

 

 「ああ。サーベル様もディフィードの撹乱作戦、許可してくださった。……リバイア、妹のことも君には頼みたいと思っている。決して、命を無駄にするなよ?」

 

 「分かってます。」

 

 前世では、何度も命を絶とうとした。

 

 だが、俺は。今の俺は命を捨てたってなんの意味もみいだせないと、この世界に来て学んだ。

 

 そして、自らの正義を振りかざすことも、違うと。

 

 俺は救世主としてこの世界に呼ばれた。

 

 だが、だからといって俺が行う行動全てが正しいわけじゃない。

 

 俺なりに正しいと思うことを色んな人の支えの元、実現する。

 

 これは俺が今まで何度も生きてきたから成し得ることだ。

 

 だから、悪を滅ぼして終わる、そんな簡単なやり方では、世界を変えられないと知っている。

 

 そんな世界の成れの果てがこの世界なんだ。

 

 間違いだって、受け入れる必要がある。

 

 成功のためには、間違うことも必要なんだ。

 

 だから俺はそんな、間違った世界だって否定はしない。

 

 一緒に歩んでいくんだ。

 

 ーーーーーー。

 俺は強い決意を胸に作戦を開始した。

 

 「待ってろよ、タクト。これが、最後のやり残したことだ。」

 

 数時間が経過し、ようやく、セインペト付近に到着する。

 

 「モグ、行けるな?」

 「任せろ。」

 

 モグが闇のスキルを唱えると、体が影に吸い込まれ、姿を消す。

 

 レストから闇のスキルを一部譲渡してもらっている状態だ。

 

 タクトがユノから奪った力『未来眼』は、結果は変えられないが、過程は変えられる。

 

 つまり、やつに気が付かれなければ、変えられる可能性は下がる。

 

 そのためには闇のスキルが不可欠だ。

 

 モグは闇のスキルによってセインペトに乗り込む。

 

 そして頭に声が響いてくる。

 

 「偵察は完了した、神殿の周りに兵士がたくさんいやがる。ざっと一万は警備しているな。もちろん、神殿内部、城下町にも偵察の部隊が居る。城は3階建てのようだが、各フロアに凄腕の戦士がいる。」

 

 なるほど、1万ほどか。残りの部隊はエランティアに進行しているわけだな。

 

 ディフィードの撹乱上手くいくといいが。

 

 「ありがとう、そのまま待機していてくれ。合流次第、リアスに回復させる。」

 

 「了解した。」

 

 モグの本来持つスキル『コネクト』これにより、俺たちの意識を繋げて、通信機のような役割をモグにさせる。

 

 闇のスキルは使用時間が長いと闇に取り込まれる危険があるため、随時、リアスと合流させ、光で打ち消す、という作戦だ。

 

 周りの兵士に関しては、チーノの出番だ。

 

 「いけるか?チーノ。」

 

 「はい、もちろんです。」

 

 俺はチーノの肩に触れ、バリアを付与してやる。

 

 「ありがとう、行きますっ!」

 

 チーノとともに、セインペトに乗り込むと、一瞬のうちに囲まれる。

 

 しかしーーーー。

 

 「ユニークスキル精神操作っ!」

 

 チーノが唱えると周りにいた兵士たちは、その場に倒れる。

 

 「これが、チーノのガチの力か。恐ろしいぜ。」

 

 「あなたには効きませんけどね。」

 

 刹那、頭に声が響く。

 

 「気をつけろ!スキルの影響受けていない兵士もいるぞ!」

 

 城下町に入ると、家の屋根から次々と兵士が来る。

 

 俺の背後から、モグが出現する。

 

 「こっからは、戦うしか無さそうだっ!!!」

 

 

 「俺に任せろっ!バリアランスっ!」

 

 俺はスキルを唱え、四方八方にバリアを飛ばし、そのまま覆う。

 

 「なっ!?なんだっ!息がっ!!」

 

 周りにいた兵士は全員、バリアによって呼吸が苦しくなる。

 

 魔眼を使えるようになってからか、バリア内の空気を操作できるようになった。レストやモグのようにスキルを体に宿せる人間はそう多くはいない。ましてや、一般兵はこれで、倒せるはずだ。

 

 「精神操作っ!!!」

 

 呼吸が出来なくなり、隙ができた兵士を狙い、チーノがスキルを唱える。すると、兵士達は全員意識を失う。

 

 俺はバリアを解除し、兵士が息をしていることに安堵する。

 

 「セイクリッドスキルっ!!!」

 

 城の方から無数のスキルが飛んでくる。

 

 「そうだよなっ!セイクリッド国家だったな!!兵士は日雇いのフェイク!」

 

 「いくぞ、チーノ、リアスっ!!!」

 ロンが高らかに宣言し3人は、飛んでくるスキルを相殺する。

 

 辺りは眩い光に包まれ行く。

 

 「キリがないっ!!モグ行けるかっ!」

 

 俺はモグに声をかけ、モグは頷く。

 

 お互いに地面に手を付き、スキルを発動させる。

 

 「「ガーディアンスキル・隆起っ!!!」」

 

 スキルによって、地面を隆起させ、城までのトンネルを形成する。

 

 「駆け抜けるぞ!!身体加速っ!!!」

 

 俺は全員にスキルを付与し、一気に神殿まで駆け抜ける。

 

 ようやく神殿に到着し、門を破壊する。

 

 「皆さんに癒しをっ!」

 リアスが唱えると全員の体が光に包まれ、体力が回復する。

 

 「ありがとう、リアス。」

 「行きましょう!」

 

 門を壊し、先に進むと大きな階段の前に、一人の鎧を着た戦士が立ちはだかる。

 

 男は長い黒髪を1本にまとめ、俺たちを見下しながら、立ち塞がる。

 

 「ここで、終わりにさせてもらいましょうか。」

 男はニヤつきながら俺たちに話しかける。

 

 「4人は先行ってくれ。こいつは俺一人で何とかする。」

 「モグ、でもっ!」

 

 「みんなには役割あんだろ?」

 モグの決意は強い。瞳が先にいけと強く訴えかけてくる。

 

 「なら、私も残ります。闇のスキルを使うなら、私もいた方がいいでしょう?……私はユノ様の器でしかない。最後の戦いの場に相応しいのは記憶を受け継いでいるチーノ様です。……でも、私、譲る気ありませんから。」

 

 リアスは宣言すると俺の頬にキスをする。

 

 「なっ!?」

 俺は顔が熱くなるのを感じずにはいられなかった。

 

 「ふふ、やっと私のこと意識してくれましたね?ただ、これは、光の加護ですよ。」

 少し、大人びた笑顔を向けるリアス。

 

 彼女にもちゃんと向き合う。そう決めたんだ。

 

 「ありがとう、先に行って、待ってるからなっ!」

 

 「行かせるとおもいますかっ!目の前で、神聖なこの神殿で、不埒なっ!!!」

 

 男は全身から光のスキルを展開させる。

 

 「みんなを行かせるのが俺の役割なんだよっ!!!」

 

 モグは素早く、男の間合いに入ると剣を抜く。

 

 「思いあがるなあっ!!!」

 

 男はスキルで剣を生成し、モグと剣を交える。

 

 「行けーっ!!!」

 

 俺はその瞬間を見計らって、走り出したーーーー。

 

 「ほんっとうに、ハレンチです。神聖な場所でキスなど。」

 口を奢らせながら、チーノが不満を漏らす。

 

 俺は苦笑いしながら先に進む。

 

 ロンはなんとも言えない顔で俺を見つめてくる。

 

 「悪かったって。気を取り直して、行くぞ。」

 「後で、私もしますからねっ」

 チーノが顔を赤く染めながら、可愛らしく上目遣いで言ってくる。

 

 ーーーー。

 

 薄暗い道が続く。

 

 「ロン、本当にこの道で合ってるか?」

 

 「ああ、この道はセイクリッドにしか分からない力の源を辿ることで、神殿の最奥『テフェト様』に会うことができるんだ。」

 

 テフェト。この世界の神。

 

 ユノやタクト、俺をこの世界に呼んだ張本人だ。

 

 タクトはペーテルに召喚されてだが、巻き込まれた事に違いはない。

 

 そして、俺に救世主の力なんてものを与え、タクトを殺させようとしている。

 

 「ここだ、この階段を登れば、最奥に行ける。チーノ、リバイア行ってこい。」

 

 俺たち2人はロンに背中を押される。

 

 「えっ!?」

 

 ロンはニコッと笑ってみせる。

 

 「ここは俺に任せてくれ。2人は勇者を。そうだろ?ペーテル。」

 

