第4話 怪人さんに恋した少女

「やめて!かえして!わたしのおにんぎょうさんかえして‼︎」


私の目の前には自分より二回りも三回りも大きい男の子がいた。


その子は私から人形を取り上げた


どうして?どうしてそんなことするの?

私が何か悪いことしたの?


「へ、こんな不気味な人形なんてこうしてやる‼︎」


この人形は私が唯一買ってもらったお人形さんだ、それ以外はずっと やく とやらの勉強をしている。


お父さんやお母さんは優しくて大好きだけど、わがままをいったら怒ってしまう。


やく のお勉強を頑張ったら

「よくやった」と、褒めてくれるから優しい…はずだ



兎に角、誕生日に唯一わがままを許してもらったお人形さんだ。とても大切な物なのに…


目の前の人は私からお人形を取り上げた。

さらにはお人形さんをボールみたいに投げ始める。



もちろん私は取り返そうと奮闘するも、身長差の壁によって阻まれた。


「おら!気持ち悪いんだよお前もこの人形も!変な髪しやがって」

「この仮面ライダー勇気様が退治してやる!」


男の子が私を突き飛ばす。

まだ小さく軽い私はすぐに地を這うことになった

男の子は転んだ私のお腹を容赦なく踏みつけた

痛いヤダ!

なんで?

この髪がいけないの?私が他の子と違うから?


「うぐッ」


誰も助けてはくれない


あたりを見渡すもお母さんは小山の向こうのベンチにいるため助けを求めるのは不可能…


つまり私は誰の助けもなく、ただただこの理不尽な暴力に痛めつけられ続けるのだ。


それを自覚すると自然に涙が出てくる


(だめ、泣いちゃだめ、お父さんが言っていた。敵を前に恐怖し泣くのは相手を喜ばせるだけ)


