第14話 ベスト
いろいろ考えた結果、そこを通るのがベストだったのに
やっぱりあなたは笑ってる。
「なんでそこを通るのさ」
「仕方ないでしょう、下からは動きが大きくなるし音も出る。横を通り抜けようとしたらあなたに当たって起こしちゃう」
「起こしても別にかまわないよ?」
「そんなわけにはいかないよ、せっかくよく寝てるんだから」
「だからって人の顔の上をまたぐのはいかがかと思いますよ?」
「上ですよ、頭の上。しかもまさかあのタイミングで起きるとは思わなかったし」
「起きるよね? 顔またがれたら」
「頭の上だからね。で、さっきから言ってるけど一生懸命考えた結果、あそこを通るのがベストだったの!」
「おお! 面白い!」
「え? 面白いの? じゃあまあいいか? って、なにが?」
「例えばね、おじさんと話してた若い女性が話の途中でシクシク泣き始めたとする」
「ん? はあ、まあ、はい」
「どうしたの? って聞いたら」
「うん」
「実はあなたと話していて父親の事を思い出したんです。いつも私につらい事があると、大丈夫、大丈夫って肩を抱いてくれた優しい父親だった、って言われてさ」
「うん」
「ずっと俯いてシクシク泣いてるその子のそばに行って肩に触れて大丈夫、大丈夫って言ってあげたんだって」
「はあ」
「そしたらその子に腕掴まれてさ、この人触ってくるんです! 痴漢です! 触らないで! って大声で言われてひどい目にあったって話を思い出した」
「いやそれおもしろいの?」
「その人ね、周りの人に『これがベストだったの!』って叫びながら連行されたって」
「そう…… ベストは難しいね」
「そうなんだよ! だから私は常にベターを選ぶことにしてるの。例えばハンバーグよ」
「え? ハンバーグ?」
「うん、ハンバーグのベストは? 牛100%か合い挽きか、チーズインかノーマルか、ゴロゴロ感かなめらか感か、肉感かスパイシーさかなど様々なベストがあるでしょう?」
「ごめん、ハンバーグにそんな思い入れがない。崩れて食べ辛いのはいや」
「なっ?!」
「ジューシーな方がいいから、肉汁かな?」
「マジか…… まさか肉でもなく肉汁とは。しかもハンバーグに思い入れがないとか…… 私もまだまだだわ」
いつものように変なこと言ってる。
いつものように笑いあう。
いつものように
わたしはあなたのことが好き。
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