ごく普通の放課後のはずだった
戦国時代でロボット乗って次の日。普通に授業受けて放課後になった。
初日から激動過ぎたので、まず学園生活に慣れてもらいたいとのこと。
「夜までに寮に帰ればいいんだよな?」
温泉旅館と天守閣で寝泊まりしたから、今日はちゃんと自宅で寝よう。
「ですね。放課後ですし寄り道とかします? タピオカとクレープでもキメますか? スイーツガンギマリでいきます?」
「キメるって言うな人聞き悪いから」
ボキャブラリーがおかしい。だが放課後に買い食いとかしたいんだなという意志を感じた。よって乗ってやろう。
「はいはい、好きな場所に行っていいぞ。娯楽体験だ」
「ほほう、そういう気配りとかできるんですね。好感度が上がりますよ」
「うるさいよ。行くならさっさとしろ」
そして見知らぬ街を歩く。やはり都会なのだが、人混みがきついほどじゃない。施設は全部揃っているみたいだし、時間を潰す手段はいっぱいあるだろう。
「しまった、女がどこで遊ぶのか知らん」
「私も男の子の遊びがわかりません」
いきなり壁にぶち当たる。女って普段どこでなにやってんの? ゲーセン……違う気がする。映画は二時間かかるし、何やってるか知らん。喫茶店? いきなり行くのも違う気がするぞ。なんか無難な場所ないのか?
「やっぱりタピオカキメときましょうよ」
「キメてみよう」
キメることにした。近くに評判の店があるとかで、結名に案内される。
外観からおしゃれな雰囲気満載だが、男の客もいるようで安心した。
「さあ行きましょう。なぜか二人でのんびりできそうな店内スペースが不自然に空いていますが、絶対に気にしないでいきましょうね」
「不穏な物言いだが気にしないことにする。行くぞ」
まあ息のかかった店なのだろう。あっ、奥にスーツ着たジェイクがいる。同僚っぽい人もいるし、護衛任務かな。とりあえず気づかないふりしておくのが礼儀だと思ったので、しれっと列に並ぶ。
「いらっしゃいませ! タピオカミルクティーですね?」
「まだ何も言ってませんけど!?」
「タピオカの量、キメ、キメキメ、ガンギマリとございますが」
「SMLみたいに言ってますけども!?」
「ガンギマリグランデ行きましょう」
めっちゃ輝いた瞳で変なもん注文しようとしている結名を止めよう。
「無駄なチャレンジ精神を出すな。普通でいいんだよ。トールで」
「かしこまりました。ご一緒にシェフの気まぐれケーキはいかがですか?」
「気まぐれってサラダ以外で初めて聞いたな」
「今だけ特別キャンペーンで呼ばれた、世界パティシエコンクール1位がおりますのでおすすめですよ」
「特別に……?」
ふと店に飾ってあるシェフの写真が目に入った。今作ってる人と全然顔違うなあ。完全にこのために呼ばれてるなあ。うむ、気にしてはいけない。シェフの人なんかすみません。
「じゃあお願いします」
「はい喜んでー!」
「スイーツ屋の返事じゃないな」
不自然に空いているスペースへ行って待つ。奥でシェフが腕にアンプルを注入しているのが見えた。
「おいシェフガンギマリだぞ!?」
「あれは合法ステータスアップアイテムです」
「合法なの!? あれ何の意味があんだよ!」
「ATKが30%アップします」
「必要ねえだろ!?」
超高速でクリームを泡立てているのが見える。最早腕が見えない。
「ああやって使います」
「ちゃんと使ってる!? いや普通にやればいいじゃん!」
「お菓子作りは想像よりずっと重労働ですよ。女の子が好きな人に作るのとはわけが違います」
「それは聞いたことがあるけどもさ」
パティシエというのは、お菓子を毎日何十個も何百個も作る。超重労働だ。様々な器具が発明された現代でも、かなり過酷だろう。俺はどうしてこんな事を考えているんだろう。
「くっ、アンプルの副作用が……」
「副作用あんの!?」
シェフの体が発光している。明らかにやばい。
「光ってる光ってる! あれやばいだろ!?」
「いけない、メチャンコピッカピカ星人とのハーフであることが裏目に!」
「マジでいたんだ!? めっちゃ光ってるって!」
「負けるものか……必ずお客様においしいスイーツをお届けするんだあああぁぁ!!」
「精神力で発光を制御してお菓子作りを……なんという信念と覚悟!!」
「生き様かっこいいな!?」
そして見事なケーキとタピオカミルクティーが届けられた。
「すげえうまい」
「おいしいですね!」
味はいいのだ。発光する宇宙人の作ったものだけど、変なものは入っていない。そしてとても上品な味がする。俺が食っていた安物の菓子とは違う。
「こういう店は初めてだけど、悪くないな」
「男の人は来る機会がないかもしれませんね」
「結名のおかげだよ。一生入らない店だからな。こんなにうまいもんが食えなかったかもしれない」
「大げさですねえ」