私は歯を食いしばり耐え続ける

お腹を踏みつけられるごとに体から息が抜けていく。


それと一緒に水も流れる。

頬を伝うソレは塩水で、少し塩っぱい



口の中は鉄の匂いが充満し、そこをほんの少しの塩水が通るごとに、なんとも言えない悔しさが湧いてくる。





「そこまでだ!ヒーローども!」


不意にそんな声が響く…


「あ?なんだお前!」


「ぼくはかいじん、マジシャンボーイ!きさまらのせいなるちからをさっちしたおし、にきた」


そこには自分を怪人と名乗る少年がいた。


どこか大人の様な優しい雰囲気なのに

子供特有の活気あふれる気配も感じる不思議な少年…


特にその瞳を彩る深い夜の青に私は自然と引き込まれた。


「マジシャンボーイだと?」

「ふっふっふこのきょうだいなちからをみるがいい」



少年はその辺の石を拾ったかと思うと、何やら石を握る手がグニャっとした様な気がした。

次の瞬間、少年は石を高く投げる

その石は一直線に重力に逆らって天に向かう。


最高到達点につくと石はパンっと音を立てて破裂した。



本来石は破裂しない

コレはよわい三歳の私でも理解できる


その一瞬のスキにいつのまにか少年は視界から外れ、男の子の後ろに周り手を押さえていた


「な、いつの間に!」

「これがわたしのまじっく!しゅんかんいどうだ」


「くそッひきょうものめ!」

「そんなこといっていいのかい?」



少年は一度力を抜くと、今度は彼の周りがグニャっと歪みさらに強い力で男の子を突き飛ばした。いや投げ飛ばしたと言えよう。



「ぐわぁ!」


投げ飛ばすといっても一メートルも飛んでいない


「くそ、強いここは必殺技だ」



「必殺!ライダー光線!」

「なに!ぐわぁぁぁぁぁぁ」


少年は男の子のひっさつ?というのをくらって、やられてしまった。



「よし!今だ畳みかけろ」


男の子の掛け声と共に周りの子たちが少年を殴る蹴るし始めた。


「ちょ、まっ」


ボスッドカ…ボスッドカボスッドカ………


少年の静止の言葉も聞かず殴られ続けている。


私は少年を助けようとした

しかし、頭で思っていることに反し、私の体は一切動かない…


まだ三歳の少女の体は傷と恐怖で固まってしまったのだ。


私は少年が殴られるのをずっと物陰に隠れて聞くしか出来ずにいた。


最低…


そんな言葉が私によぎる


母が言っていた

困っている人や助けを求める人は助けなければいけない。

それが家訓であり人としての当たり前。


知っていて助けないのは最低な人間だ


母は私にチカラ(才能)があると言っていたがよくわからない。

私のチカラがなんなのかわからないし現にチカラなんてものがあるのなら、私は人形を取り返せたし、少年は殴られることはなかった。


私はここで無力を知った。

無力がどれほど恐ろしいのかを…



男の子はしばらく少年を殴って

「怪人打ち取ったり!」

と言って満足げに帰っていった



「いつつ、あいつらようしゃなくけりやがって」


そう呟く少年に声をかける。


「あ、あの、だいじょうぶ?かいじんさん」


怯えながらになってしまったが話すことができた


「あぁだいじょうぶだよ、あ、そうだ!はいこれ。きみのでしょ?」


少年が草むらを漁り私に人形を渡してきた。



「…!///」

少年は私を見ると一瞬顔を固まった

何か失礼なことをしたのだろか?

 とりあえずお礼を言う。


「あ、ありがとう。その、いたくない?」

「すげ〜いたい」

「その、ごめんなさいわたしのせいで…」


「いいって、それよりけがない?」


「…ない」

「そっかならいいや」

「………」

「はぁ」


少年は私のの頬をつかむと

(え、な、なに?怒られる?)


「んぇ?」


そのまま頬を上に上げる


「ほら、わらって?きみにくらいかおはにあわない」


「わらえ、つらいとき、かなしいとき、えがおはきみをきっとたすけてくれる。たとえどんなにかなしくてないても、さいごはわらって」



「このセリフ、かあさんのうけうりだけどね」


「……!うん!」


言葉の意味は全てわかったわけじゃない

でも嫌なことは笑って打ち消すことはわかった


私は先程までの負の感情を吹き飛ばすかの様に全力で笑った。


何より私の挙動ひとつで顔を赤くする少年が可愛いかったから…


「かわいい」

「え///」

「あ、いや、いまのはその…こころのこえがもれた」


「プッ…あははは」

「あーわらったな」

「ごめんなさい、でも…つい、おもしろくって」

「そうだ!きみのなまえは?」


そう言えば言ってなかった!


「姫百合 天音だよ」

「そっか、天音ちゃんね!おれは清水 修だよ」

「修君ね、わかった」

「じゃあ一緒に遊ぼ!」

「うん!いいよ!」



それから私たちは夕方まで遊んだ。

修君は私のおままごとやかくれんぼ、お医者さんごっこに付き合ってくれた。




「バイバイまたこんど遊ぼうね」

「うんバイバイ」


「天音、随分清水さんと仲がいいのね。」

「うん、修君は私の友達!」

「ふふ、コレは我が神社ともども安泰ね!いい?修君に何かあったら天音が助けるのよ?」




私はまだこの言葉の意味がわからなかった



〜家にて〜



(修君…私の友達…)

私は修君のことを考えながら布団に転がる

(修君のこと考えるとポカポカする。)


彼女の下腹部が疼く

可能性の種が、恋が人知れず宿る

今はまだ親の好きと異性の好きの区別すらしらない。


彼女自身も自覚していない好意

しかしそれは着実に彼女の神気を成長させる。


絶望の未来を変えうる可能性

愛はまた、生命の象徴

恋の病は神気を大きく成長させる。

原作とのズレが

早いか遅いかの違い

しかしそのズレにある時間において

その種を育てているか否かで彼女の神気量を大きく分つことになった。


ここに1人の少女がいる。

彼女は小さな怪人さんに助けられ、恋をする

まだ自覚できていない恋

それでも確実に彼女の中に存在する恋


それは、まだ発芽すらしていない可能性の種

それが大きく開花するのはまだ先の話

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