8.報告


「と、いった次第で……」


 リュウは、それほど事態を深刻に捉えずに、先ほど発生した険悪な一場面を、2人の伍長に報告した。


 2人は、手にしていたスプーンの動きを止め、やがて頭を抱えた。


「リュウ一等兵」


 階級呼びを嫌うタカノさんが、改まってそう呼んだ。何か嫌な予感がする。


「そのヒロセ中尉が、紛れもないヴァルキリー本人だよ。顔を見て分からなかったのか?」


 予感は的中した。


「慌てていて、顔なんか見てる余裕ありませんよ。それより、早く謝らないと」


 勢いよく席を立つと、タカノさんが袖を掴んで宥める。


「バカバカ。事情を知らなかったお前が、しかも上官に今更謝っても無意味だ。幸い、彼女は似たようなことを言われ慣れてる。もう忘れろ」


「そうですか」


「まあ、先程言った通りだが、彼女は先の出撃で育ての親を失っている。そして実の両親も、国掴神のロールアウト時の事故で亡くなったんだ」


 タカノさんは続けて。


「だからそう、死神みたいに揶揄する連中もいる。最悪なことに、その連中とは、俺らのことだと認識された訳だが」


 また険悪な雰囲気が一同を包む。シマダ伍長に至っては、天を仰いだまま戻ってこない。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。何かお詫びを……」


 この軽挙は、いささか高くつきそうな気がした。

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