第16話 受け入れた先にあるモノ


 目の前には覚醒したレストが闇の力を解き放っている。

 

 いや、もはや彼はレストと表現していいのだろうか?

 

 復活した魔王『アークブ』と表現した方がいいんじゃないだろうか。

 

 「くっそ!!!早く、タクトを止めないといけないのに!!」

 

 「ほう?自分が憎む相手が勇者と知って、ようやくやる気になったか。親友がこんな姿になっているというのに。それに見よ。周りを。」

 

 俺は魔王の言葉を聞き、ようやく我に返る。

 

 みんな下を向いている。

 

 「リバイアは知らないと思うけど、アークブ王は勇者しか殺すことの出来ない最強の存在なんです。この世界における最強の力『邪眼』を持ちます。」

 

 「……邪眼?」

 

 「ええ、それを凌駕する力は勇者のみが持つ『破壊の眼』だけです。」

 

 「まあ、言うより見た方が早い。体感しろ……我が力!!!」

 

 「ちっ!!バリアっー!!」

 

 「学習しないガキだ。」

 

 「なっ!?バリアを貫く!?」

 

 「当たり前だ。魔力はスキルの上位互換。そんなもので我を止められぬわっ!!!」

 

 魔王の体から溢れ出る闇の力は無数の魔法陣を形成し、俺に向かって黒い雨の如く魔法が直撃する。

 

 「あぁあああっ!!!」

 

 くそ、あの時の力が使えれば、どうにかなるはずなのに。

 

 あれからいくらスキルチェックしても、能力の詳細は解放されない。

 

 それどころか該当するスキルすら見つけられなかった。

 

 あの『力を無効にする瞳』。

 

 あれはどんな力も無効にする力を持っていた。

 

 オレは地面に強く体を打ち付ける。

 

 体に激痛が走る。全身から血がふきでるが、一瞬にして止まる。

 

 俺の体は光に包まれ癒されゆく。

 

 眩い光の方へ視線を向けるとリアスが無言で、俺に治癒のスキルをかけている。

 

 「っ……すまない。」

 

 「いつも、思ってました。リバイアさんには、いつも運命を感じていました。……でもその瞳はいつも私の先にいる誰かを見ていました。」

 

 リアスは俺に顔を見せず、伏せたまま、治療を続ける。

 

 「……君があまりにも、ユノに似ていたんだ。」

 

 「でしょうね。チーノさんとはいつも向き合っていた。でも私には空っぽ。……おおかた、わたしは、器なのでしょう?」

 

 顔は見えない。だが、鼻をすすったような震える声。

 

 俺は彼女を泣かせている。

 

 だが、俺に彼女を慰める資格も涙を見ることさえ許されない。

 

 俺は彼女の言うとおり、彼女の先に『ユノ』を重ねていたからだ。

 

 「……ひとつだけ、魔王を止める手立てがあります。」

 チーノはここぞとばかりに重い唇を開ける。

 

 だが、聞く必要は無い。

 

 「いい。……聞かなくてもわかる。」

 

 チーノとリアスがひとつになり、ユノに戻ることで『未来眼』はユノに戻り、文字通り、『未来を変える』。そんなことが出来るのだろう。

 

 でもそれは答えじゃない。

 

 たとえ答えだったとしても。

 

 俺はその選択を受け入れない。

 

 回復が終わったのか、光が消えていく。俺はゆっくりと起き上がり、言葉を連ねる。

 

 「どうやったってこの世界には、ユノはいない。……彼女は死んだ。俺にとって大切な、たった1人の、前世での想い人だ。」

 

 チーノは顔を伏せ、リアスはその白い肌を赤く染める。

 

 「でもそれは、チーノ・パステワード、フレリアス・フラットベース、お前たちもそうなんだよ。……俺にとって2人は旅をしてきた大切な仲間なんだ。……そして、それはこれからも変わらないっ!!!!」

 

 彼女たちに並び立つ資格も、想いを寄せることさえも、許されない。

 

 そんなことは自分が許さない。

 

 それでも、彼女たちを守ることは、俺の義務だ。

 

 だって大切な仲間だから。

 

 「それに、な。チーノ。未来ってのは変えるものじゃない。……そう簡単に変えられるものでもない。……選択によって切り開かれるものだ。」

 

 「で、でも!!現に勇者とペーテルによって書き換えられました!!!」

 

 「……書き換えられたのは、過程だけだ。結果はかわってない。」

 

 俺の考えが正しければ、未来はひとつの結果に収束する。

 

 だってそうなんだよ。

 

 もし、本当に未来を変えられるなら、ユノは俺たちが争うような未来は変えるはずだ。

 

 彼女は誰よりも争いを嫌う。自分を犠牲にしたって、俺たちが死ぬような結果は回避するはずだ。

 

 タクトは大方前世と同じ姿をしていた。

 

 やつは転生ではなく、転移している可能性が高い。

 

 それに引き換え、俺は命を落とし、転生した。

 

 ユノも同じように死に、チーノとリアスという2人の少女に転生した。

 

