剣と魔法の世界で体育

 放課後にケーキ食って翌日。お昼前のことである。


「今日の体育は剣と魔法の世界でやります!」


「うわあ剣と魔法の世界だあ」


「雑な感想ですね」


「そら急すぎるからな」


 なんとも西洋風の街並みである。レンガや木組みで整備された綺麗な街は美しく、異国情緒あふれるいい場所だ。


「ようこそ大和様! 武器は装備しないと効果がありませんよ!」


「ゲームでよく聞くやつ!」


 街の広場で住人の皆さんが出迎えてくれた。大歓迎ムードなんだけど、これ体育の授業じゃないのか。


「では装備を整えてください。各自の判断力を育みます。はいスタート!」


 そういうことか。さて土地勘ないけどマップとかあるかな。


「行きますよ大和様。まずは最適な職業を知りましょう」


「どうやってだよ? 学生じゃなくて剣士とか魔法使いとかだよな?」


「不思議な職業鑑定士によって、おすすめのジョブがわかります」


「いいじゃん。お約束の楽しいやつだろ」


「まあ異世界ものであるやつですね」


 異世界で冒険者ギルドとか生まれた時とかに鑑定されるやつだな。

 こういうのは水晶玉やカードなど判別法も含めていっぱいある。まあ一度くらい経験したいよね。


「ここです。職業占い屋です」


「いらっしゃいませ大和様。占い屋のウラナ・パトリオットです」


「温泉旅館にいましたよね?」


 完全に女将だ。温泉で見かけた女将が、占い屋の格好で座っている。


「双子の姉妹とでも思ってください」


「世界違いますけど!?」


「世の中には似た人が三人はいると言いますからね」


「その世の中が別なんですって!!」


 異世界に双子とかいないんですよ女将さんや。いや女将じゃないのか。本当に似ているだけなのか。なんだこの世界観は。

 そしてウラナさんは大きな板に宝石が散りばめられた何かを取り出してきた。中央には大きな水晶玉がはめ込まれている。


「まずこの宝石盤に触れてください。これであなたの適性を調べます」


「では私からいきます!」


 結名がうきうきしながら触れている。お前こういうタイミングではしゃぐんかい。

 手を乗せた水晶から、色とりどりの宝石へと光が伸びていく。その長さや輝きが違うけれど、これが占いなのかな。


「巫女ですね。知力やMPが高く……体力も高く……HPがかなり高いですね」


「お前肉体派だったのか」


「違います清純派美少女巫女です」


「図々しい!?」


「肉体派って男だと筋肉ムキムキなイメージですけど、女の子だといやらしく聞こえますね」


「知るかボケ!!」


 結名の感覚を理解してはいけない気がする。というか美少女って自覚はあるのか。あって奇行に走っている理由が知りたい。マイナスイメージつくだろ。


「さあ運命のジョブ診断タイムですよ大和様! どんなしょぼくれジョブでも慰めてあげますからね!」


「しょぼいの確定!? いや普通の高校生だしそうか……? てい!」


 覚悟を決めて水晶玉に触れる。光が伸びるが、その長さも輝きも結名とくらべてだいぶしょぼい。


「わかっちゃいたが結名以下だな」


「まず私が凄いんですよ。小さい頃から修業の日々でしたし」


 こういう形ではっきりスペックの高さを認識させられると、こいつも人外枠だなあとか思うのだ。


「不思議ですね。占い歴長いんですが、大和様の不思議な力は原因がわかりません。とりあえず魔力依存ではないようです。MP低いのですが、なにか呪いでも?」


「普通の高校生はMPとかないです」


「TPやLPなどで表現するタイプですか?」


「俺に不思議なパワーはないんですよ」


「今一番不思議でホットな存在ですよ?」


「うわー認めたくねえー」


 ここで本来の目的を思い出す。そうだ職業適性どこいったんだよ。


「結局俺に合う職業は何なんですか?」


「それは学校生活の中で、ご自身の希望やご両親と相談して決めてください」


「結名、こいつがふざけない程度に倒せ」


「了解です!」


 結名の巫女パワーが膨れ上がる。次にギャグかましたらツッコミ入れてもらおう。


「ちょっとした戯れなのに!」


「客と戯れんな」


「わかりましたよ。HPや筋力体力が一般人より少し高いですね。オーソドックスに剣士とかから始めてみてはいかが?」


「適正っていうか占いみたいですね」


 まあ普通だな。俺自信に特殊能力はあっても、それが全ステータス高いことには繋がっていないっぽい。ますます謎の力なんだけど……これでいいのかね。


「ラッキーカラーは白」


「完全に占いですねえ」


「ラッキースポットは自宅」


「自宅は別世界だぞ」


「ラッキー巫女は私」


「勝手に決めんな」


 結名が乗っちゃうと誰もツッコミとフォローしてくれなくなるだろ。


「じゃあなんですか! 私以上のラッキー巫女に心当たりでもあるんですか!」


「まずラッキー巫女の説明をしろ」


「いないなら私でいいじゃないですか!」


「ああもう、わかったから。お前でいいからさっさと次に行くぞ」


 急に駄々っ子になるんじゃない。本人的にはこだわりポイントなのだろうか。こいつの習性を掴みきれていないんだな。


