16.敵将


 歴戦のイシュタールは、古神兵の頭部を潰されても尚冷静だった。


 時は遡ること数時間前。皇国へ上陸後に、子供達から報告にあった地域への古神兵を送り込むと、途端に発信が途絶えた。


「忌まわしい巨人がいる」


 古神兵を殺せる存在など、この島々が所有する巨大兵器しかありえない。自身が、5年前に苦い思いを経験した相手だ。


「私を沈めたヤツだな」


 直感だった。発信の途絶えた地点まで軍を進めると、なるほど。山ばかりのこの島で、不自然に造成された箇所がある。そこに空いた巨大な穴が、敵の存在を示していた。


「降りるぞ。随伴部隊は待機せよ」


 海戦から5年。新たに解明された火の力を纏いながら、穴ぐらへ降下を始める。そして、待ち伏せを画策する間抜けな敵を視認した。


「見つけたぞ!巨人!」


 イシュタールは目をかっ開き、再開に歓喜する。口元は歪み、その興奮は抑えきれない。


「焼き払え!忌まわしき記憶と共に!」


 即座に高エネルギー弾の充填を始める。この狭い空間で発射すれば、自らもダメージを負う可能性がある。だが、今はどうでもいい。とにかく殺すだけだ。帝国の覇権を脅かす敵を、迅速に、そして確実に。


「なんだと」


 しかし結果的に、ヒロセの素早い判断で、古神兵は頭を潰された。視覚の消失により、外の状況は確認できない。だが、頭上からの衝撃が止むことはなかった。


「フハハ!そのまま潰そうというわけか。だが残念だったな。死なば諸共よ!」


 射程と射撃角度は十分だ。腹に備えた砲身は、国掴神を確かに捉えている。


「帝国万歳」


 イシュタールはそう叫ぶと、ありったけの力を込めて、射撃レバーを押し込んだ。眩い閃光が辺りを包む。そして古神兵の表皮は、自身の放つエネルギーに耐えきれず、次第に融解を始めた。

 

「がぁぁああ!」


 イシュタールの断末魔は、やがて神の断末魔と重なる。強烈な爆風があたり一面を吹き飛ばし、火山が噴火するように地上へ噴き出した。


 待機していた地上部隊は、その爆発を察知する間もなく蒸発した。後にはただ、遠方からも視認できるほどの、傘状の雲が湧き上がっていた。

 

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