4.過去


 大陸の端、寂れた農村に生まれたリュウが、海を越えて異国へ赴くなど、誰が予想できたであろうか。


 彼の転機は10年前、ちょうど10歳の時。突然、全てを失った。


 大陸中央部で勃興した〈アスタン無限帝国〉の侵攻を受けた大陸東方の沿岸都市〈紅蘇〉こうそが、わずか一刻で壊滅したのである。


 紅蘇は、旧文明の遺物を多数所有する精強な都市国家であったが、帝国の巨大兵器古神兵こしんへいの前に、その力は無力であった。


 紅蘇の庇護を受けていた周辺の諸民族は、侵攻に伴う人員供出で男手を失い、その後の帝国統治下に、重労働や軍への無償奉仕を余儀なくされた。


 リュウの一家もその例に漏れず、父と兄達は紅蘇と運命を共にし、母も劣悪な労働環境で肺を患い死んだ。


軍へ奉仕に出されている間に、家族を失ったリュウを待ち受ける運命が、大変過酷なものであったことは想像に難くない。


「みんな、待っててくれ。必ずやり遂げる」


 帝国を打ち砕く力がここにはある。リュウは激情に高揚する体を鎮めながら、上官と共に部隊の同僚達の元へ向かった。

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