15.開戦
先刻の古神兵が開けた天井の穴から、火の古神兵が降りてくる。2人が操縦席に戻ってから、10分ほど後のことだった。
この狭い穴ぐらから出て、地上で迎撃しようと主張したヒロセに対して、リュウは首を振る。
「いけません。ヤツには遠距離の強力な武装がある。この空間でこそ、我々に分が生まれるのです」
半径が100メートルにも満たない基地の格納ブロックは、今や瓦礫とバラバラにされた古神兵の骸に占領され、身動きが取れるスペースは更に狭くなっていた。
さながら闘技場といった雰囲気で、決戦の地には相応しい。なにより建物の構造を熟知し、暗闇に紛れて先手を打てる状況は、帝国の最高戦力たる火の古神兵に対する最善手。可能な限り、安全に倒したい。
「さあ、掛かってきなさいよ」
しかし、そんな余裕もすぐに消し飛ぶ。
姿を現した古神兵の姿は、先程のヤツとは明らかに違う。鈍重だがバランスの取れた体躯で、体には炎を纏っている。辺りは明るく照らされて、奇襲も何もあったものじゃない。
「対馬で見たヤツと似ているけど、明らかに改装が施されているわね」
ヒロセの声は漏れていない筈だが、敵はこちらを視認すると、突然体を固定した。同時に、口元の砲身を伸ばして、攻撃の準備も始める。眩い閃光が先端に凝縮され、破壊力が徐々に高まっていた。
「まずいです中尉」
攻撃を察知すると、ヒロセはすぐさま波号機関のレバーを押し込み、フルスロットルまで回転数を解放する。それに呼応するように、国掴神には動力が供給され、急激な動作要求に対応した。
「何をするつもりですか!?」
「逃げるところがないんだから、突っ込むしかないでしょ!」
ヒロセは叫びながら、地面に転がる巨大なコンクリートの壁に両腕を突き刺す。瞬時に持ち上げると、盾のように自身の前面に突き出しながら、突撃を開始した。
「チャージ!!」
数秒の間に、この動作をこなしたヒロセの技量には、目を見張るものがある。相手も意表を突かれたのだろう。発射まで、これまた数秒の猶予があった。
轟音と共に、古神兵の頭部にぶつけられた質量は如何程のものだったであろう。リュウは、またもや通信席にしがみ付きながら、その光景を見守っていた。先程までの眩い閃光は、既に確認できない。
ヒロセが腕を振り上げると、衝撃を食らった頭部が完全に見えた。潰れている。跡形もなく、潰れている。
「やりました中尉!背後に回り込んで!」
しかし、リュウの声は轟音にかき消されて届いていない。振り上げた腕を、ヒロセはそのまま古神兵へと振り下ろした。容赦なく、何度も。突き刺したコンクリートと、波号機関の莫大なエネルギーが、古神兵を易々とリングへと沈めていく。
だが、古神兵の動力はまだ尽きていない。腕を上げて必死に防御を試みている。一撃、また一撃、重ねるごとに表面の装甲が削れていった。
「頭を潰されたのに、なぜまだ動けるんだ」
リュウの脳裏に一抹の不安がよぎったところで、重要な武装への警戒を怠っていることに気が付いた。
「中尉!腹部の砲身がまだ生きてます!」
次の瞬間、操縦席のモニターが、強力な閃光に包まれた。
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