トイレの花子さんとゲーム
俺と結名は学校の七不思議探検を真昼間に行っています。高校生にもなって。
「はい、女子トイレにやってまいりました!!」
「結名はなぜそんなにテンション高いんだ?」
「女子トイレに入る大和様が面白いことになりそうなので」
その発言だけでもう入りたくないわ。でも行くしかないんだろうな。穏便に済ませよう。
「もっとこう変態っぽさをお願いします」
「誰が変態だ!?」
学校そのものが尋常じゃなく豪華である。だから女子トイレも金持ち感満載だ。高級だし清潔でしかも広い。
「個室が多いだけで男子トイレとほぼ変わらんな」
「意外ですか?」
「ああ、全然作りからして違うんだと思っていた」
「女子トイレに詳しくなりましたね。女子トイレ博士までもう少しですよ」
「なんか今回めっちゃ辛辣ですよね?」
絶対に俺を変態にしてやろうという暗黒の意思を感じる。
「ではルール説明です。オーディションで選ばれた花子さんが個室の中に隠れています。好きな個室を開けていってください」
「開けてどうするんだよ?」
「お持ち帰りできます」
「いらんわ!! それもう取り憑かれてるだろ!」
トイレの花子さんなのに家にいてどうするのさ。邪魔だし怖いわ。
「さあさあ、女子トイレの個室をドキドキしながらそーっと開けてください」
「うわあド変態みたいだな俺」
どの個室からも気配は感じない。本当に誰かいるのか?
「どの個室からいきます?」
「えーじゃあ左の奥から二番目」
個室は左右に五個で合計十個。中央の通路は五メートル。ゆっくり選ぶと終わらない。覚悟決めて開けていこう。
「直感ですか?」
「まあな。普通に開けていいのか?」
「どうぞどうぞ。あ、身の危険を感じたら急所は守ってくださいね」
「どういうこと!?」
扉に手がかかっていたため、ツッコミの勢いで開けてしまった。恐る恐る中を見ると……。
「いらっしゃいませ大和様。花子と申します」
「はい大当たりー!! 和服美人の花子さんです!!」
たけの短い和服におかっぱ頭で中学生くらいの女の子だ。かわいい。
「おおあーたーりー!!」
「結名うるさい!!」
福引で当たりが出た時に鳴らすガランガランいうやつを振り回す結名。めっちゃうるさい。
「新人ですが精一杯頑張りますね」
どうやら花子さんは新人らしい。意味がわからないけれど、長くなりそうだから聞かないでおく。
「俺はどうすれば?」
「ここからナビゲーターとして、わたしも一緒にいます」
「和服美人がナビゲートですよ大和様!」
「つまり結名と被っているわけだ」
完全にキャラ被りだよ。黒髪ロング巫女という個性をぶん投げていくスタイル。
「よし、じゃあ結名と交代。こっからは花子さんに頼む」
「ええええぇぇぇ!? 私いらない子ですか!?」
「女子トイレでのイベントが終わるまでだよ。正直疲れた。静かな人にメンバー交代。ごめんな、よろしく頼む」
「わたし頑張ります。ゆっくりしていってくださいね!」
いや女子トイレでゆっくりするのも違う気がするけどな。
「えぇぇ……私もサポートしますよ?」
「したいならそのガラガラうるさいやつ鳴らすの禁止。あとお前も個室選べ」
「はーい……じゃあ大和様から次の個室選んでください」
「大当たり引いたのに続けるんだな」
「そりゃこのままじゃ面白くないですから」
仕方がないので入り口に近い個室を選ぶ。ここなら何かあっても逃げられるだろう。こういう考え方ができるようになりたくなかったぜ。
「はいガチャっと」
軽い気持ちで開けた俺の頭にでっかいタライが落ちてきた。
