105話 権限50%
右から水の刃、左から不可視の刃
海を切り裂く轟音と共に、大きな水しぶきが立ち昇る。青い海の水は空気を含み、白く洗浄され、まっさらな空間に影を落とした。
体がきしむほど力を込めて、水面を蹴り上げる。
水しぶきで視界がふさがれた瞬間の出来事だった。
またもや海が割れる、今度は綺麗な断面で……割った。
視界が一瞬で切り替わり、眼前まで綾波に迫る。
綾波は先ほどの俺の攻撃で肩を切られ、まだ俺に気付かない。
「双剣オリジナル戦技」
オリジナル戦技、才あるものがたどり着く技の終極地
それぞれの戦闘スタイル、型、神気の質、それらすべてにおいて使用者本人専用に最適化された一種の答えだ。
当然ソレにたどり着くまでには才能と言う大きな壁がある。
それほどまでに技を作るというのはセンスが必要になってくる。
しかし、そこに唯一、土足で足をねじ込む狂人がいた。
センスもなければ才能もない、たたき上げの戦闘能力に分析能力、鍛え上げた己が肉体、たったそれらで天才に喰いつく凡人の皮をかぶった狂人だ。
「
歪な水の音が鳴り響く
まるで水の中から聞こえる音のよう
一閃にして一万の斬撃
一閃する間に1万回切りつければ強いんじゃね?って思考のもと完成した技
当然それだけではないが、ベースは脳筋である。
反響が反響を呼びこみ、切った個所から崩れ落ち、厄災の再生も、振り向く暇も与えずに、たった少しの隙間から、水がとめどなく流れるように
綾波が崩壊する
当然ソレに気付いた綾波は、まだ浸食されていない箇所を残して自らを消し飛ばす。
『頭が、おかしい』
綾波は俺を見ながらそうつぶやいた
『厄災を飲み込むのは…狂人どころじゃ、ない』
技をくらった瞬間は驚いたような顔をしていたくせに、今ではもういつもの無表情に戻っていた。
俺は手に伝わる感触を確かめながら、風鬼と綾波をにらむ。
「師匠が言ってたんだが…、物事には権限が存在し、何を司るかによって権限は大きく変わる。当然水を司る神は一柱じゃない、だから権限は分散し、別れる」
『それがなに…ッ⁈』
「また、物事には陰と陽があるため、ひとえに権限と言っても陰と陽の権限があり、その比率は1対1の合計100%…権限はより強い権限に統合され、同じ権限どうしのつぶし合いでは権限の争奪戦と言える」
段々と綾波の表情が険しくなり始めた。
「師匠が現世で収めた陽の比率は今俺の比率に統合され、50%…さて問題だ。今俺がお前からかすめ取った陰のモノは何でしょうか?」
『貴様ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛‼』
綾波が初めて感情をさらけ出し、俺に攻撃を仕掛けてくる。
「はっ!やっぱりか!お前ら厄災の役割は、権限の回収‼それをあのヒノカグツチに統合して、弱点属性、いや…火と水の克服が目的なんだろ?」
『……ッ!』
綾波は答えない
「ヒノカグツチは自らの力を制御できずに母親を殺した!そして、それを制御するために自身を殺した対局の属性である水を求めた!そうだろ⁈」
『風鬼、コイツは…ここでヤル』
『チッ、了解』
(つまり正解ってわけな)
両サイドからの攻撃
俺は先に到達するであろう綾波の攻撃をいなしつつ、風鬼の蹴り技を両の刃で受ける。
甲高い音と共に、俺は行くばか後方に弾かれるが、あらかじめ備えていたためそこまでの被害はなかった。
綾波は手を大きく振り、海の波が鋭い刃の壁となって襲い来る。
俺はその攻撃を一蹴し、海を地面かの如く駆け回る。
綾波の能力は増幅
しかし水に関しては権限上修の方が一枚上手だ。
必然的に綾波は己が肉体から生じる現象のみで戦う事となる。
「つまり水は俺の味方なわけだ」
今にも修を飲み込もうとする波は、修を空中に押し上げるように、跳ね上げた。
不自然な加速と共に、俺は弾丸のごとく風鬼に迫り肉薄する。
拳と刃が競り合い、大きな衝撃波を生んだ
すると突然刀身が重くなり、俺は海面にたたきつけられた。
「なッ…!ぐぅ」
『私をあまり舐めない、もう刀身にもあなたにも触れた』
「チートがぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
俺は再び跳躍し綾波に切りかかる
しかし切り裂いた場所は空を切り、綾波はいない
『死ね』
ズゥーンッ‼と爆発を逆再生したような音が鳴り響き、綾波の手が俺の背を押した。
「ガッ‼ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
一瞬という言葉が生ぬるく感じるほどの速さで俺は吹き飛ぶ。
体にかかる重力と慣性が血液を後方に引っ張り、俺の思考は鈍化する。
叩きつけられた海面はコンクリートの地面なのかと思うほど硬く、俺の体をさらに揺らした。
「かっはぁはぁはぁ…」
鼻から垂れる鼻血を拭いながら、俺は海面に立ち上がる
『よそ見をするな小僧』
グラグラと揺れる思考のなか、俺はその声に反応するのが遅れた。
マズイッ!まともに喰らうッ‼
瞬間、世界を割る斬撃
なんとか体をひねって躱そうと試みるも、肩から胸にかけてバッサリと切られた。
あまりにも綺麗な断面だったためか、出血までわずかに間が存在するほどだ。
「だら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
筋肉で無理やり出血を食い止め、その間に四魂を使って治癒
一瞬天国が見えたでまったく…
『ほぉ、避けたか私の切断を』
「お前の能力も相当だな、流れの切断と融合ってとこか」
『ふっ惜しいな、流れの変動だ』
「結局同じだろッ‼バカかテメェ!」
『な⁈バカとはなんだ貴様!私をバカにするとはいい度胸だな!』
「じゃあその腰に差してる刀は何なんだよ一度も使ってないだろ!」
『こ、これは昔サムライとやらがさしていた装飾品だッ!貴様にはこの良さがわかるまい』
「いや武器だから!装飾品じゃねーよバカ!」
『な⁈貴様また私をバカにしたな!』
激昂した風鬼は刀を抜き、俺に襲い来る
『私とて使い方なんぞマソターしているッ‼』
「マスターな!わかんねーなら横文字使うんじゃねー!あと刃が逆だボケ」
「『おおおおおおおお』」
お互い激しくぶつかり合う
鬼なだけあるのか乱暴な斬撃でもそれなりの打撃として成立し、重苦しい衝撃を意味出す。
「こっのバカ力が」
二度三度打ち合っていると、横から竜巻のような風圧が俺を殴りつける
綾波の攻撃だ
「デト●イトスマ●シュかッ!」
半ば興奮ぎみな俺は体にかかる負荷を気にすることもなく、荒い口調で戦闘を続けるのだった。
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