第7話 よきゃん
わたしはけっこう言い間違いをする。あなたはいつもそれを笑ってる。
「ちょっといい加減にしてほしいんだけど」
「ん? なにをかね?」
「わたしがちょっと言い間違えたことをいつまでも面白がって使うでしょう?」
「え? だって面白いもの! わたしは常に新しい言葉を探しているの!! わたしはね、本当にあなたに出会えて良かったと思ってるんですよ。なんて素敵な言葉を紡ぐ人なんだろうってね!」
「ほんとに調子のいい事ばっかり言って。だめだ…… そう言われてつい喜んじゃってるわたしがいる…… だまされるな、わたし。 これはあなたの策略だとわかっているはず…… がんばれ、わたし……」
「何言ってんの? いいじゃんね!! 新しい言葉も昭和な言葉も今はもう誰も使わないって言葉もたくさん使ってるなんてとっても素敵な事ですよ」
「昭和なって…… 例えば?」
「こないだ言ってたね。『稀』って。ほんと稀にしか聞かないよね」
「そんなことないよ。よく使うよ?」
「ね、そういうことだよ。稀とか拙者とか、ドロンとかね」
「言ったことないよ、拙者とかドロンとか……」
「あるよお。覚えてないの? まだまだあるね。こないだのさ、『ほてめない』もさあ! あんなのなかなかないよ!」
「ね。どうやったら『ほめてない』が『ほてめない』になるのかわたしにもわからない」
「ほんとね。そういえば有料道路もなんか言ってたね。有料道りょを通りゃないとって言ってたね」
「ほんとひどいね。有料道路を通らないと、ですよ」
「ほんとうにあなたといるとね、まだまだ新しい言葉と出会えるよきゃんがするよ」
「ん? よきゃん? 予感? 予見? どっち?」
「どっちもじゃ!!」
いつものように変なこと言ってる。
いつものように笑いあう。
いつものように
わたしはあなたのことが好き。
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