 これは元々決まっていたことのはず。

 

 どう、未来を変えようともこの結果にたどり着いた。

 

 だからユノはその中から1番マシな結果を選択した。

 

 そう考えるのが自然だ。

 

 じゃなきゃ『未来を変える』なんて、力を手に入れて、こんな面倒な結果にはならないはずだ。

 

 そして決めてはタクトが、レストの中に魔王がいることを知っていた。

 

 そしてそのうえでそれを利用し、俺たちにけしかけたこと。

 

 どうして、そんな面倒なことをする必要があったか。

 

 答えは単純だ。

 

 『結果には干渉出来ない』

 

 「たしかに、そうかもしれないけど!!」

 

 心を読んでもなお、チーノが不満そうな顔をしている。

 

 「ユノさんに戻った方が手っ取り早いじゃないですか!……好きだったんでしょ!!彼女のこと!!」

 

 開き直ったかのように、駄々をこねるかのように、チーノは感情を爆発させる。

 

 「ああ、好きだったさ!!『衛衛藤立生』ってやつはな!!」

 

 俺は再び魔王に向き合う。

 魔王はふたたび無数の魔法を俺に目掛けて解き放つ。

 

 『でも今の俺はっ!!!リバイア・ガードナーだっ!!!』

 

 『条件を満たしました。スキル・魔眼を発動します。』

 

 頭にあの日ように、機械音がアナウンスされる。

 どうやら、この力を使う条件は『前世と向き合うこと』だったようだ。

 

 「全てを無効化せよっ!魔眼っ!!!」

 

 俺の右目は色を変え、青い光を解き放つ。

 

 無数の魔法を全て打ち砕く。その代償なのか、右目は完全に視力を失う。

 

 なるほど。あの時はスキルによって視覚を奪われた。だから使えたのか。そして不完全なまま使ったことで、感情とトラウマが暴走し、理性を失った。

 

 だが、今の俺は、前世と向き合い、リバイアとして、本当の意味で『生まれ変わった』。

 

 今の俺は、リバイア。俺は生まれ変わったんだ。

 

 「リフレクションっ!!!!」

 

 俺は受け止めた魔力を全てを解き放つ。

 

 結果が同じならば、魔王は俺が超えなきゃ行けない壁。

 

 そして、央は死んでしまう運命。つまり、レスト、お前にとっても、これは試練。

 

 「ほう、一気に我に追いついたわけか。だが、ぬるいわっ!!」

 

 魔王は負けじと先程の倍以上の魔法陣を形成する。

 

 そして、俺の魔力とぶつかり合う。

 けしては生み出される無限の力のぶつかり合い。

 

 「人間ごときに、魔力は使えぬわっ!!!」

 

 「ぐっ!?おさ、れるっ!!!」

 だが、魔王の方がチカラは上らしい。俺は劣勢となる。

 

 刹那、肩を軽く叩かれる。

 

 「勝手に主人公気取るなよ。俺たちにも見せ場よこせ。」

 

 モグが俺にチカラを注いでくれる。

 

 「俺が本来持つ力でな。『コネクト』っていうんだ。チーノ!リアス様!不貞腐れてないで力を!!」

 

 2人とも笑顔でうなづいてみせる。

 

 俺も先程とはうってかわって、笑みがこぼれる。

 

 「私にスキルはない!!だから私の剣戟で名だたる魔王を倒すっ!!!」

 

 いつの間にか魔王の懐に潜り込んでいたキュリアが凄まじい剣戟を見せる。

 

 「ほう?ようやく、皆良い顔になってきたな。……倒し甲斐があるなあっ!!」

 

 魔法を維持しながら、キュリアの凄まじい剣戟を避け、魔王をニヤリと微笑み、軽く蹴飛ばす。

 

 すると、凄まじい勢いでキュリアは壁際まで吹き飛ぶ。

 

 「……時間は稼いだぞっ!デミっ!!」

 

 「ありがとうございますっ!!獣化・魔力全開放っ!!!」

 

 キュリアとは逆方向に位置していたデミがなにやら力を貯めている。

 

 「あなたの弱点はいつも心ですっ!!!いつだって、心に迷いがある!!!ささっと目を覚ましてっ!!!パラディン奥義フルバースト・ダークネスっ!!!」

 

 デミは溜め込んだエネルギーを魔王目掛けて解き放つ。

 

 「邪眼っ!!!」

 

 「っ!?」

 

 デミはその場に倒れ込み、解き放ったフルバーストを魔王は吸収し、俺目掛けて解き放つ。

 

 「くっそっ!!!むちゃくちゃだ!!!」

 

 俺は周囲にバリアを張り巡らせ、軌道と威力を抑える。

 

 どうやら、魔眼使用中はバリアの耐久性も上がっているらしい。

 

 複数枚展開することで一時凌ぎにはなるようだ。

 

 「私は馬鹿ですから、これっぽっちも、なにも分かってません。それでも、お父様の死が、兄の暴走が必然で、ここを超えた先に何かがあるなら、私はいつも通りリバイアさんを信じます!」

