11.全開
「あなた、通信手の経験は?」
「経験はありません。教育課程でいくらか触れたことはありますが」
「ならそこのハッチから上がって。頭部通信室で大本営と連絡を取りなさい」
リュウが後ろを振り返ると、簡素なハシゴが設置してあるのが見える。なるほど、これが頭部まで繋がっているのか。急いで駆け上がり、通信を試みる。
「ダメです。繋がりません!」
配属の初日とはいえ、リュウも軍人の端くれである。混乱と恐怖が渦巻く事態でも、冷静に指示に従ってみせた。
「電波妨害ね。いいわ、問題ない」
ヒロセ中尉は続けて。
「これより敵機との戦闘に移行。機関全開、チャージ!」
その号令と共に、波号機関が唸りを上げ、国掴神に生命が宿る。全身を形成する金属が互いに共鳴し、歪な旋律を奏でる。重厚な胸部装甲の隙間から覗く30mmの機関砲が、今か今かと、その出番を待っていた。
「まずは様子見!」
操縦席との連絡管から、ヒロセ中尉の声がした次の瞬間、機関砲が火を噴いた。それも6門斉射。いくら堅牢であろうとも、この火力に耐えられる人工物は地上に存在しない。
「ダメだ」
だが、リュウは過去の経験から、古神兵に火器が無力であることを知っていた。
繁栄を誇った東洋一の沿岸都市、紅蘇を紅蘇たらしめたのは、発掘された遺物の圧倒的な軍事力。だが、その数々の火器が、帝国の古神兵には意味を成さなかった。
着弾した弾丸の土煙が晴れぬうちに、その巨体は悠然と前進してくる。人の形はしているものの、明らかに異形。その全貌を、ようやくあらわにした。
「これが神の姿なのか……」
寸胴な体躯と巨大な頭部、そして不自然なほど長い腕。地下深くに建造された格納基地の天井を単騎でブチ破り、機関砲2万発をその身に受けながら、表皮には傷ひとつない。
「肉弾戦になる。通信席で待機してなさい」
神を前にして、無力なリュウに出来ることは何もない。復讐も、自身の生命さえも、中尉の手腕に委ねる他なかった。
「中尉、ご武運を」
返事は帰ってこない。
誰の声も聞こえなくなった瓦礫の山で、神々の鼓動だけが、確かに脈打っていた。
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