「じゃあちゃんと言葉にしてください」


「何を?」


「俺のラッキー巫女は結名だよって」


「くたばれ」


「くたばれはひどいくないですか!?」


「男子高校生には死に等しいほど恥ずかしいセリフだぞ」


 絶対に言いたくねえ。本当にくさいセリフは死をも超えた辛さがある。断固として拒否しなければならない。


「今日のラッキーワードは『俺のラッキー巫女は結名だけだよ』です」


「乗るな占い師!!」


「ほら占いで出てますから!」


「いいから行くぞ!」


 なんとか尊厳を守って武器屋へとたどり着いた。異世界の武器で子供心を取り戻し、さっきのトラブルで疲れた心に潤いを与えるのだ。


「いらっしゃい! 武器は装備しないと意味がないぜ!」


「最初に聞いたセリフだ!」


「ゲームでよくあるセリフですよね」


 武器屋さんは普通の男の人だ。少し安心してしまうのはなぜだろう。


「はい、今回のためにみんなで名作RPGをやり込みました!」


「何やってんの!?」


「その経験を活かして、今度そちらで開かれるRTA大会に出ます」


「マジで何やってんの!?」


「ご心配なく。二回目ともなると慣れたもんですよ」


「一回出たんだ!?」


 文化や生態系に影響が出ないか不安である。ここまで混ざっているともう俺では判断つかないので、あまり考えないほうがいいのかもしれない。


「生配信されるので、興味があったら見てみてください」


「異世界であることを意識して発言してください。ゲームの話はいいんで、俺達は武器を買いに来たんです」


「なるほど、ではこちらの銅の剣がおすすめですよ」


 普通の剣が出てきた。長すぎず太すぎず。初心者向けっぽいな。


「序盤の武器ですね。じゃあそれください」


「かしこまりました。ご一緒に聖なる破邪の剣はいかがですか?」


「持て余すわ。すげえ武器出てきましたね」


「ATKが8000上がります」


「やけくそみたいに上がりますね!?」


「聖なる森の奥深く、選ばれた勇者しか入れない祭壇に刺さっている剣ですよ」


「抜いてきちゃダメじゃないですかね!? 最初の武器にしては強すぎるでしょ!」


 これ誰がどうやって抜いてきたんだよ。でもってなんで武器屋にあるんだよ。まさか俺がここに来るから抜かれたのか。聖剣さんごめんなさい。


「序盤に手に入っていいんですか?」


「最近のファンタジーってそういうものでは?」


「ファンタジーでも、ゲーム系となろう系は似て非なるものなんですよ」


「俺だけ最初の武器屋でチートな聖剣が手に入った件ですね!」


「変なタイトルをつけるな!」


 結名よ、その偏った知識はどういうことなんだい。そこはかとなく不安にさせてくれるじゃないか。


「ふっふっふ、ですがこれは秘宝。簡単には渡せませんぜ」


「そりゃそうでしょ」


「そうですなあ……最近食事に飽きてきましてな。何か美味しく食べられる調味料でもあればいいんですが……探してきてくれたらお渡ししましょう」


 また急に話が飛んだな。これもゲーム的な進行なんだろうか。俺の接待のために言ってくれているのなら、おそらく無難にこなせる範囲の頼みだろう。


「おつかいイベントっぽいな」


「雰囲気出ますよね。さあ知識チートの出番ですよ大和様」


「急に変なネタフリやめろや」


「作りましょうマヨネーズ」


「なんでマヨ?」


 結名の行動には意味がある。だが常人には理解できないだけだ。おそらく俺が悪いのだろう。だって俺だけ一般人だからね。


「異世界で主人公が作る定番じゃないですか」


「知らんぞ。別にマヨネーズ好きでもないし、万人受けするもんか?」


「好き嫌いとビジネスチャンスは切り離して考えてください」


「高校生男子に言うセリフじゃねえ。材料集めてくる感じ? 採集クエ?」


「いえ、お店に材料は全部あります」


「あんの!? もう材料あんじゃん! じゃあ作れよ! 俺いらねえだろ!?」


 テーブルにきっちり材料と調理器具が完備されている。あとは混ぜるだけだ。


「マヨ……ネーズ?」


「ほらご主人が知らないフリしてくれてますよ!」


「しなくていいだろ! これもう混ぜるだけじゃん!」


「マ……ゼル……?」


「そこはわかるだろ!!」


 仕方がないのでマヨネーズを作って渡す。異世界で巫女とマヨネーズを作る。異世界者の主人公ってこういう知識豊富だよなあ。マヨはまだ家庭科の時間とかにやるけど、妙に知識が偏っていたりもするし。それも主人公の素質なのかな。


「はいできました! これがマヨネーズです!」


「これがマヨネーズ! 素晴らしい! まさに新鮮! 斬新! なんて凄いんだ!」


 オーバーリアクションだ。武器屋じゃなくて役者だろこの人。


「どうぞ、これがお礼の破邪の聖剣と、付け合せのタルタルソースです」


「タルタルあんならマヨネーズ作れるだろ!!」


「家庭科の授業みたいですね」


「今体育だよね…………まだ体育始まってねえ!?」


 全然話が進まないまま異世界漫遊記は続く。

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