 ロンは俺たちに背を向ける。

 

 薄暗くて見えないが、確かにロンの目の前に人影があることが分かる。

 

 「今度こそ、転生なんてさせませんよ。ハーフエルフっ!!!魔族の血は絶えさせるっ!!!この世界に祝福をっ!!!アハっ!アハハっ!」

 

 狂ったようにペーテルは笑ってみせる。

 

 「お前を浄化してやる。覚悟しろ、ペーテル。その腐った魂、解放してやるっ!!!」

 

 

 

 

 「死なないでね、にぃさん。」

 

 ーーーーー。

 

 「ようやく来たか。待ちくたびれたぜ?リツオ、ユノ。」

 

 「人違いだな。俺はリバイア・ガードナー。そしてこっちはチーノ・パステワードだ。」

 

 「へぇ。すっかり、その気かよ。まあ、そんな滾らせんなよ。少し、話そーぜ。これで本当に最後なんだからよ。」

 

 神殿の最奥。

 

 いつか、夢で見た神殿。

 

 思ったよりも落ち着いた様子で、タクトは待ち構えていた。

 

 相変わらず瞳に光は映らない。

 

 黒を基調とした装いに身を包み、人を見下したように話す様。

 

 本当にお前が、ラスボスなんだな。

 

 勇輝託人。

 

 輝く勇気を託せるようなそんな人間になりたい。

 

 彼の最初の自己紹介だ。

 

 どうして、お前はそんな黒く染ったんだ。

 

 俺はタクトを見据える。

 

 「ユノの能力についてはわかったようだな?」

 

 「ああ。俺を選んだ理由も、お前がここにいる理由も。」

 

 分からないとすれば、タクトは前世と同じ姿をしているということ。

 

 そして、年齢が変わっていない。

 

 「分からないとすれば、その姿だな。」

 

 「ああ?これか。こいつは、未来眼の力だよ。時間を司る力だからな。俺の寿命はこの世界に転移した時から止まってる。俺はお前と違って、この世界に転移してきた。勇者としての魔王を倒すという役割を終えれば、元の世界に戻れるはずだった。でもテフェトに書き換えられた。」

 

 言いながら、タクトは背後に聳え立つ、巨大な像『テフェト』を見据えて言う。

 

 「この、とんでも神様がこの世界にお前やユノを呼び寄せたせいで、俺は、元の世界との繋がりが消えてしまった。こんなくそみたいな世界、さっさと、おさらばしたいんだがな。」

 

 「お前の力なら、もっとスマートに出来たんじゃないのか?」

 

 「なら、聞くが。なんの頼りもなくこの世界に来て、お前は上手くやれたのか?」

 

 「くっ。」

 

 痛いところをつかれる。

 ここまで何とかやってきたが、先の勇者の前例がなければ、同じ結末を迎えていてもおかしくはない。

 

 つまり、俺は、タクトがいたから。

 タクトが先に召喚されていたから間違わずに済んだと言える。

 

 「だが、俺はやってきたことを後悔はしていない。お前みたいな甘いやり方じゃ、いずれまた戦争が起きるぞ?」

 

 「だからって、敵対する勢力が現れる度に戦っていたら、力こそ全ての世界が生まれるっ!」

 

 「力を持つものが世界を支配して何が悪い?」

 

 「やり方が気に入らないと言っているっ!」

 俺は走り出し、タクト目掛けて拳を突き出す。

 

 タクトは俺の拳を軽くつかみ、受け流すように俺を像の方へと投げ飛ばす。

 

 「っ!?」

 

 俺は強い衝撃によって一瞬呼吸が止まる。

 

 「っあっ!はぁ、はぁ。」

 

 勢いよく、むせかえり、呼吸を取り戻す。

 

 「まあ聞けよ。俺とお前の意見が合わないなんて前世からだろ?」

 

 「っあ。はあ。……へへ。そうだったな。」

 

 俺はゆっくりと起き上がり、素早く前方へ受身をとりながら、チーノの前へと戻る。

 

 「すまん、先走った。」

 「いえ、苦手な方なのでしょう?どうか、自分を見失わないで。」

 

 「なあ、知ってるか。そこにいる、チーノなら分かるか。ユノは何度も俺たちを助けようとした。そのうちの世界に俺たちが仲良くしていた世界もあったんだ。」

 

 俺は驚き、そうなのか?という表情でチーノの方を見やる。

 チーノは軽く頷いてみせる。

 

