第11話 病
ワクチン接種の次の日。毎回だけど調子のよくないわたし。
心配になってあなたに相談する。
「どうもやっぱり調子が悪くてね」
「うん。心配だね」
「ワクチン打ったのもあると思うんだけどね。腕が痛くて上げられないの。下なら何でもできるからお皿は洗えたんだけどね。肘までバンドして固定したいよ、ウッカリ上げると激痛なの。これは針を刺すところが悪かったんじゃないのかね?」
「うーん…… バンドっていう言い方も気になるけれど、それはさておき、そういえば最近仕事で倉庫に入らなかった?」
「え? 倉庫? ああ、一昨日入ったね。どうしても過去の資料が必要ってなって本社の倉庫に行って探しまくりましたけど? それが何か?」
「それは…… 倉庫に入った病じゃないだろうか?」
「はい? なんて? 倉庫に入った病?」
「うん。あるんだよ、知らない?」
「ええ、はい。存じ上げませんが、それはどういった症状なんでしょう?」
「その前に、納豆病はご存じか?」
「申し訳ありません、存じ上げませんね」
「夜中に急にねぎを齧りたくなったり藁に包まれたくなるという恐ろしい病よ」
「は、はあ……」
「世の中にはわたしたちには理解が及ばない病気があるんだよ。で、倉庫に入った病はね、入ってから2,3日で症状が出はじめるんだよ。あちこちが痒くなったり目がしょぼしょぼしたり熱が出たりね」
「あのお、それは倉庫に入ったからじゃないんじゃ?」
「それ! そこ! はい! それが倉庫に入った病の恐ろしさなのよ。一見すると他の病気と思いがち。それこそが倉庫に入った病の罠なんだよ」
「ええ、まあ、あなたがそうおっしゃるならそうかもしれませんけどもね。病気が私に罠を仕掛けてくるのもまたそれは……」
「だいたいね、あなたは休みになると何かの病気になりたがるからね」
「え? そんなことないよお。あれ? そんなバカな。まさかわたし、何もせずに休むのに理由がいるの? 家事もほとんどせずにいる罪悪感?」
「おやつとかいっぱい食べてるからじゃない?」
「ほんっとに失礼しちゃう。そんなに食べてません! あ、そういえばきっと作らないって思ってお惣菜のお好み焼き見たんだけどね、ハーフがなかったの」
「フルをお買い上げですか?」
「え? なんで? わかるの? 買わなかったかもしれないじゃん」
「買わないわけがないでしょう。他は?」
「唐揚げも揚げたてでものすごおくおいしそうだったけど我慢した」
「それはフルにしたからでしょう?」
「なんで? 全部わかるの?」
「食べるか食べないかなら食べる。カロリーは気になるからフルにした分唐揚げは我慢した。あなたはわかりやすすぎるよ」
「なんかくやしい。あーちょっと頭痛・吐き気・倦怠感・寒気…… 食欲はある」
「一番最後のを除けばだいたいの病気はそれだよ」
「じゃああれじゃない? 疲労こんぱい病? 人と接しすぎ病? とかじゃない?」
「ちょっと何言ってるのかわかんない」
「もー! なんでよお!!!」
いつものように変なこと言ってる。
いつものように笑いあう。
いつものように
わたしはあなたのことが好き。
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