急章
13.取引
「……ということは、これは海軍の独断で……そうであるならば……大佐が……」
ヒロセ中尉は、朧げな意識の中で、彼らの会話を断片的に聞き取っていた。内容は分からないが、機密情報であることは推測できる。
「分かった、もういい」
「ま、待て、撃つな!」
乾いた銃声が、中尉の意識を一気に現実へと引き戻した。リュウは尋問を終えると、ゆっくりと彼女に近付いていく。
「あなた、帝国の人間なのね」
中尉は目を合わせ、心底軽蔑するような態度で吐き捨てる。
「通りで、新兵のくせに一切動じないわけだわ。仲間が皆殺しにされたっていうのに、その落ち着き払った態度。襲撃のことも知っていたのかしら」
「上官や両伍長の戦死は残念です。シマダさんには、ご家族もいらっしゃるようでしたし」
リュウは、中尉の拘束を解きながら、顔色一つ変えずに淡々と話し続ける。
「ですが、知りませんでした」
リュウは、襲撃を知らなかったと言った。
「信用できないわ」
「当然です。それに、信用しなくて結構」
「その代わり、1つ取引をお願いできませんか」
「相手に銃を向けながら取引ですって?そんな不平等な話があるかしら」
「拒否権は無いと、ご理解ください」
リュウの目は、真っ直ぐに中尉を見つめている。トリガーに掛けた指先には、今にも撃鉄を打ち下ろす覚悟が備わっていた。
「断れば?」
「皇国は貴重な情報源を失います」
「その貴重な情報って」
「帝国の、全てです」
「それは見過ごせないわね。で、それに見合うメリットが私にあるのかしら」
「仇討ちができます」
「なんですって?」
「私は帝国に捨て駒にされました。ここにはやがて、磁の力に導かれた火が来ます。全てを滅する為の、火の古神兵です」
目は嘘をつけない。火というワードを聞いた途端に、ヒロセ中尉の瞳はかつてない程暗く、憎悪の色が濃くなっていった。
「取引のご回答を」
リュウは、拳銃をより一層強く握り締めて、そうヒロセ中尉に迫るのだった。
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