79話 厄災に対抗するモブ
滝の音が頭上に響き、頭と肩には水圧と衝撃がのしかかる。
俺は今、滝の真下で座禅を組んでいた。
なぜこのようなことをしているのかと言えば、修行のためである。師匠からの個別課題はもう一通りこなし、あとは何をしようかと悩んでいたのだ。
師匠からの個別課題では、最大出力での強化状態で体の感覚を慣らし、イメージと実際の動きにずれがないようにひたすら打ち込みとなかなかハードだった。
師匠との戦闘訓練で実感したが、俺はまだまだ弱い。
天音が覚醒したと聞いて、その全力と一度手合わせさせてもらったが、能力を確かめる時の模擬戦が、お遊びに思えるほど強かった。
要するに俺は天音に負けたのだ。
手も足も出なかった。そもそも近づけない、さらに攻撃なんか完璧に見切られ、一度出した攻撃は全く通用しなかったのだ。
そもそも天音の耐久力が半端ない、あの勾玉とかチートだと思う
それでも負けは負けだ、実戦で言い訳は通用しない。
これは由々しき事態である。
地面にひれ伏した俺を見た天音は何を思っただろう。
このままではだめだ!
そう意気込むはいいが、実際どう強くなれというのか…
俺の弱さを一つ一つ上げていこう
1 遠距離に弱い
2 持久力がない
3 そもそも攻撃力がない
1はともかく2と3は肉体の問題だろう。
天音と俺の違いは圧倒的神気量による肉体スペックの差…
2に10をかけるのと100に10をかけるとでは出力に差が出るのだ。
俺は思った。
「やはり筋肉か…」
悩んだ末に出た答え、それは筋肉!
天音になくて俺にある強み、それが筋肉だ
人間の肉体には必ず限界が存在する。ならば一度その境地に立ってみなければならない。限界があるある言っていても俺の肉体はまだまだ限界に達してはいない、そこで天井があると知って落胆しているだけだ。
俺はさっそく四魂を練り上げ、肉体改造を試みた。
動きに支障がないように、密度を上げる、余分なモノは引き絞り、より高密度に…
筋肉の繊維が切れる感覚と、再生する感覚が往来し、鈍い痛みを脳に届ける。
その時だった。
異変がおきたのだ。
メキッとなってはならない音がしたかと思えば、俺の腕がズタズタになっていたのだ。激しい痛みと出血が思考を鈍らせるなか、原因を考える。
原因はすぐにわかった。
骨が折れているのだ、強烈に進化する筋肉の圧力に耐えきれなかった。
「コレが限界地点」
いや、まだだ
骨が耐えられなかったのはそこに視点を向けていなかったからだ。
骨は内臓を守る器官であり、体を支えたり、カルシウムの蓄積から血液の生産まであらゆる役割が存在する。
どうして気づかなかったのか、筋肉をで解決するためにはその土台となる骨も硬く強くしなければならない。
「ははは、もういっそのこと全部変えよう!」
内臓も、骨も、筋肉も
確かに以前強化した、骨や内臓に至るまで全部…
でも足りない、認識が甘かった
四魂で強化した
それだけじゃ足りない、神気を使って戦闘?
同じ土俵じゃ勝てない
ならば、初めから四魂で回路を形成しよう。
「さて、正真正銘肉体改造だ」
四魂を当たり前にするために、俺の体に張り巡らされている回路を改造する。
目を閉じて、体の中に集中する。
回路をゆっくりと四魂で染め上げ、流れる神気を四魂に置き換える。
回路の幅も大きく、今まで通っていなかった骨、筋肉、臓器に至るまで張り巡らせる。
今までチキっていた脳
もう俺は迷わない、何かを得るための犠牲をいとわないことは生きる秘訣だ。
脳が四魂に侵される
嫌な感覚はしなかった、逆に思考がさえわたっている。
でも脳と体の回路は別にするべきだろう、脳への回路は戦闘に特化している。
感情が抑えられそうにない
さっそく体と脳の回路を並列回路に作り直し、脳の回路はいったん封印だ。
しかし改めて見るとすごいことになった。
目を開けて自分の肉体を見れば、そこには完成されし肉体と、その表面を電気回路が張り巡らされたような痕がうっすらと水色に光り輝いている。
体内には常に四魂がせわしなく流れている。
その影響か、傷ついた腕はすっかり治っていた。失った血も多分補充されただろう。
この状態を
こうして俺はルンルンで宿に帰るのだった。
~宿前にて~
「おうバカ弟子、ついに頭がおかしくなったようだな?なんじゃその体…気持ち悪いのぉ」
「気持ち悪いとはなんだエロジジイ!」
「いや普通思いついても実行せんだろ…下手したら死んでおるぞそれ…」
「リスクは十分承知の上だ!あっ!そうだ天音は?もう一回戦いたい!」
「あー、わし今は止めといた方がいいとおもうなぁ…おぬし、それ波長が…」
「いいからどこだよ!」
「へ、部屋におると思うぞ?あと、わしは知らんからな」
「なんだよ早く言えよ…」
師匠の言葉に疑問符を浮かべながら部屋に向かうのだった。
「天音入るぞ」
返事はない、俺はお構いなしに部屋に突入した。
するとそこには、顔を赤くしながら俺をキッと睨みつけている天音がいたのだ。
畳はなぜか濡れており、天音もビショビショだ。
髪は頬に張り付き、玉のような汗をかいたのだろう、Tシャツは天音の肌にべったりと張り付いている。
下半身はもっと凄い、天音がへたり込んでいる所を中心として円形状に水が広がっている。
「えっと、どうしたん?」
「どうしたじゃないよ!今日なにやってたの?急に修君の神気っぽいナニカがわ、わたしの所にくる感覚がして、その、実際は私に流れてるわけじゃないんだけど!と、とにかく波長が変わったせいで私は…うぅぅ、もうお嫁にいけない…」
天音は手で顔を覆いながら波長が変わったせいだ、とつぶやいている。
とりあえず畳の処理をしようとするも、天音は「触らないでぇ!」と必死に止めるもんだから、俺は何もできずに正座させられた。
「俺なんかした?」
「しましたッ!もうそれは盛大に!」
「ご、ごめん」
こういう時は謝るに限る
「ふんッ!簡単に許してあげるわけないでしょ!」
俺はこの後、終始天音の機嫌を直すべく気をつかうはめとなるのだった。
_______________
あとがき
師匠「リンクしているのに回路を改造するからいけないんじゃ」
作者「あっ(察し)」
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