隣の部屋の甘えたがりな犬系先輩彼女を堕としていくイチャイチャ半同棲生活

瓜嶋 海

第1話 一人暮らしを始めたい!

 中学を卒業し、高校入学を控えた長めの春休みのこと。

 俺は母親と対面して睨み合っていた。

 よくある親子喧嘩と言ってしまえばそれまでだが、今回の件は反抗期云々からくるそれではない。


 争点はどこで暮らすか、という問題だ。


 俺が入学する予定の高校はここから電車で一時間以上かかる距離にある。

 だから学校の近くにマンションの部屋でも借りて、一人暮らしをしたいと言った。

 しかし母親はなかなか首を縦に振らない。


 理由はたくさんある。

 俺が自炊などの家事全般をこなせないという事。

 他にも俺が勉強を疎かにしないか不安であるという事。

 実際、十五歳の一人息子を送り出すのは勇気のいる行為だろう。

 だが俺は本気だ。


「母さん、俺頑張って合格したんだ」

「……それはわかるわよ。偉い」

「頼むよ」

「そうね……」


 俺が入学する予定の高校は偏差値が高めだ。

 そのためある程度は真面目に受験勉強をした。

 その努力も母親はしっかり見ている。


「少し、外に出てなさい」

「……はい」


 頭を抱える母親にそう言われ、俺は家を出た。



 ‐‐‐



 家を出ると言っても、やることは特にない。

 俺は行きつけの本屋によると、ラノベコーナーに直行する。


 暇な時は本屋で時間を潰すのが俺の恒例だ。

 本屋は良い。

 参考書から漫画、ラノベ、時には専門書など、様々なジャンルの世界に触れることができる。

 近年は試し読みができる店舗も減って来たが、この店は古いため、本にシュリンク包装も施されていない。


 いつも通りラノベコーナーで平積みされた作品をチェックしていると、隣に人気を感じた。

 横を向くと、セーターにジーンズという飾り気の無い格好の女子が立っていた。


「辛気臭い顔してどうしたの?」

彩実菜あみなか……」


 女子は中学の同級生だった。

 偶然にも同じ高校への進学が決まっている。


「実はさ……」


 だから、俺は先ほどの親との会話をそのまま伝えた。

 聞き終わった彩実菜は無表情のまま口を開く。


「引っ越しちゃうんだ、寂しくなるね」

「それ本気で思ってんのかよ」

「勿論」


 それならもっと表情に出してくれよ……と内心思いながら、俺は開いていた本を閉じる。

 彩実菜は長い黒髪をいじりながら、興味無さげに棚を眺めた。


 こいつはいつもこうだ。

 顔立ちは綺麗で美人系なのに、いつも無気力な態度とオタク趣味が相まって全くモテない。

 本人は気にしていないようだが、お年頃の女子としてそれでいいのか……と思う。


「お前さぁ、高校でもそのオタクキャラ全開で行くのか?」


 丁度際どいイラストが表紙になっているラノベを手に取る彩実菜。

 俺が言うと彼女は口角を若干上げて笑う。


「現在進行形でラノベを手に取ってる上澤うえさわには言われたくない」

「いや、男女の差もあるし。女子高生はオタクに厳しいだろ」

「知らない。興味ない」


 自分のやりたい事だけやって生きていくってか。

 そういうの、いいよな。


 上澤こと俺、上澤文太うえさわぶんたを彩実菜は鼻で笑う。


「私より上澤の方が気にした方がいいんじゃない? 彼女できないよ?」

「うっせぇ」


 人が気にしている事を突いてくるなよ。


 高校と言えばラブコメの舞台だ。

 幼馴染や元カノ、学校一の美少女に隣の席になったあの子。

 出会いは偶然にも俺様都合でやってくるウハウハハーレム。

 そんなものに惹かれるのは15歳男子(彼女いない歴=年齢)にとっては至って健全だろう。

 そう、普通だ!


「俺は年上ヒロインが好きだな」

「聞いてない」

「初心な先輩を堕としていく設定が至高」

「設定とか言ってる時点で実現不可。おつ」

「……落とすじゃなくて、堕とすってのがミソなんだけど。あ、漢字の話ね? 堕落させる方の堕とすが至高って言うか……」

「で?」


 真っ向から全否定してくる彼女の視線は、ラノベのあらすじを追っている。

 もはや俺には興味がないらしい。

 俺はため息を吐く。


「はいはいわかってるよ。身の丈に合った生活をします」

「部活とか入るのを勧めるよ。モテるかも」

「柄じゃねーよ。それに、ああいうのは運動部だからモテるんじゃなくて、モテる奴が運動部なだけだ」

「よくわかってる」


 相変わらず毒気の強い奴だ。

 苦笑しながら俺は手に持っていた本をレジに運ぼうとする。


「それ、買うの?」

「おう」

「上澤って本いっぱいあったよね?」

「ラノベと漫画だけはな」

「仮に一人暮らしするんなら遊びに行くね」


 真顔でそう言ってくる彩実菜。

 俺にできるのは同類のオタク女友達だけだ。

 彼女なんて……それこそ先輩との出会いなんて高校でもありそうにない。


 なんて思っていたのもつかの間。

 丁度レジに向かう途中で母親から来た一件のメッセージを見て俺は思い出した。

 一人の年上女子の存在を。





 ◇


【あとがき】


 新作始めました! よろしくお願いします(╹◡╹)

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 ちなみに本日は夜(23時頃)にもう1話出ます。

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