17.決着(東覇征役 完)


 リュウが目を覚ますと、視界は真っ白だった。


「起きたかね、リュウ一等兵」


 どうやら、リュウはベットに横になっているようだ。ベット脇から声を掛けてきた中年の男性は、どこかで見覚えがある。


「どちら様でしょうか」


 起き上がろうとすると、体に痛みが走る。


「その傷では動けんだろう。そのままでいい。基地で何があったのか教えてくれ」


「何が何やら」


 困惑するリュウに、男性の脇に控えていた軍人が、状況を事細かに説明した。


「皇国の国境線が破られて緊急事態宣言を発した後、格納基地への敵襲と、爆発を検知してね。偵察を送ったのだよ。到着した頃には、基地が完全に吹き飛んでいた。周辺には国掴神の残骸が散らばっていて、通信席部分のコアから君が見つかったのだ」


「すみません、記憶にありません」


 リュウは必死に記憶を辿る素振りを見せるが、押し黙ったまま、何も言わない。


「出撃を許可していたから、制式パイロットのヒロセ中尉なら何か知っていると思ったのだが、行方不明でね。操縦席のコアは、もぬけの殻だった。それに、通信手ではない君がなぜ通信席にいたのか。何か思い出せないか」


「申し訳ありませんが、全く」


「閣下、これでは無理ですな」


 閣下と呼ばれた中年の男性は、軽くうなづいて、リュウに声を掛けた。


「今はゆっくり休むといい。いずれまた」


 そうして、2人の軍人は病室を後にした。


「そうか、中尉は行方不明か」


 2人が去ると、リュウはそう呟いてニヤリと笑う。


「鋼鉄の女でもなければ、ヴァルキリーでもない。ただの人間だったわけだ」


 痛みに耐えながら、傍にあったミネラルウォーターをぐっと飲み干して、今度は大きな声で笑った。


「それにしても、あの国掴神が腹のエネルギー砲を耐えるとは驚いた。神を殺す神、人間の生み出したものが、帝国を凌駕するとは恐れ入る」


「ひょっとすると、〈大ハーン〉を殺せるかもしれない」


 リュウの表情は、なんとも言えぬ高揚の色で満たされていた。


「必ず勝利する」


 格納基地で、上官から掛けられた言葉を思い出す。青臭いセリフだった。


「皇国でも、帝国でもない。勝つのは私だ」


 復讐を完遂する手段も機会もある。更に、リュウの正体を知る者は消えた。たった1人の戦いが、これから始まるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る