 「ユノは、自分が関わることで2人は揉めてしまう。そう考えた。だから、俺たちに関わらないように学校を多く休み、俺たちと繋がるはずの接点を減らしていったんだ。俺は別に、ユノのことさえなければ、お前になんの感情も抱かなかった。スキルによる、怒りも抑制することが出来て、お前と仲良くしていたんだ。」

 

 「……でも結果は変えられない。」

 

 「ああ。その通りだ。どんな道を辿ったって俺はあの日誰かを殺すことになっている。そして、お前はそんな俺を止めようとする。どんな世界でもだ。それによって俺は勇者……いや、『世界の破壊者』として、ペーテルに召喚され、お前は『世界の救世主』として、ユノに選ばれる。」

 

 「だから、ユノさんは最後の世界で自分が死ぬことを結果に加えた。そうすることで、2人を助けられると思ったから。」

 

 チーノが付け足すように話す。

 

 「ああ。その通りだ。皮肉なもんだ。オレは人を殺すことで力に目覚め、お前は人を救うことで力に目覚めた。そして、良くも悪くもその力はこの世界『ニュールド』にとって必要なものだった。……なあ、俺はお前に殺されるんだろ?」

 

 「さあ、どうだがな。でも、少なくともオレは殺す気は無いぞ。」

 

 「俺は殺すことでしか生きられないんだよっ!」

 タクトは大声を出すと力を漲られせる。

 

 「ユニークスキル・破壊者っ!」

 

 「お前が破壊する全てをオレが守り抜いてやるっ!ユニークスキル・バリアっ!」

 

 タクトが発動する赤と黒の閃光をオレは青と黄色のバリアで打ち消す。

 

 2つの閃光は速度をまし、光のぶつかり合いが繰り広げれる。

 

 お互いにオーラを滾らせ、周囲の神殿が蠢き出す。

 

 「はぁ。はぁ。やるじゃねぇかっ!!リツオっ!!!」

 

 「お前もなっ!タクトォ!」

 

 お互いに消されては打ち返しての繰り返し。

 

 チーノはその様子を眺めている事しか出来ない。

 

 「チーノっ!お前は俺たちの戦いを見届けてくれっ!ユノの記憶を持つお前にしかできない事だっ!」

 

 俺は不安そうな顔をし続けるチーノに人声かける。

 

 辺りは閃光の勢いで暴風が起こり、建物全体が揺れ動いている。

 

 まさか、俺の力が本当にタクトを倒すためにあるとは。

 

 俺はタクトの破壊のスキルを魔眼で無力化し、更に自分の力に変えバリアによる物理攻撃を食らわせる。

 

 しかし、その攻撃をタクトはいとも簡単に壊してみせる。

 

 「おいおいおいおいっ!このまんままだと何も守れねーぞ?リツオっ!!!俺の力は無限そのものっ!さあ、どうするっ!!」

 

 

 俺はニヤリと笑ってみせる。

 

 「さっき自分で言っただろう?俺の力は、人を守ることだ。そして、タクト、それはお前も例外じゃないっ!!!」

 

 バリアの攻撃への応用。

 たしかに、これまで幾度なく助けられた。

 

 でも俺が力に目覚めたきっかけは、誰かを守りたいという気持ちだ。

 

 だから。

 

 「……俺のスキルを破壊しろっ!!」

 

 タクトの無数の攻撃は俺のバリアへの攻撃。

 

 なら、破壊させてやればいい。

 

 タクトは膝をつく。

 

 「はあ、はあ。どうだ!俺の勝ちだっ!!!」

 

 「スキルもなくなって、そして魔眼の代償で俺の右目はもう使えない。」

 

 「は?何が言いたいのかわからんなっ!」

 

 「今の俺は救世主でもなんでもないってことだよ。そしてタクト、お前もだ。」

 

 「は?何いってんだっ!スキル・破壊っ!!!……あ、れ?」

 

 タクトは右手を前に出し、スキルを唱えるが、発動しない。

 

 「さっき言った通り、この世界にとって俺たちのスキルは求められるものだった。そして、そのためには目覚める必要があった。……でももう終わったんだよ。タクト。お前は破壊者でも、勇者でもない。もう自由なんだよ。」

 

 「お前……本当に嫌な奴だな。」

 「お互い様だよ。」

 

 俺たちはお互いを見やり、笑う。

 

 俺のスキルは、タクトのスキルによって破壊された。

 

 つまりそれは、破壊される運命だった。

 

 俺の力は本来守る力。

 

 戦う力ではない。

 

 タクトが、本来持つ力は不必要な力を根絶する力。

 

 使い方を間違えていただけなのだ。

 

 つまりこれで、タクトの本当の意味での戦いは終わったということになる。

 

 だから、自然的に力を失ったのだ。

 

 もう使う必要が無いから。

 

 先程の召喚の話を聞いて俺は確信していた。

 

 帰れたはずなのに帰れなくなった。

 

 それは、彼にまだ役割が残されていたから。

 

 傍から見ればそれは、俺に殺されるため。

 

 でも本当は俺が道中で身につけてしまう攻撃を無力化するための役割だ。

 

 恐らく、ペーテルは召喚の際『この世界の邪悪を討ち滅ぼす勇者を召喚せよ』と願ったはず。

 

 彼が定義したのは純粋なセイクリッド以外の存在の消去。

 

 だが、テフェトが定義したのは暴走する力、混乱を招く力の消去だ。

 

 やり方は間違えていて、魔王を殺したのは間違いだ。

 

 だが、だからといってフラットベース王を失い暴走していたアークブ王を野放しにしていれば、確実に世界は滅んだだろう。

 

 彼の力も求められる力だったのだ。

 

 「すまなかったな。」

 

 タクトは俯きながら、俺へ謝罪する。

 

 「……え?」

 

 あまりにも違和感のある物言いに、俺は困惑する。

 

 「いくら、スキルによって破壊の衝動を抑えられなくなっていたとしても、お前に味わせた屈辱は人間として最低だった。……そして、俺は……ユノをこの手で……っ!!」

 

 タクトは地べたに寝転び、顔を隠す。顔は見えないが、声は震え、泣いているのが、わかる。

 

 優等生でどんなことも出来た彼はこの世界によって人生を狂わされた。

 

 そして自分の力の意味さえも履き違えてしまった。

 

 取り返しもつかなくなって、でもようやく彼は我に返ることが出来たんだ。

 

 「……そんなに、思い詰めるなよ。彼女はいつだって、お節介なやつだろ?誰かが死ぬぐらいなら自分が死ぬ未来を選択してしまうんだよ。あいつは。……それに俺のことはいいんだよ。」

 

 オレはそっと彼に手を差し伸べる。

 

 いつかみた夢のように、漆黒に染まった勇者を、俺は救ってやりたい。

 

 彼はただ、間違えてしまった、それだけなんだ。

 

 俺は確かに、彼に否定され、クラスで居場所を無くした。

 

 いじめられ、ただ日々を黒く塗りつぶしていた。

 

 だけど、1度でも俺は彼に向き合おうとしていただろうか。

 

 いじめてくるやつだ、苦手なヤツだ。

 

 知らないうちに俺も、そういう態度を取っていた。

 

 彼の行為は褒められたものでは無い。

 

 だが、だからといって全て彼のせいであるか?と聞かれれば、俺にも悪い部分はある。

 

 お互いに学生で、自分でいっぱいで、辛くて、ただそれだけだったのに。

 

 「……気に入らなかったんだよ。俺がずっと好きだったユノを、お前は同じ境遇だからって、どんどん仲良くなっていく様が。被害者ぶって周りに何言われても自分から行動しないお前がっ!……悔しかったんだろ、辛かったんだろ。何いつも押さえ込んで。お前には分かってくれるユノや友達がいたんだぞ!?」

 

 俺はあの日、友人に悪口を言われていたと思っていた。

 

 でも傍から見ればそうだったんだ。

 

 周りに訳も話さず、欠席する体育。

 

 勝手にひとりだと、周りは敵だと思い込んでいた。

 

 寄り添ってくれる友達もいたのに、無下にして言っていた。

 

 自分のコンプレックスを人に打ち明けて、信じて、否定された事が多かったから。

 

 だからって、全員がそういう訳ではなかったのに。

 

 俺は知らないうちに自分で自分の首を絞めていた。

 

 「そう、そうなんだよ。この世界に来て、俺は本当に周りと関わってこなかったんだなって思い知らされたよ。人を信じることが怖くなってた。ユノはいつも支えてくれてたのに、信じられなくて。……でもあいつは、最後まで俺を信じて、そしてこの世界に連れてきてくれた。……だからさ、今からでも遅くないと思うんだ。一緒に旅をしないか?」

