第16話 カラスのゲーム実況
「あっ、あん……ちょっとこいつらガチえぐいってぇ……」
喘ぎ声と共に、文句を言う。
私の操作するキャラクターは体力を大幅に削られ、瀕死状態だ。
建物の陰に隠れて回復を試みる。
しかしながらしつこい敵はそんな隙を与えず、私に容赦なく弾丸を浴びせる。
「そんなとこ、しつこい……あ、ちょ……もうらめぇぇ」
嬌声を漏らしながら目の前には部隊全滅の文字。
ゲームオーバーだ。
「はぁ、はぁ……」
荒い息遣いが部屋に響く。
私はカラスという名前のゲーム実況者。
現在某動画投・生配信サイトで活動している。
チャンネル登録者数は三万人と、そこまで規模の多い活動者ではない。
人によっては底辺だと言い捨てるだろう数字だ。
そして今は、ゲームの実況生配信中である。
ゲーム画面が映し出されたモニターの横にあるサブモニターには視聴者のコメントがずらりと並ぶ。
『エロ過ぎ』
『そこで回復巻くのは戦犯』
『喘ぎ声助かる』
『ふぅ……』
『僕のライトマシンガンも受け止めて♡』
『初見です。えっちなのでチャンネル登録しました。ところでいつ脱ぎますか?』
プレイへの指摘などもあるが、大半はエロコメ。
そんなコメント達に自分でも不思議なくらいにニヤニヤ笑ってしまう。
「どしたのお前ら。興奮しちゃった? 童貞はシコって寝てろよ」
最低の煽り文句を吐き捨てたが、これはあくまでファンサービスだ。
次の瞬間、またも視聴者から大量の称賛コメントが送られる。
その中に一つ見つける。
『どうせボイチェン使ってる男だろ』
私は顔出しをしていない。
そのため、声だけでは性別を女性だと認めないリスナーも存在し、汚い発言をした際にはこのように疑うコメントが見られる。
しかしながら私は紛う事なき女。
それも今を時めく花の女子高生だ。
そんな光景にまたしても画面外でにんまりと笑いながら、私は言う。
「おっぱい見せてあげよっか? DMこいよ。それで納得する?」
挑発的な事を言うと、コメントの流れが加速した。
これだからキモい男リスナーは。
単純で可愛い。
画面を前に鼻息荒く、コメントを打ち込んでいる姿を想像して吹き出す。
とは言え、こんなのは一部のリスナーだ。
古参である長い付き合いのリスナーは基本的に私の発言に対しても、また始まった……程度にしか思っていない。
こういう色を求めず、ただ純粋に楽しんでくれているリスナーは大好きだ。
「じゃ、今日はこの辺で。ばいばい」
配信ソフトの終了ボタンをクリックし、私は伸びをする。
今日も仕事を終え、疲れた。
「ふぁぁぁ。もう三時近いのかぁ。明日も高校だし寝ないと」
あくびをしながら部屋の後ろを見る。
防音材、吸音材で覆われた狭い部屋に、ベッドも設備した寝室兼用配信部屋。
部屋間の移動がないため寝るのは楽だが、圧迫感は否めない。
と、リアル用のスマホを開くと通知が来ていた。
友達になった女の子だ。
つい配信に夢中でメッセージに気付かなかったな。
要件は明日の日課表の確認だったけど、今更返信しても遅いだろう。
やらかしてしまった。
それにしてもハードな高校生活だ。
配信を夜中までやりながら学校に通うだけでもきついのに、さらにはオタクであることを隠している上に口調まで清楚ぶっているため、気疲れが凄い。
そこまで考えてふと一人の男子の顔が頭をよぎった。
「上澤君、今の配信見てたのかな……」
そっと真っ暗のモニターを見る。
私、羽衣石彗恋の正体は、ゲーム実況者カラスの視聴者などではなく、カラスその人なのである。
こんなキャラで売り出している以上、リアルの人間に正体を知られるわけにはいかないし、なんとかして隠し通さなければならない。
そんなわけだから、彼にはリスナーだと嘘をついているけれど。
正直色んな意味で辛い。
カラスの話題に相手するのも鳥肌が立つから嫌だし、同じクラスの男の子に自分の発言が筒抜けというのも恥ずかしい。
やば。
考えただけで顔が熱くなってきた。
「今日私なんて言ったっけ」
激しめに喘ぎ声を出してみたり、童貞リスナーにちょっと汚い事言ったり。
あとはおっぱい見せてあげよっかって言ったくらいか。
そう言えば上澤君には彼女がいるんだよね。
先輩のめちゃくちゃ可愛い女の子。
上澤君の前では尻尾振ってニコニコしていたくせに、私の存在を視界に捉えた瞬間に凍るような視線を向けてきた。
あれはなかなかだ。
なかなかのヤンデレ属性への伸びしろを感じた。
「あの可愛さでヤンデレとか、マジ最高じゃん。太もも絶対おいしいって……」
思わず舌なめずりしてしまう。
ああいう他の女に警戒心強めで、自分の男にだけ甘えてる女の子は好物だ。
是非味見してみたい。
「つか、私のリスナーが彼女なんか作るなよ。童貞でいとけ一生。あるわけもないカラスちゃんとの初めての夜を想像して一人でしてろよ」
考えるとむかついてきた。
キモオタの癖に、ヤンデレっぽい犬系先輩彼女といちゃつくなんて。
私はそのまま倒れるようにベッドにダイブした。
明日からも学校だ。
◇
【あとがき】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
かなり急だし、かなり早いですが、ここで雨癒ちゃんのお話は区切ろうと思います。
完結させていただきます。
ここからは私事ですが。
悔いはかなり残っていますが、ラブコメの構成に自分自身首を傾げる事が増えてしまって、やむを得ない判断でした。
しばらくラブコメの新連載はやらない予定です。
またパワーアップして皆様に楽しい物語を届けられたら、と思います。
ありがとうございました。
隣の部屋の甘えたがりな犬系先輩彼女を堕としていくイチャイチャ半同棲生活 瓜嶋 海 @uriumi
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