第6話 徳ポイント

 取り急ぎ、あなたに伝えなければいけない。


「今ね、わたしの前をね、すっごい格好をした人が通り過ぎたの!」


「ん?」


「あのね、80年代のスーツでね、パンチパーマのグラサン! 首に金のネックレス! ホンモノじゃない?」


「何がかね? なんのホンモノなのかはわかんないけど。それはね…… あなたが徳ポイントを使ったからだよ」


「え? 何? 徳ポイント?」


「うん、人はね来世のために徳を積むっていうでしょう。あれね、ポイントシステムなのよ」


「ん? 何?? なんの話?」


「だからあ、来世で使うはずのポイントを今回使っちゃったって話」


「う、うん。ごめん、わかんない」


「しかたない、説明しよう」


「あ、はい。お願いします」


「こないださ、いちご2粒、ガードレールに置いたでしょ?」


「ええ、はい。そうっすね、置きましたね」


「それはもう徳ポイントよ」


「ん? はぁ」


「目の前で自転車に乗ったおじいちゃんが倒れた時も助けてあげたじゃん」


「うん。誰も助けないんだもの。驚いちゃう。周りに人がいるのにね、誰も助けないの」


「ほら、それよ。徳ポイントよ」


「あー…… なんとなくわかってきた」


「うん。だけどね、今日のそんなホンモノ見ちゃったりすると徳ポイント使っちゃうのよ」


「なんで? わかんない」


「自らの欲望に負けてそんなもの見ちゃったんでしょう? 徳ポイント使ってるよね?」


「え? 別に見たくて見たわけじゃないんだけど……」


「そういうもんなんだよ。だから来世で幸せになるのは難しいんじゃないか」


「そうなの? そういうものなの?」


「そうだねえ…… 難しいね、徳を積むってことは」


「うん。まあそうなのかもしれないけど、わたしの見たホンモノの話は?」


「ああ、まあそりゃあいたんだろうね、ホンモノ」


 いつものように変なこと言ってる。


 いつものように笑いあう。


 いつものように


 わたしはあなたのことが好き。

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