それがそうでもないのだ。こういう店は男同士で入るには勇気がいる。特別甘いものが好きでもない限り、きっと入らずに人生を終えているだろう。
「結名は立派にやっているということだな。うまいぞこれ」
「ほらほら、ただ食べて帰るのもあれですよ。異世界行くんですから、プランとか立てましょうよ」
気取った店でする話題としては、間違いなく選択ミスだな。まあ色んな意味で死活問題なわけだが。
「おしゃれな店でやることかよ。具体的にどうすんだ? チートとかもらえる?」
「難しいですね。大和様あんまり強化しちゃうと、制御出来ないかもしれませんし……一応ギフトありますから見てみます?」
「ギフトとチートはどう違うんだよ?」
「一万円分でカタログから好きなチートが選べます」
「ギフトってそっち!? ギフト券!?」
「無難なプレゼントとして鉄板ですよ」
「無難ってなんだっけな」
チートカタログを渡された。これ誰がどういう目的で作ったんだよ。そしていつ使っているんだ。
「これとかどうです? かわいくて強いナビゲーターの女の子が一緒っていうの」
「選ぶとお前クビになるぞ」
自分のポジションを理解しろ。立ち位置被っちゃうだろ。
「それは想定外ですね」
「この子選んだほうがいい気がしてきた」
「ダメです。捨てないでください。頑張りますので」
「こういう場所で捨てるとか言うなや」
真剣な目をするな。捨てられた子犬かお前は。情緒どうなってんだよ。
「大丈夫ですよ。お客さん全員こちら側ですから」
「逆に全部聞かれてるってことじゃね?」
「そうですが?」
俺はこの意味わからん世界のスピードについていけそうもない。
「私がいればチートとかいらなくないですか?」
「大きく出たな」
自信たっぷりの理由がわからん。結名が強いのはわかる。料理もうまい。だが俺が弱いんだぞ。根本的な解決じゃない。
「強くて可愛くて家事のできるお世話係ですよ。最強じゃないですか」
「最強かもしれんけどさ、俺が最弱のままじゃんか」
「そりゃ大和様は神格も妖気も魔力も特殊能力もないへっぽこ男子ですけど……今までどうやって生きてきたんです?」
「普通の男子ってそういうもんだよ」
やっぱり住む世界が違うな。こいつの日常では全員能力持ちなのだろう。逆に珍しいものを見るような目で見てくる。
「組織に入るときアピールできないじゃないですか。学生時代から霊力が高く、資格もあるので基本的なことはできますとか言わないと」
「そんなPCで表計算できます的な感じなの?」
「すみませんPC詳しくなくてわかんないです」
「俺もそうだよ。持ってるけど仕組みとか仕事に使うあれこれとか知らんし」
「じゃあなんにもできないんですね」
「言い方考えろって。スイーツ店で泣くぞ。いい歳した男子が泣くぞ」
ちょいちょい棘があるのは素なのだろうか。こいつの生態がよくわからないので、今後も注意深く観察しよう。守ってくれていることは確かなのだから。
「泣くなら胸を貸すぜ、相棒」
「どこで覚えたそれ」
「大和様の読んでいた漫画からです。本棚にあったやつを借りました」
別に見られて困る本もないし、共通の話題ができるのはいいことだ。女との話題などわからないし、歩み寄ってくれるのは助かる。
「そうか同居しているんだから、そういうこともあるよな」
「電子書籍はプライバシー的にやばいと思ったので手つかずです」
「ナイスだ」
いきなりPC見られるのは少しためらう。モラルとかあるのね。いや検閲されている可能性大だけど。それでも気持ちの問題だよ。
「何事もなく生活できそうでよかったよ。こうしてのんびりやれるといいよな」
「甘いですね。このケーキのように甘くておいしいです」
「おいしいのかよ」
「うまいこと言おうとして失敗しました」
「せんでいいせんでいい。口周りを拭け」
口元にクリームつけやがって。ベタすぎるだろお前。変なところで子供っぽいんだな。照れくさそうに口を拭いている結名を見てそう思う。
「こうしてたまにはスイーツめぐりしましょう。私がいれば入れるのですから、親交を深めていくのです! 仲直り!」
「仲直りは違うだろ。けど遊びに行くのは賛成だ。豪勢じゃなくてもいいから、人気のものとか食べに行こうぜ」
これは素直に面白そう。なんだかんだでマンガ肉もうまかったし、どうせなら現地の料理とか食べ歩きしよう。そのくらいの楽しみは欲しいよな。
「じゃあ宇宙行きましょう宇宙」
「地球で頼めるかね?」
「しょうがないですねえ……」
こうして放課後は少し華やかになった。これからも二人で色々なものを見ていこう。きっと楽しいはずだから。
「うおおおおぉぉ! アンプルの副作用がああぁぁ!!」
「シェフが! シェフがあぁ!!」
シェフは見なかったことにしておこう。
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