第36話 確実な決別2
36話 確実な決別2
山賊たちの和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気にジャスティスは少しばかり安心して笑いをこぼした。
「おいジャスティス」
ふいにカインに呼ばれジャスティスは振り返る。カインは、ドワーフのような男――山賊たちの頭、モンテロウと何やら真剣に話し合っていたようで、
「俺たちはここから旅船に乗ってこの国を出る。その準備はこいつらがしてくれた」
「船で行くんですね……」
カインにそう言われジャスティスは不安な表情を露(あら)わにして周りを見渡した。
(……もう……ここにはしばらく戻れなくなるんだ……。父様と母様にも会えなくなる……)
心中でそう思いジャスティスは少し身体を震わせる。それは恐怖からなのか武者震(むしゃぶる)いなのかは分からなかったが。
「ジャスティス……大丈夫か?」
「あ、はい」
ジャスティスは意外にもしっかりとした返事をかえす。ジャスティスの状況を少なからず知っているカインは少し気がかりだったが、この様子だとその心配は無用だと判断したようだ。
「じゃあここからは俺たちだけでターミナルに行くぞ」
と、カインが踵(きびす)を返した時だった。
「おいッ、ここにいたぞ!!」
一人のティエラ衛兵が、ジャスティスたちの姿を目に声を張り上げた。
ジャスティスがそちらを振り返るより早く、周りはティエラ衛兵らに囲まれてしまった。
「ーークソッ! 見つかったか?!」
「ここはワシらが食い止めるッ。お前たちは先に行け!」
モンテロウがティエラ衛兵の前に立ちはだかる。
「モンテロウ……」
カインは一瞬だけ躊躇(ちゅうちょ)するが、モンテロウが振り返り余裕そうな笑みを見せるとカインもまた不敵な笑みを返し、
「この借りは必ずかえす!」
『互いに生きてたらなぁ!』と、モンテロウの軽口を背中に、ジャスティスたちは船が客船が停泊しているターミナルへと急ぎ駆けていった。
ジャスティスたちが頑丈な石壁で出来た客船ターミナルの前まで来ると、
「おいッ、脱獄者がいたぞ!」
ティエラ衛兵とは違い、ジャスティスが見覚えのあるその鎧を着た兵士は、城都ディズドの騎士だった。
その騎士たちの中心で威圧感を醸(かも)し出すのは若き赤髪の新騎士団長ロウファ・アシュトン。
「……ロウファ?」
姿がすっかり変わってしまった幼馴染を見てジャスティスは立ち止まり訝(いぶか)しい表情でロウファを見た。
「鬼ごっこは終わりだよ、ジャスティス」
ロウファはジャスティスを蔑むように見た。その視線は明らかに嫌悪感を露(あら)わにしている。
「ロウファ、どうして……ッ?!」
「ジャスティス待てッ」
ジャスティスが駆け寄ろうとする腕をカインは思わず腕を掴んで止めた。
「どう足掻(あが)こうがお前のやった事は消えないんだよ」
「それは濡れ衣だよ! なんで僕がそんな事しなくちゃいけないの?!」
ロウファの言葉に少し苛立ったジャスティスはロウファに向かって叫んだ。
「ーー言い訳は聞かない!!」
ロウファはそう言うと同時に、右手を掲げ詠唱なしに火の魔術を放った。拳大の火の玉がジャスティスの目の前に迫り――
――ゴオォォウ!!
何かが燃えるような炎の息吹がジャスティスの耳に聞こえたが彼は痛みなど感じず無傷だった。恐る恐る目を開けると、目の前にウルーガがこちらを背にして立ちはだかっている。
「ーーッ? ウルーガさん!」
ジャスティスが目を見開き驚くとウルーガは顔だけをこちらに向けて、
「無事か? ジャスティス」
と、余裕そうな笑みを浮かべそう聞いてきた。
「……うん! ありがとうウルーガさん!」
ジャスティスも笑顔でウルーガに返し、苛立ちを瞳に宿してロウファを睨みつけた。
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