第15話 とうふ
今日はクリスマスイブ。
街は師走とクリスマスの雰囲気に包まれているだろう。
わたしは熱が出て仕事も休んで布団にくるまっている。
「疲れが出たのかね?」
あなたが言う。
「どうだろうかね。まあここのところずっと忙しくしていたけど」
「うん、休んだらいいよ」
「うん。でも今日はとうふちゃんの掃除の日だから荷物を上にあげておかないと」
「は? とうふちゃん? え? こないだお土産にくれようとしたスマホリング?」
「え? あれはあなたがとうふが好きだからわざわざ選んで買ったのにいらないって言われたから私が使ってる。それじゃないとうふちゃん。スマホリングに名前付けないでしょう?」
「いや、ああ付けませんけどね。あの、すみません、わたし、とうふちゃんが誰なのかわからないんですけれども」
「あれ? 買ったのよ、ロボット掃除機」
「は? はい。 で?」
「とうふちゃんよ」
「すみません、ちょっとおっしゃってる意味がよく分からないんですけれども」
「どこがよ。ロボット掃除機買ったら白くて四角くてかわいい、スマホと連動してどこをどのように掃除したのか遠隔でもわかるという優れものよ」
「はあ、まあそれがとうふちゃんという事はいいとしますけど、ではなぜ荷物を上に?」
「愚問ですね。初回、とうふちゃんを動かしたらね」
「うん」
「洗濯物を干す、ぎっこんばったんなりそうな室内物干しに挟まってずーっと唸ってたの」
「うん? うん」
「あんまりかわいそうだったからね、掃除の日には荷物を除けたり上にあげたりしてあげてるの」
「え? いやそれって……」
「何?」
「掃除終わったら下におろすの?」
「そうよ。当たり前じゃん、何言ってんの?」
「納得いかないわあ」
「何がよ」
「それってずっと上げといたり除けてたりしたらいいんじゃないかね?」
「わかってないなあ、普段使うでしょ。室内物干しとか姿見とか。姿見なんてとうふちゃんがぶつかって倒れて割れてごらん、大変よ」
「いや、まあそうだけど。なんか納得いかない」
「そんでね、スマホと連動なんだけどね」
「うん」
「スマホでとうふちゃんがどんな動きしたのか見えるんだけどね。とうふちゃん、同じところずーっと掃除してんのよ」
「え? 設定とかあるんじゃ?」
「それよ、説明書見てやろうとしたのさ」
「ええ、まあそうでしょうね」
「そしたら英語と中国語しかないからわかんないの」
「おおう。それさ」
「うん」
「樋口一葉が書いた小説の名前は分かんないけど五千円札使える、みたいな話だね」
「ぜんぜんわかんないよ、その例え」
「そっかあ、熱あるもんね。仕方ないよ、ゆっくり休んだらいいよ。メリークリスマス」
「はい。メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス」
「ああ! このお話は名前言っちゃダメなのに!!」
「大丈夫、あなたはローレンスじゃないから」
いつものように変なこと言ってる。
いつものように
わたしはあなたのことが好き。
皆様、メリークリスマス
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