「おあぁ!? いったいなおい!! クソ痛いぞ!!」
「はいハズレー」
「どんまいです大和様」
「いやなんでタライ? どうやって設置した? 個室よりでかいぞ」
「そんなもの空間をいじっちゃえばいいだけですよ」
そんなポンポンいじっていいものじゃねえだろ。気づくとタライが消えている。これ怪談にカウントしてもいいんじゃね。
「お前ハズレとか入れんなよ。普通の人間なんだぞ」
「超魔の実で一般人より強い体になってますよ?」
いつの間にか俺は一般人じゃなくなりそうだ。
「まあいい、結名も開けろ。俺だけやらせるとか納得いかん」
「はーい。それじゃあここで。はい当たりの花子さんがどー…………ん?」
「はい、結名さんケツキックです」
花子さんの無慈悲な宣言で二メートルを超えるオッサンが、結名のケツにばちこーんとキックを入れて去っていく。
「あだああぁぁぁ!? なんで? なんでですか!? 事前に位置は確認したのに!」
「ずるはいけません。結名さんには内緒で位置を変えておきました」
「いい仕事だ花子さん。結名よ、俺にだけハズレ引かせようってか?」
「あははは……じゃ、女子トイレはもうおしまいってことで次に行きましょうか」
「いいや続行だ。このまま終われるか」
こうなりゃ結名により多くハズレ引かせてやる。
「さて、どこを選ぶかな……」
「でしたらこちらの個室はいかがです?」
花子さんが助言をくれる。さて、素直に従っていいものか。
結名に加担しているわけじゃないだろう。だがこの子も俺を騙そうとしているかもしれない。
「あっずるいですよ! 教えるのずるいです!」
「ナビゲーターですから」
結名の抗議は笑顔で流された。ふむ、一回くらい従ってみるか。
「んじゃオープン」
開けてみると、そこには銀色のボディに真っ赤な目の何かがいた。
目がライトのようにチカチカ光っている。
「ハジメマシテ……ハナコ、デス」
「ロボ出てきた!?」
「未来の技術で作られたロボ花子さんです」
「幽霊じゃねえだろ!!」
「ロボの幽霊かもしれませんよ?」
「相反するもんだろ!? その二つは同時に使えねえんだよ!」
ロボの霊ってなんだよ。機械に霊体とか存在していいわけねえだろ。
「さ、次は結名さんですよ」
「結名、トビラ、アケル」
完全にカタコトだよロボ花子。途中で壊れたりしないだろうな。
「ちゃっちゃと罰ゲーム受けろ」
「ふっふっふ、甘いですよ大和様。さっき和服花子さんは位置を変えたと言っていましたね? つまり! 花子さんがいるはずの場所は基本的に罰ゲーム! それ以外に花子さんがいる可能性大!」
「う~わこいつ知恵使いやがった。それずるいだろ」
「結名、セコイ」
「どれだけ必死なんですかね……」
まず結名のドヤ顔がめっちゃうざい。絶対にケツキック以上の罰を受けて欲しいわ。俺達の願いが一つになっていくのを感じる。
「花子さんは五人。つまりあと三人で個室は六個。二分の一ですね。結名さんなら外してくれると信じていますね」
「はずせ。はずしまくれ」
「ハズセ、ハズセ」
「はい花子さんがどー…………ん?」
結名の動きが止まる。人の気配がしないし、タライが落ちてくる気配も無い。
「なんだ? あたりか?」
結名がそのまま個室に入っていく。ぱたんと個室が閉じられ、なんかしゅるしゅる音がする。
「なんだ? なにやってんだ?」
「えぇ……これだけ? これどうやって着るんですか?」
結名が小声で呟いている。きる? 切る? 着る? なにやってんだ?
「よかったですね大和様」
「なにが?」
和服花子さんに笑顔で言われる。俺に何か得があるってこと?
