第10話 バケだな

 ここ数年、調子の悪いときに人の言った言葉がとても気になるわたし。

 あなたは面白がって笑うけど、ほんとに気になっているの


「こないだラジオの天気予報でさあ」


「うん、なに? また変なこと言うつもりでしょう?」


「ひどいな、いつもいつも変なこと言ってるわけじゃないでしょう? まあいいや、まだまだこの暑さはしばらく続くでしょうって言ってたのよ」


「ん? まだ始まったばかりなのにね」


「え?」


「昨日くらいからじゃん。暑いの」


「いや…… 人の言葉が気になるって話をされていませんでしたっけ?」


「してましたよ? それが?」


「今のお気におなりにおませんでしたかね?」


「なにそれ? 今のが気になるよ」


「それはまあいいんですけど、まだまだ、しばらく続くっておかしいでしょう?」


「よく使いそうなフレーズだけど、そうね。まだまだ続くのか、しばらく続くのか」


「うん。まあお気におなりにおませんのならいいんですけどもね」


「んもう! あ、そういえばわたしもあったわ」


「え? いいの? あ、はい、そうすか。どうぞ」


「車でラジオ聴いてたらね、女性アナウンサーがね、たぶん若いんだけど、『遠巻きに言われたんです』って言ってたの」


「ほう」


「遠回しに言われると遠巻きに見るが混ざってるなあって思ってね」


「はい」


「なんだか無性に腹が立ってね、バカとボケが混ざってね『バケだな……』って言ってしまった」


「すばらしいな、Oちゃんが過ぎますね」


「Oちゃん? 誰それ? ああ、バケラッタかあ」


「昭和で攻めていかないとだからね。まあ、Oちゃんも大人になったもんだと思ったね」


「え? なんで?」


「大人になったらバケラッタがバケだな、になるよね」


「なるね。いや? え? なるのかなあ?」



 いつものように変なこと言ってる。


 いつものように笑いあう。


 いつものように


 わたしはあなたのことが好き。

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