第13話 カレーなる出来事

 人気のあるカレー屋さん。ネットのランキングで1位になったこともあるカレー屋さん。

 わたしはスパイスの効いたカレーをとてもおいしいと感じるんだけど、スパイスが苦手なあなた。

 

 「仕方ないでしょう、他のお店が空いてなかったんだから。ここは有名なお店なんだよ、席が取れたのラッキーなんだからね」


「うん。まあカレーはね、辛くても食べられるからね。大丈夫なんだけど」


 そう言ってカレーとマンゴーラッシーを頼むあなた。人気のお店だからかランチタイムのお店は混雑してる。

 さらりとしたスープ状のカレーでカイエンペッパーやコリアンダーなどのスパイスが、くせになる刺激的な辛さを生み出しているらしい。


 案の定…… 悶絶している(隠そうとしているけど隠しきれていない)あなた。ほんとに申し訳なかった。ここまでスパイシーだとは知らなかった。


「あのね、ごめん。無理しないでいいよ」


「なに言ってんの? 大丈夫だよ」


「残せばいいんだよ。食べられなかったら」


「そんなことできるわけないでしょう? こっちから頼んどいて食べられませんでした、とかお店の人に失礼ですよ」


「うーん、いいんだよ。無理なものは無理なんだから。みんなそんなに気にしてないんだよ」


「みんなって誰よ。知らないみんなはそうかも知れないけどわたしは残せない」


「うん、知ってるけれどもね」


「ラッシーは美味しい!」


 そんなことを言いながら食べていると隣のお客さんが食べ終わって席を立ち会計を済ませている。


 ふと隣の空いた席を見ると椅子の上に小さな小銭入れが目にとまる。


(あ、隣の人、小銭入れ落としてる…)


 と思った瞬間あなたはもう動いていた。

 隣の席に移り、小銭入れを手に取って出入口に向かって走り出す。


 隣にいたお客さんは会計を済ませてもう外を歩いている。


「さっきの方の忘れものです! 追いかけて!」


 あなたは会計の店員さんに小銭入れを渡す。

 店内のお客さんみんなが見ている。


 何事もなかったように席に着くあなた


「なんで見えたの? 小銭入れ。あなたの位置からでは見えなかったでしょう?」


「ああ、あなたが気にして見ていたからね」


「すごいね。あなたのやったことをみんな見てたよ」


「そうだねえ、みんな見てなかったら『おお、財布落とした!』って言って自分のものにしたのにね」


「またそんなこと言って。……えらいね。本当にそういう所、すごいと思う」


「ん? なにが?」


「なんでもない」


 いつものように変なこと言ってる。


 いつものように笑いあう。


 いつものように


 わたしはあなたのことが好き。

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