6.始動


「それで、ここのボルトを締めて完了だ」


 タカノ伍長は、見た目に反して実に堅実な男である。作業手順書の通りに外装を確認し、整備する様は、熟練の職人と遜色がない緻密さだ。素直に感心していると。


「お、ヴァルキリーがお出ましだぜ」


 女性の話になると、たちまちにその評価を改めたくなる。


「ヴァルキリーですって?」


「ほら、あれ。コイツのパイロットだ」


 リュウは驚きを隠せない。


国掴神くにつかみのパイロットは女性なのですか?」


「なんだ、お前知らなかったの?」


 おそらく、パイロットの情報は軍事機密であろう。この格納基地では常識だろうが、リュウが知る由はない。


「鋼鉄の女が、鋼鉄の棺桶にって、ここじゃ有名な話だぜ」


「鋼鉄?棺桶?でも、意外とキレイな方なんですね」


 リュウは思ったことを口にする癖がある。


「それも知らないのか。ま、棺桶云々については後で飯食いながら教えてやるよ」

「鋼鉄っていうのはその、あれだ。キツいんだ、性格が」


「へえ、タカノさんが言うならよっぽどだ」


「お前なぁ……」


 自身の仇討ちを、異国の、しかも女性の手に委ねるのは、男としての矜持に関わることだ。だが、組織における階級や規律は絶対である。リュウは、言いかけた言葉を飲んで、仕事へ戻る。


「あと1時間だな。そしたら飯だ」


 新兵の初日とは、こうして軽口を叩きつつ、穏やかに過ぎていくものだと思っていた。

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