プロローグ

――辺り一面真っ白な空間に佇む一人の男性。



男性の足元にはポッカリと穴が開いており、その穴の先から覗くのは『とある村』。


男性は徐に右腕を正眼に構える。少し開かれた手の平から淡い黄色の光球が産まれる。




「……ごめん」

光球を握りしめるかのように拳を作る。

「…君に託すよ。」

言いながら、拳を足元の『とある村』に向け、ゆっくりと開いた拳から眩い光が放たれた。




放たれた光線は、『とある村』にいる幼い少年の全身を貫いた。





「…ねぇ」

肩まである疎な髪を後ろで一つに結えた武闘家の女性(?)が男性の背後からゆっくりとした足取りで近づいてくる。


「なあに?」

武闘家の彼女(?)より少し背の高い男性は笑顔で振り返る。

足元の『とある村』は霧散するように白く澱みを帯びて消えた。



そんな足元の光景をチラリと一瞥した武闘家は、

「よかったの…? 本当に――」

男性の隣までくると寄りかかる様に身体を密着させて男性の袖口をツイと引いた。

そんな彼女(?)の仕草が可愛かったのか、男性は艶やかな唇に触れるだけのキスを落とす。

「……ん」

甘い吐息を漏らす武闘家。



「なあに、急に。」

「ごめんごめん。可愛かったからつい…」

「何も出ないわよ?」

大して悪びれていない男性に武闘家は「もう」と斜に構えて見せた。




「でも…本当に良かったの……?」

武闘家――セレンは足元を不安そうに見る。そこは先程とは違って荒れ果てた『世界の一部』が映っていた。

「ああ。大丈夫だよ」

男性もセレンと同じく『世界の一部』に目を向けセレンの引き締まった腰を落ち着かせる様に自分の方に抱き寄せた。


「…本当に?」

クリンとした睫毛に憂いを乗せて男性を見つめるセレン。


「大丈夫だって。セレンは僕を信じない?」

「――いえ? テラちゃんの事は信用してる。」

セレンは即座に答えた。そんな彼女に、テラと呼ばれた男性は「じゃあ何で――」と首を傾げた。




「…違う。違うのよ」

「なにが?」

溜息を吐きながら首を横に振るうセレンにテラは、愛おしそうに彼女(?)の額に掛かった前髪を掻き分けてやる。



「テラちゃんだけ転生してもダメなの。ちゃんとワタシも転生させてくれた?」

テラよりは体格の良い、鍛え抜かれた身体をくねらせ目の前の男性の眼差しを真剣に迎え撃つセレン。



「ああうん。たぶん大丈夫。」


口調は真っ当だが、テラは上の空で答えた。それもその筈。

目の前の彼女(?)が可愛くて愛おしくて今すぐこの場で押し倒して良からぬ事をしでかしたい。彼女(セレン)をこの腕の中に抱き止めて甘く啼いて欲しい。そんな邪な気持ちと戦っていた。


だから――


「…なあに? その締まりない顔ッ」

セレンに怪訝な顔をされる。


それも可愛い。



「…いや、うん。ごめん…もう限界……」

「なにが?…―んんッ?!」

首を傾げるセレンの後頭部を抱えて自分の方に引き寄せたテラは貪るようにセレンの唇に吸い付いた。


舌を無理やり口内に捩じ込ませセレンの舌を絡めた。セレンもまた待ち受けていたのか、ヌメリと唾液を含ませ彼の性急なキスに応える。


「…ん、ふぅ……」

お互い激しく口内を犯し合い、先に根負けしたのはセレンで隙間から濡れた吐息を漏らす。

少し唇を離すと今度は舌先だけでお互いを犯す。

どちらかとも言えない唾液が、糸のように細く滴り落ちた。



「……ん…、ぁ……」

熱を帯びたセレンの睫毛がわずかに震え――それを合図にセレンの腰を抱いていたテラの手が、彼女(?)の一物を服の上から焦らすように下から上へと撫でた。



「…ぁん………は、あ、ちょ…っと……待って…!」

そのまま蕩けていきそうになるテラの甘い誘惑を既で止めるセレン。

「待てない。だってもう限界」

「…っんぅ――」

テラは短く答えて先程の続きをとセレンの唇を乱暴に塞いだ。


「…ぅも…、ちょ…、と待って………ッて!」

今度はセレンも負けじとテラの誘惑を押し退ける。


「…なに……?」

セレンのしなやかな指が、自身の胸を力強く押し返してるのを見てテラは少し撫然とした。


「…もう。そんな怖い顔しないで?」

セレンも流石にやりすぎたと思ったのか、両手で優しくテラの頬を包む。

「…ここじゃ……イヤなだけよ……?」

態と顔を近付けてテラの下唇を軽く吸った。


「…じゃあ――終の住処に行きますか? お姫様」

「―…キャ…。」

テラは言いつつすぐにセレンをお姫様抱っこする。小さな悲鳴をあげて反射的にテラの首根っこに腕を回すセレン。

「優しくしてね? ダーリン」

「悦んで」

短く答えテラはセレンを抱きしめたまま遥か彼方に佇む一軒の住まいに歩みを進めた。

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