第28話 ウルーガ4
28話 ウルーガ4
ウルーガがスープを煮込んでいる間、ジャスティスは他の食材を探しに近場を探索する。湧水付近の辺りで手頃な【食材】を見つけた。それを手にしてジャスティスがウルーガのところに持っていくと――
ウルーガはビックリしたように目を丸くして、
「……ジャスティス。それ、食べるのか?」
「え? 食べれるって本に書いてありましたけど」
きょとんと首を傾げるジャスティス。
「ーー『普通』は食べない。けど、お前よく見つけてきたな」
「そうなんですね」
にっこりと笑顔で頷くジャスティスが食材として見つけてきたものは、世界の冒険者たちの間では割と食されている、【ヤガラヘビ】と呼ばれる、無毒の蛇だった。
「……でも」
くねくねと動くヤガラヘビを握りしめつつジャスティスは首を傾げ、
「どうやって食べるんだろ?」
そんなジャスティスを見てウルーガは呆れたように、しかし嬉しそうに笑い、
「ジャスティス。それ寄越せ」
言いつつ、ジャスティスから【食材】を受けとる。自前の包丁で器用に蛇の頭をナイフで落とし、そこから少し切れ目を入れてその部分から皮だけを引き剥がすようにすると意外にも簡単に皮が剥げた。
その間、ヤガラヘビはくねくねと動いていたがウルーガは気に留めず、ツルツルになった蛇の身体を水で洗い程よい大きさに分けて細長い木の櫛に刺し焚き火の側で炙り焼き、残りの半分ほどの身はスープの具材にした。
スープが煮込み終わる頃、ジャスティスに任せたヤガラヘビの『身』も丁度いい焼き加減となり――
丸太の木に座り、ウルーガとジャスティスは互いに談笑を交えつつ食をとった。
ちなみに――
量はジャスティスのほうが多く食べていた、と言うのは本人の名誉のためここだけの話にしておこう。
二人が食事を終えると陽はもう沈み辺りは漆黒の空間が広がっている。焚き火の周りだけほんのりと明るくてそれを見つめるジャスティスの頬は赤く照らされている。
お腹が満たされたジャスティスの瞼が重みを帯びてきて、
「ふわぁぁ〜…」
と、睡魔に勝てなかったのか自然と欠伸をしてしまう。
「ジャスティス、眠いのか?」
「は、ぃ、いえだいじょ……ックシュンッ!」
『大丈夫』と言いかけたジャスティスはくしゃみをひとつ。そして小さく身震いをした。
「……夜の森は一段と冷える」
ウルーガが立ち上がりリュックの中からランタンを取り出し、焚き火の火からランタンに火を灯すと、
「ジャスティス。これを持って先に小屋へいけ」
「え。あ、はい」
ウルーガに渡されたランタンを手にジャスティスは先立って小屋の中に入る。
ジャスティスが小屋の扉をそっと開けると、中は真っ暗でランタンの灯りだけが頼りだった。
「……」
何もかもが、『初めて』の経験となるジャスティスが入り口で佇んでいると、
「暗いな」
いつの間にか隣にウルーガがいて、手には自分の荷と松明を持っている。
ウルーガは遠慮なしに松明を前方に差し出しつつ辺りを見回しながら、『暖炉』まで近づくと松明の火を暖炉にうつす。途端に小屋の中は仄暗いが明るさを取り戻し辺りの様子を伺うことが出来た。
小屋は小さいながらも暖炉があって、食事の取れる簡素なテーブルと椅子。奥には身体を休めるであろう、ベッドが備え付けてある。
「中は結構ちゃんとしてるんですね」
ジャスティスは感動しつつ密かに溜息をついた。自分がいかに無知であるかを再認識してしまう。
ウルーガは荷を解き中から毛布のようなものを取り出すとベッドまで行き、
「ジャスティス、来い」
「……へ?」
ウルーガの声にジャスティスは間抜けな声を上げる。
「早めに寝なければ、どんどんと冷えてくるぞ」
「で、でも僕、床で……」
ジャスティスが遠慮して言えば、ウルーガは小さな溜め息を吐き、
「遠慮してたら凍死する……」
と、真顔で言う。
「……ぇ」
脅したつもりはないが、ジャスティスの顔が蒼白になり、俯いて少し考えたのち、
「ーーじゃあ、すみません」
おずおずと遠慮しつつベッドに潜り込んできた。
お互いくっつくようにして横たわり毛布を被ると、
「えへへ、あったかい。ウルーガさんありがとう」
ジャスティスが照れたように笑いウルーガは小さく首を横に振った。
「冷え込む前に寝る」
「ーーうん」
頷くジャスティスは目を瞑りすぐに寝息を立てはじめた。
「……」
隣で眠りについた少年をしばし見つめるウルーガ。
――年の頃は自分より少し下だろうか。
身なりの良い服装からして、【貴族】と呼ばれるところの子供なのだろう。『この地から離れなければいけない』と言った少年だが、そこには何かの事情があるのだろうと、ウルーガは追及しなかったが。
戦い慣れはしているようだが、夕食を取るあどけなさは幼い少年のようで――しっかりしていそうで危なっかしく感じ、ウルーガはジャスティスに対し兄のような感覚に捉われて、そんな心境を心の片隅で朧げながら自覚して、
「ーー守ってやる」
一言端的に言い、ジャスティスの柔らかい髪を梳くようにそっと撫でてから自身も目を瞑り眠りへと入った。
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