 

 オレは優しくにこやかに、タクトに手を差し伸べる。

 

 タクトは涙ながらに「ごめん」と何度も呟きながら俺の手を取る。

 その時、やっと、タクトの瞳に光が差し込んだのが、わかった。

 

 これで、ようやく、終わるんだなーーーーー。

 

 刹那。

 

 腹部に激痛が走る。

 

 「……な、……んで……?」

 

 俺はそんな疑問を口にすることしか出来ない。

 

 腹部を見やるとタクトがナイフを握って、俺の腹部を貫いている。

 

 俺は込み上げてくる何かを吐き出す。

 

 辺りには血溜まりができ、俺はその場に倒れる。

 

 「え?………リバイアっ!?」

 

 チーノが困惑しながら、俺に近づいてくるのが、分かる。

 

 必死の力で、タクトの顔を見やる。

 

 タクトの瞳は色を変え、歪んだ表情を浮かべる。

 

 バチバチと、階段からまばらな拍手が聞こえてくる。

 

 「ククク。勇者としての最後の役割ですよ?タクトさん。りバイアを殺しなさい。……召喚者の命令は絶対です。」

 

 「………。ご、め……。ころ、……して。」

 

 タクトは抵抗するように何かを口にする。

 

 「ひどいっ!こんな事ってっ!!まさか、洗脳しているのっ!?」

 

 チーノが俺を抱き抱えながら、背後から歩いてくるペーテルに怒りを露わにする。

 

 「勇者としての力を『破壊』の力を失ってくれたおかげ、ですよ。本来召喚者には、転生者を道具にできるのですよ。じゃなきゃ、穢れたセイクリッド以外を手駒に置きませんよ。」

 

 「にぃさんはっ!?兄さんはどうしたのっ!!」

 

 「少し遊んであげたら、簡単に伸びましたよ。まあ、雑魚が湧いてきたので、今は足止めしていますが、何もしなければ、もう時期死ぬでしょうねえ。アハ!アハハっ!!」

 

 「タクトっ!目を覚ましてっ!あなたやっと自由になれたんだよっ!一緒に旅しようよっ!リバイアだって、まだ間に合う!!だから目を覚ましてっ!!」

 

 「無駄ですよ。彼の意識は完全に私の支配下。全職、全属性持ちの最強の存在を手に入れましたよっ!アハハっ!!……グフッ!?」

 

 刹那、ペーテルの不快な高笑いは止まる。

 

 「言ったろ、てめえを浄化するって。」

 「にぃさんっ!?」

 

 現れたのはロンであった。

 

 後ろにはモグと、リアスも見える。

 

 「何故、生きているっ!!」

 

 「私の光の力です。あなたが愛してやまない、テフェト様の力です。」

 

 「グハッ!?ば、ばかなっ!?貴様みたいな小娘がなぜっ!?わ、私のみが神に愛されしものなのにっ!!!」

 

 「お前を救ったのは、神でもなんでもねえんだよっ!そこにいる、ロン・パステワードだろっ!?」

 モグが大声で叫びながら、タクトの前まで来て、交戦が始まる。

 

 「光の加護をっ!」

 リアスは俺に駆け寄ってきて、回復のスキルを発動させる。

 

 「はは、ここで、終わる?私が?ふざけるなっ!ふざけるなぁああっ!!」

 

 ペーテルは何やら呪文を唱え始める。

 

 「……本当に、どこまでも。復讐に、囚われてしまったんだな。ペーテル。君の魂は、俺が必ず、テフェト様の元へ導こう。………っ!!!」


 ロンは勢いよく、聖剣でペーテルを貫く。それが、救いようのないペーテルという復讐に身を焦がした男の結末であることは言うまでもないだろう。だが、その彼も死んでようやく救われるのかもしれない。死した彼の顔は安らかであった。


ーーーーー。

 

 俺は回復を終え、ユラユラと立ち上がる。

 

 「………。もうダメなのか?タクトは?」

 

 「……はい。残念ながら、もう彼の魂は死んでいます。」

 

 ペーテルによって自我を魂を破壊されたのだろう。

 

 タクトは血の涙を流しながら、モグと交戦している。

 

