第9話 ワル

 あなたが食事の文句を言ってる。めずらしい。


「この香草パン粉焼きってさ、後からパン粉のせないよね? 香草パン粉を焼いてるから香草パン粉焼きなんだよね? なんで焼いた魚の上に香草パン粉のせてんの??」


「う、うん…… そうだと思うけど正解はわかんないかな」


「これが焼き魚の香草パン粉のせなら納得できるのになあ」


「なに言ってんの? まあ世の中にはおいしいものがたくさんあるんだからそれを探していけばいいね。 どうしたの? 今日は毒舌だね」


「ああ、今日はちょっとワルだからな」


「ワル?」


「昨日からのわたしのワルさ加減を教えてあげようか」


「ええ、まあ、はい」


「昨日、付き合いで買ったヤクルトを袋のまま冷蔵庫に入れた。

 たこ焼き6個食べようとして8個食べた」


「え? 予想以上に何が悪いのかわからないねえ。それ悪いとこないよ?」


「ええ? 権化よ。化身よ? さらに夜中にハニーバターピーナッツを食べた!」


「微ワル……」


「権化! 化身!」


「悪の枢軸?」


「それはもう本線よ、王道!」


「大変だねえ、ワルの道も」


「やっとわかって来たか! さて、お風呂入ろかな。どんなワルができるか楽しみよ」


「シャンプー流さないでリンスつけるとか?」


「そんな子どもみたいなことはしませんよ! シャンプーとコンディショナーのボトルキャップ入れ替え……」


「えっ?? それはワルがすぎ……」


「……ようかと思ったけどそれは自分がひどい目にあうからしない」


「びっくりしたあ。急に本物のワルだから」


「しかたない。タオルを濡れたまま掛けとくとかにしとこうかね、ワルが止まらないわ」


「あなたのワル、小学生レベルじゃん」


「そうなんだよねえ。盗んだバイクで走り出すために先に免許取らないとなって思うタイプなんだよなあ。なんだったら免許取るために先にバイトしてお金貯めなきゃってなるよねえ」


 いつものように変なこと言ってる。


 いつものように笑いあう。


 いつものように


 わたしはあなたのことが好き。

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