7.衝突


「私に何か言いたいことでもあるのかしら」


 事件が起きたのは、遡ること数分前。リュウは、基地の食堂から少し離れたところにある、自動飲料機が立ち並ぶスペースで、先ほどの伍長の発言を繰り返していた。


「鋼鉄の女と、鋼鉄の棺桶……」

「それにヴァルキリーだなんて、まるで死神扱いじゃないか」


 自動飲料機から注がれるコーヒーに気を取られて、周囲に人影が迫っているとは露知らず。リュウはそのあまりにも縁起の悪い言葉の組み合わせに、思案を巡らせていた。


 そして冒頭の詰問に至る訳である。


「な、なんでもありません!」


 勢いよく自身の発言を否定し、階級章とネームバッチを確認する。


「し、失礼致しました!ヒロセ中尉!」


「人の気も知らないで」


 それだけ言うと、彼女はミネラルウォーターを飲み干して、格納庫の方へ去っていった。


 かなり気分を害しているようで、飲み干したカップは、その原型を留めてはいない。


「いかんいかん、独り言がダダ漏れだ。気を付けないと基地での信用に関わる」


リュウの悪い癖が、最悪の形に発展しつつあった。

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