第37話 確実な決別3

37話 確実な決別3



「ロウファどうして?! 僕キミに何か……ッ?!」


 ジャスティスはそう言いつつロウファの方へ詰め寄ろうとするが、それは周りを取り囲んでいた騎士らによって止められる。



「言い訳は聞かないと言っただろうッ」


 ロウファは少し強めの口調で言いつつ槍の切っ先をジャスティスに向けて突進してきた。ジャスティスは咄嗟(とっさ)に短剣を抜きロウファの攻撃を受け止める。



 ――ガキィィン!!



 刃と刃がぶつかり擦れ合う音が街に木霊した。




「ロウファ、本気なの?」


 ジャスティスは間近に迫ったロウファの顔を、信じられないといった様子でまじまじと見てしまう。その表情は困惑(こんわく)と驚愕(きょうがく)に入り混じった、なんとも形容し難い表情だった。



「ーー本気だったらどうだって言うんだ?」

「それは……ッ」


 ジャスティスを冷ややかな瞳で見るロウファは一旦体勢を整えるべく槍の切っ先でジャスティスを払いのけ再び距離をとりすぐさま槍を地面に突き立てる。その動作からジャスティスはロウファが次に何をしてくるのか瞬時に理解した。



(ーーッ! ここで晶星術(しょうせいじゅつ)を唱えるつもりなの?!)



 ジャスティスがそう思うより早くロウファの口から術が放たれる。



「ヴォルネスッ!」

「ーーアイスシールド!!」


 ロウファが術を発動すると同時にジャスティスもまた晶星術を発動させた。透き通るような淡い青色の氷の壁で槍から発せられる黒い稲妻を防いだのだ。



「流石に読まれているか」


 口中で小さく呟いたロウファが槍を手にして再び突進してくる。


「大人しく縄につけよッ、ジャスティス!」

「濡れ衣だって言ってるでしょッ?!」


 素早い突きを何度も浴びせてくるロウファの攻撃を、ジャスティスは双剣にてかろうじて受け止めた。互いにまだ全力では無いものの二人とも肩で息をしつつまた間合いを取る。


 呼吸を整えたロウファが、ひどく静かな口調でジャスティスに告げた。



「ジャスティス、俺はお前が嫌いだ」


 側(はた)から見ても分かる憎しみのこもった眼差し――ジャスティスは胸に突き刺さるような痛みを感じたがそれを顔には出さず、自分では気づかないくらい冷静に対峙する幼馴染を見つめ返した。



「……それがキミの答えなんだね、ロウファ」



 交錯(こうさく)するジャスティスとロウファの二人の視線は、どこか憂いを帯びて海から吹き上げる潮風に乗って霧散していった。




「ーージャスティスッ! 船が出ちまうぞ!」


 背中から聞こえるカインの声にジャスティスは今更気付いたようにびっくりして肩を竦ませた。後ろを振り返り、『今行きます!』と、カインに告げると再びロウファの方に向き直る。



「さよなら、ロウファ」



 小さく、だがはっきりとジャスティスは言った。


 ロウファは俯いており表情は分からなかったが、それ以上攻撃を仕掛けてくることはなかった。



 武器を収めたジャスティスは何かを我慢するように唇を噛み締めたが、憂いを断つようにロウファに背を向けカインの方へ走っていく。

 ロウファが顔を上げる。彼が見つめる先は、小さくなっていく心身ともに愛した幼馴染の背中だった――

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