「ガッコウノ、カイダン、キョウフ」
ロボがなんか怖いこと言っている。これ罰ゲーム死ぬやつ混じってんのかも。
「あの……着替え終わりましたけど……本当にこれで出るんですか?」
「もちろんです」
「ハヤク、シロ」
個室から顔だけ出していた結名が、渋々といった感じで出てくる。
なんで顔真っ赤なんだろうと思っていたが、すぐに疑問は解消された。
「はい、結名さんエロビキニー!!」
めっちゃ露出度高い水着に着替えた結名が現れた。
「どうですか大和様。結名さんの巨乳がより強調されて完全にアウトですね」
「コメント求められても困るわ……っていうかさ」
「ナンダ?」
「あれって俺が引いてたらどうしたんだ?」
「もちろん大和様が着るんですよ」
「ありがとう結名!! 本当にありがとう!!」
かなりきわどい水着だけど、それも巨乳もどうでもよくなるくらい嬉しかった。
俺が着ることにならなくてよかった。本当に。
「ううぅ……なんで私がこんなめに……もう少しで大和様の下の大和様がはみ出るというサービスショットが見られたのに」
「結名、ヤクタタズ」
そんなもん見てなんになる。男の裸なんか見たいのかね。
女って男の裸とか嫌うイメージがあるな。いやこいつらが特殊なのか。
「ええいもうヤケです! 次を選んでください大和様!!」
「ハナコ、トウシ、アイ」
ロボ花子の目から壁を透視する光が放たれる。
「あっ、それずるいです! ずるいですよ!!」
「がちゃっとな」
女の子がいる個室を選ぶ。サンキューロボ花子。流石未来の技術は一味違うぜ。
「始めまして、花子です。お近づきの印にお茶をどうぞ」
おかっぱの中学生くらいの女の子は、自分の右腕を取り外し、電気ポットみたいなもんを装着してお茶を出す。あっつあつのお茶が入った湯のみを渡されたけどこれは。
「はいサイボーグ花子さん大当たりー!!」
「だからさあぁ!! ロボとかサイボーグとかやめろや!!」
「超未来の技術で作られた花子さんですよ」
「だ・か・ら! 未来の技術と怪談は真逆なんだよ!!」
「ええい次です次! 私が花子さんを引けば大和様が罰ゲームです」
結名がやる気を出している。そんな水着で動くとはみ出るぞ。つつしみを持ちなさい。巫女さんでしょ。
「ここだああぁぁ!」
「どうも花子です」
「いやったあああぁぁぁ!! 当たりですよ!! 私、当たりましたあああ!!」
結名が超うるさい。ガッツポーズとドヤ顔がうざい。
「ごく普通の小学生だな」
「バーチャル映像の花子さんです」
結名が手を握ろうとしてすり抜けている。よく見ると画質があらい。
「なんなん? 今日は未来のテクノロジー見学に呼ばれたのか?」
「七不思議探索ですよ」
「七個で終わんねえだろこの学園」
「それが七不思議のひとつです」
「ただの蛇足だ!?」
俺はなぜこんな茶番につき合わされているのだろう。
「もういい、花子さんをナビゲートしてくれ。どこにいる?」
「ナビは一花子さんにつき一回です」
「つまり私は罰ゲーム回避!」
まずい。ここで当てないと結名に花子さん取られて罰ゲームしか残らない。
「だが甘いぜ。超魔の実を食わせたのが運の尽きよ! 俺の運も十倍になっているはずだ!」
「あ……しまった! ずるいです!」
「ここぞという時に外さないのが運のよさ! さあ、この茶番をこの一回で完璧に終わらせてくれるわ!」
勢いよく開けた個室には……誰もいない。なんか小さいスイッチみたいなものが便器の蓋の上に置かれている。
「ハヤク、オシテ」
「えぇ……うわあ押したくない……ちょっともうマジで……?」
「押しましょう大和様! 私がここで見ててあげますから!」
結名の笑顔が鼻につく。あいつこんな時に今日一番の笑顔見せやがって。凄くうざいです。
「ええい押せばいいんだろ! おりゃああぁぁ!!」
ぽちっと押したがタライも落ちてこないし……なんだろうと思っているとロボ花子が光り始めた。
「お疲れさまでした。それは全花子さんの自爆ボタンです」
「やべえもん押した!?」
俺の驚きと同時に女子トイレが爆発し、花子さんは星になった。現実的に言うと修理に出された。
「学校の七不思議は不思議のままが一番だな」
奇跡的に無傷であった俺はしみじみそう思った。なんでもスイッチのある個室だけは特殊結界の中であり、入っていれば無事なんだと。
「私……今回罰ゲーム受けただけですよ……」
結名よ、お前は自業自得だ。アフロになった結名を見て、しばらく変なことに首突っ込むのはやめようと誓いました。
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