第30話 山賊、再び1

30話 山賊、再び1



 頭の中で色んなことを考えつつも、手は器用に木を形作るように削っていき――どうにか取っ手の部分まで取り付け終えると日はすでに上がりはじめ空はミルク色に染まっていた。



「朝になっちゃった……」

 空を見上げて呟く。

「でも――案外上手く出来たかな?」

 出来上がった【盾】を自ら装備してみてその付け心地や使いやすさを確かめる。


 パチンッと焚き火の薪が爆ぜてジャスティスがそちらに目を向けると――小屋の扉が勢いよく内側から開いて、


「ジャスティス!」


 大声で自分の名を呼ぶウルーガの姿。


「あ。ウルーガさん、おはようございます」


 盾を外し律儀に朝の挨拶をするジャスティス。


 そんな少年を無視してウルーガは足早にジャスティスの前まで来ると、


「怪我、ないか?!」


 心底心配した様子で聞かれて、


「……え? 別にないですけど。何かあったんですか?」


 きょとんと首を傾げるジャスティス。


 ウルーガは密かに安堵の溜め息を吐く。


「……起きたら居なくなってたから心配した」

「す、すみません……」


 焚き火の火が少し小さくなっているのに気づいたウルーガは薪を足しつつ、


「ジャスティスは、早起きだな」


「早起き、というか」


 ジャスティスは少し言いにくそうに呟いて、


「短時間の睡眠でも平気みたい」


 ちょっと情けなくも苦笑してみせた。


「そうか」


 ウルーガは敢えて言及せず、ジャスティスが持っている【盾】を目に、


「ジャスティス。それ、どうした?」


「あ! そうだった!」

 ウルーガに言われ思い出したジャスティスは、

「ウルーガさんちょっと着けてみてください」

 押し付けるようにして盾を差し出した。



「ぁ、ああ……」


 ジャスティスの勢いに多少困惑しつつウルーガは盾を右腕に装着し、『どうだ?』と、ジャスティスに見せてみた。



『ちょっと失礼しますね』と、一言言ってジャスティスは盾を装備したウルーガの右腕を挙げて見せて、

『きつくないですか?』とか『着け心地どうですか?』など、どこぞの武具店の店主のようだった。



 そんなジャスティスに少し驚きながらもウルーガはくすりと笑い、


「ジャスティス、これどうした?」

「あ。僕が作りました」

「『作った』? お前が?」


 ジャスティスの、自然な受け答えにウルーガの瞳が驚きで見開かれた。


「厳密には、加工したんですけどね」


『えへへ』と、照れ笑いをするジャスティス。


「……」

ウルーガが驚きで無言でいると、

「す、すみません……。あの僕、そういうの作ったりするの好きで――」

 どこか慌てたように取って付け加えるジャスティス。

「暇さえあれば何か作ったりしちゃって」



 それでも黙っているウルーガに、

「あ、あの。ウルーガさん……?」

 ジャスティスが遠慮がちに顔を覗き込んできた。



「……ああ、聞いてる」

 ようやく口を開くウルーガ。

「少し、驚いてた」


「これ、俺がつけていていいのか?」

「勿論ですよ!」


 ウルーガが遠慮がちに聞けばジャスティスは一つ返事で頷き、


「ウルーガさんのために作りましたので」


 満面の笑みを見せる。


「そうか。ありがとう」


 そんなジャスティスの笑顔に連れられてウルーガも小さく笑った。




 二人は簡単な朝食を取り、森を抜けるために準備をし早々に出立した。


「ーーここを南下すれば港に続く街道に突き当たる」

「はい」


 道なき道を、頭に地図でもあるかのように歩くウルーガの後をジャスティスはついていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る