 

 「さすが、メルヘンさんね。でも今日ばかりは私も同意。……いつも通りの能天気さで乗り越えて、世界救ちゃいましょう。あなたなりの答えで!!!」

 

 2人が俺に力を与えてくれる。

 

 「サンキュな!みんなっ!!!くらいやがれっ!!!これが自分を貫くバリアだっ!!!!」

 

 俺は受け取った全ての力で巨大なバリアを生成する。

 

 「なにっ!?無効にするのではなく、そのまま押し返してるのかっ!?」

 

 「だぁああああっ!!!!!レストっ!!!!お前のやることは、そこで休むことじゃねぇだろっ!起きやがれっ!!」

 

 『安心しろ、ワシが死んでも、次の王がいる。レスト。……お前が次の王だ。』

 

 それは最後に王が口にしていた言葉。

 

 例え、いのちが途絶えたって、命を受け継ぐものがいれば、想いは消えることは無い。

 

 俺に世界を救うことを解いたお前なら、今のするべきことが分かるはずだ。

 

 魔王になって世界を塗り替えることじゃない。

 

 こんなことを繰り返さないために、世界を変えていくことだ。

 

 俺はそんな想いを拳に乗せて、レストを1発殴る。

 

 「戻ってこい!レスト!」

 「……言われなくても」

 レストは少し、悲しげに笑って見せた。

 

 ーーーーー。

 

 巨大な魔力は衝突し、レストに取り付いていた魔王は影となり、レストから離れる。

 

 「いいのか。フラット。人間は愚かだぞ。」

 「ああ。知ってるよ。だから、俺たちは戦うんだろ?滅ぼすんじゃなくて。分かり合うために。」

 

 「……フラット。お前はどの世代でも、どの姿でも変わらないな。……たまが、我はお前たちが傷つき、滅んだ時、今度こそ世界は塗り替えさせてもらう。……勇者を殺してくれ。リバイア、レスト。」

 

 影は静かに消えていく。

 

 再びこの世界が闇に染るその時まで、深い記憶の彼方へ。

 

 「……魔王は先祖のフラットベース王とさぞ仲が良かったらしくてな。意気投合し、共に争いのない世界を目指してたんだ。……そして、王を失い、怒りに任せて戦い、死んだ。それから時を重ねて、俺たちフラットベースの血脈に眠り着いた……らしい。」

 

 「……そんな過去が。」

 

 「ともかく、済まなかった。幸い国民は無事だ。俺はこの国に残って、体制を整える。……勇者とセインペト任せていいか。」

 

 「ああ。もともと其れを言いに来たんだ。エランティアはキュリアさんとデミがレジスタンスを結成し足止めする。」

 

 「そんなことが出来るのか?」

 

 「はいっ!任せるっす!今のエランティアは多くの国を配下にしているんで統率がないんです。」

 

 「不満を持っている騎士や国民も多い。意見書や軍事的な部分は内部からなら壊せる。言わば、エランティアはセインペトにのみつよい国だ。」

 

 「なるほど。なら、攻めてくるセインペトはどうする?」

 

 「ディフィードが撹乱に参加してくれる。戦争に参加するわけじゃないからな。」

 

 「これはまあ、屁理屈というか、なんというか、お前らしいな。」

 

 「私とリアス、モグ、リバイアは、セインペトに潜り込みます。」

 

 「モグさんと私はセインペトの情報を随時皆さんにお届けします。」

 

 「どちらかと言えば、一番楽な役回りだな?め、連絡係ってとこだな。」

 

 「そんなことは無いさ、妹のこと頼むぞ。モグ。」

 

 「最後に俺とチーノで、勇者とペーテルを撃つ。そしてレストお前には……」

 

 「分かってるよ。色んな国とのコネクションは出来てる。あとはうまくまとめるだけだ。セインペトの武力を止めてくれれば、まとまるはずだ。たのむぞ。みんな。」

 

 全員が頷く。

 

 今ここにニュールドを揺るがす、最後の戦いが始まろうとしているのであった。

 ーーーーーーー。

 

 「……チーノ、リアス。俺はまだまだお前たちのことを知らない。どこか、向き合えていないところがあったと思う。だから……これからは、いや、これからも仲良くやってくれたら嬉しい。」

 

 2人は満開の笑みを見せる。

 

 俺は2人の笑みを見て、やっと大切なものを守れたと実感した。

 

 俺は転生した世界で、自分らしさを見つけたよ。

 

 守りたいと願い続けたこの力が、役に立った。

 

 そして、誰しもが持っている『自分』。

 

 それを貫いていいんだ。

 

 他の誰でもない、自分で進んでいくんだ。


誰だって、自分を見失って迷う時がある。でもそんな時、自分を貫いて、自分という存在を受け入れた時、これで良かったと思えるのかもしれない。


俺が正しいとは言わないが、自分なりの答えを出して、何かを成し遂げた時、こんなにも心が満たされるんだと、感じた。

 

 

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