 「……モグ。俺がやるよ。」

モグは俺の瞳をじっと見つめる。できるのか?という顔だ。できるかでは無い。俺がやらなきゃ行けないんだと思う。この世界に運命を翻弄され、魂までも弄ばれ、今もなお苦しむ彼を、一緒に歩けた未来を夢見ながら、オレは君を殺すことしか出来ない。

 

 俺は腹部に刺さっていたナイフを手に持つ。

 

 「タクト。……長い間、お疲れ様。もう自由になって、いいんだ。」

 

 彼はユノを突き刺した時、抗えない運命に身を焦がしたのだろう。

 

 俺はその時のどうしようも出来ない悲しみも胸に、彼にナイフを突き刺す。

 

 「絶対に、世界変えてみせるからな。」

 

 きっとそれが、彼がこの世界と争ってきた意味だと思うから。

 

 ーーーーーー。

 

 あの戦いから数年が経ち、色々と世界の情勢は変わりつつある。

 

 問題視されていたセインペトの国の方針は新国家ペーテルの設立によって、変わっていった。

 もちろん、リーダーはロンが務め、ペーテルのような差別や人種による迫害の結果の歴史を繰り返さないという強い想いで作られた国だ。

 

 未だに続く各地の紛争により、貧困に喘ぐ民を救う方針の元、戦争根絶と未来ある子供の育成に励んでいる。

 

 エランティアでは、多数の国や文化を尊重し合う多国連盟という名目に変え、デミによってそれぞれの種族の特性を生かした特産品や事業を展開し、亜人などの差別を無くす運動に一躍買っている。

 また、キュリアは戦うための力ではなく自衛する力をつけ、国を守ることを宣言し、兵士の育成や大きな紛争に介入しながら、政治的な側面で、解決を模索している。

 

 モズールはレストとリアスの政権の元、フラットベースの血筋のみを優遇するのではなく、平等を実現するために教育や国の貿易を盛んとし、エランティアやペーテル国家の事業の支援、他の地域の公国へ赴き、栽培や政治の発展に大きな希望を与えている。現在はパラレルという国名となり、全国家の中核的存在となっている。

 

 ディフィードはというと、未だに頭の硬い連中が多く、ディフィードのみでの行動が目立つが守りへの教育をじわじわと他国へ教授し、争いのなくなる世界を目指している。

 

 そして、俺はディフィードの特別外交官として、各地の国を転々としながら、色々な国とディフィードの繋がりを強くしたり、パラレルやペーテル、エランティアに事業を斡旋したりとしている。

 

 まあ、名目上は小難しいことをしているが、のんびりチーノと旅をしているという表現が一番正しいだろう。

 

 リアスやモグが一緒でないというのが、名残惜しいが、彼らは動けないレストの代わりに各地を転々としている。

 

 まあ、形は俺と変わらないということだ。

 

 なので、たまに、再会し新たな事業展開を模索したり、紛争や内乱を止めたり。

 

 まあ旅をしていたあの頃より話のスケールがでかくなっただけで、ギルドとやっていることは変わらず、何でも屋みたいなところはあるな。

 

 だが、確実に以前の世界とは一変して世界全体が、前に進んでいる。

 

 それだけは確信している。

 

 だから、どこかで見ていて欲しい。

 

 ユノ、そしてタクト。

 

 俺たちが巻き込まれた世界は、俺たちのおかげで色を変えているぞ。

 

 「何をぼーっとしてるの?行きますよ?」

 

 チーノが俺に声をかける。そして不意に背伸びをし、俺の頬にキスをする。


「おわっ!?」

「言ったでしょ?……私もするって、ほら行くわよ?」


チーノは小悪魔のようなイタズラな笑みを浮かべ、俺も頬が赤くなるのを感じつつ、思いにふける。


まだまだ、チーノの件やリアスのこと、俺がやらなきゃ行けない事はいっぱいあるようだが、ひとまずーーーー。

 

 「ああ。さてと、今日もマイペースに、のんびりと、行きますか!」

 俺は切り替えるかのように、そう宣言する。

 

 

 だから、そこで見ていてくれよ。今は遠い、空の向こうで。

 

 能天気バリア使いのマイペース旅を。

 

 俺はそんなことを胸に抱きながら、今日もマイペース旅を始めるのであった。

 

 

 

 能天気バリア使いのマイペース旅 終。

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能天気バリア使いのマイペース旅 パスタ・スケカヤ @sukekaya

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