第8話 人生


 最近あなたはなんだか熱心に書き物をしている。あなたが好きなことをするのは構わないんだけど、今日はどうしてもあなたに物申さなければならない。


「ねえ、最近、わたしたちの会話を書いてるよね?」


「うん、フィクションだけどね」


「ほぼほぼノンだよね?」


「ん? そんなことないよ、フィクションですよ」


「既視感すごいんだけど?」


「まあ話のタネは会話にあるからね」


「でさ、なんでわたしをもっと可愛く書こうとか思わないの?」


「え?」


「かわいく! モブじゃん! ひどいよ」


「えーっと…… 二人しか登場してないのにモブってことはないかと思うんですけど?」


「とにかく! かわいく書いて!」


「いやあ、めちゃくちゃかわいく書いてるんだけどなあ……」


「かわいい? ものすごく価値観が違ってる。ほんとひどいよ、個性も何もないし、変わった人がバカな会話してる話じゃん」


「ええ? ひどいなあ…… そりゃ個性を出さないように書いてるんだからそうなるでしょうよ。じゃあ少し聞いてもいいかね?」


「どうぞ」


「幼少期のエピソードなど一つお願いしても?」


「え? うーーん。幼稚園の時に後ろの子がね…… その子をお世話したくてしたくて、わたしはずーっと後ろを向いてて、参観日の日にわたしがよく怒られてたんだってさ。後ろ向くなって。わたしはただの仲良しのつもりだったんだけど大人にはそう見えなかったらしい」


「ほー。この話の教訓は?」


「まずは自分の事をしましょう。でないと怒られます」


「わりとストレートですね。使えるかな、これ」


「ほら、これもお話にするんでしょう?」


「それは仕方ないよ。作家はね、自分の人生を切り売りするのが商売なんだから」


「いやそれわたしの人生だよ?!」



 いつものように変なこと言ってる。


 いつものように笑いあう。


 いつものように


 わたしはあなたのことが好き。

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