6.始動
「それで、ここのボルトを締めて完了だ」
タカノ伍長は、見た目に反して実に堅実な男である。作業手順書の通りに外装を確認し、整備する様は、熟練の職人と遜色がない緻密さだ。素直に感心していると。
「お、ヴァルキリーがお出ましだぜ」
女性の話になると、たちまちにその評価を改めたくなる。
「ヴァルキリーですって?」
「ほら、あれ。コイツのパイロットだ」
リュウは驚きを隠せない。
「
「なんだ、お前知らなかったの?」
おそらく、パイロットの情報は軍事機密であろう。この格納基地では常識だろうが、リュウが知る由はない。
「鋼鉄の女が、鋼鉄の棺桶にって、ここじゃ有名な話だぜ」
「鋼鉄?棺桶?でも、意外とキレイな方なんですね」
リュウは思ったことを口にする癖がある。
「それも知らないのか。ま、棺桶云々については後で飯食いながら教えてやるよ」
「鋼鉄っていうのはその、あれだ。キツいんだ、性格が」
「へえ、タカノさんが言うならよっぽどだ」
「お前なぁ……」
自身の仇討ちを、異国の、しかも女性の手に委ねるのは、男としての矜持に関わることだ。だが、組織における階級や規律は絶対である。リュウは、言いかけた言葉を飲んで、仕事へ戻る。
「あと1時間だな。そしたら飯だ」
新兵の初日とは、こうして軽口を叩きつつ、穏やかに過ぎていくものだと思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます