今日の体育はゴブリン討伐です

 剣と魔法の世界で銅の剣と破邪の聖剣をもらった。


「さあ狩りに行きますよ!」


 クラスメイトが町の入口に集合していた。


「大和様、これってクラス転移っていうジャンルのやつじゃないですか?」


「お前本当に詳しいな」


「クラスメイトと異世界転移ですよ!」


「むしろこっちの世界が似合うやつ多くね?」


 周囲に人魂とか羽生えた人間やらHP表示のあるMMOキャラがいるのだ。こいつらにこっちが故郷と言われれば信じるぞ。


「大和は二刀流か。さては気に入ったな?」


 話しかけてきたのは薄紫の髪と青い目をした剣士だった。いかにもなイケメンで、剣も鎧とマントも似合っている。


「なんか二本もらっただけさ。慣れていなくて困っているくらいだよ」


「オレはライト。こういう世界で勇者やってたから任せてくれ」


 サムズアップがとても似合う。漫画やゲームの主人公だなあ。


「そいつはありがたい。ぜひ頼むよ」


「よし、じゃあ出発前にセーブしておこうか」


「ゲームじゃないんだぞ」


「街の前に輝くクリスタルがあるだろう? あれに触れるとセーブできるよ」


「できるのか……」


 なんか浮いているでっかいクリスタルがある。セーブってゲーム世界のシステムじゃないのだろうか。


「ふっかつのじゅもん形式にもできるけど」


「覚えらんねえからやだ。正直仕組みがわからなくて怖いぞこれ」


「それは持ち主の記憶から時間と歴史を保存して巻き戻すタイプですね」


「なぜ結名がわかるのだ」


「お世話係ですから」


 便利なワードを手に入れたな結名よ。では気にせずセーブして森へ。


「はーい列を乱さずに歩いてくださいねー」


 こういうとこだけ学校の授業っぽい。武器を持ってぞろぞろ歩くのはコスプレパーティーか不審者の集団だなあ。


「ストレッチは終わりましたね。ではこのあたりに出てくる魔物を狩ります。魔物は瘴気を集めて形を作るため、数を減らして場所を浄化していくことが重要です」


「なるほど、異世界も大変だな」


 普通に自然が綺麗で和むんだが、こういう場所が荒らされるのなら守ってみたい。少しやる気が出てきたぜ。


「出ました、ゴブリンです!」


 小さくて緑色で混紡持っている、いかにもな連中がいる。


「ちっ、見つかったゴブ。野郎ども! ここで潰すゴブ!」


「語尾が安直だぞ」


「ゴブリンは小賢しく悪知恵が働きます。集団で叩いてくるので気をつけて」


「どんな芸能人でも難癖つけて叩いてやるゴブ」


「叩くってネットで!?」


「訴えられても知らんぞ」


「たとえそうでも世界が違うから裁判なんてかけられないゴブ」


「小賢しく悪知恵が働いている!?」


 こいつは処分しなければいけない。みんなの気持ちが一つになった。


「お前たちはこの世のものじゃない。消えなければいけないんだ!」


 それはそうなんだが、人魂が言うと微妙な気持ちになるよね。


「オレに勇気と正義の力を! シャイニングスラッシュ!」


「ゴブアアァ!?」


 光の刃でゴブリンを切り裂いていくライト。お前どこまでも勇者っぽいな。


「いいですよー、そのままゴブリン100匹倒してみた動画にしましょう」


「せんでいいせんでいい」


「オレは負けない! ゴブリンなんかに動画映えで負けてなるものか!」


「張り合うとこ間違ってんぞー」


 根が真面目なのかな。勇者ってくらいだし、何事にも真剣に取り組むタイプと。ただの天然の可能性もあるけど。


「負けねえゴブ。ここで負けたら誰が世界を守るゴブ」


「世界を乱す側だろお前ら。無駄なこと考えんな」


「そういう意識の低さがいけないゴブ。一人一人がしっかりと環境を考えて、できることをやっていくのが第一歩ゴブ」


「無駄に意識が高い! だから環境汚染の原因がお前らなんだよ!」


「ほらほら大和様。見てるだけじゃなくて戦いましょう。体育ですよ」


「そうだったな……よし、俺もいくか!」


 剣の動きはMMOでやった。同じように軽く振ってみると、なんとなく体が覚えている。


「油断しないでください。基本的に一般男性なんですから」


「わかっているさ。個別に撃破する! うりゃああぁぁ!!」


 集団から離れたやつを素早く近づいて斬る。意外にもすぱっと切れた。俺が成長しているのだとしたら嬉しい。


「くぎゃああぁ!? くっそ……死んでもSNSで叩いてやるゴブ」


「陰湿すぎるだろ!!」


「今死んだゴブリンの兄です。弟が迷惑をおかけしました」


「クソ動画でよくあるやつ!?」


「迷惑系は消えろ! ホーリークラッシャー!」


「ゴッブウワアァァ!?」


 ライトの必殺技で自称ゴブリンの兄は消えた。こうして世の中から悪は減っていくのだ。


「今死んだゴブリンの弟です」


「それ一個前に死んだやつだろ!!」


「双子の弟です」


「見分けつかねえんだよ!!」


 もう意味わからんので勢いで切り裂いていく。こいつらが弱くてよかった。これで強かったらストレスがえぐい。


「いいぞ大和! 攻撃の勢いが増している!」


「なるほど、ツッコミ入れながら切ると威力が上がるみたいですね」


「そんな特技いらねえ!!」


「さあがんばってください! まだまだゴブリンはいますよ!」


 言いながら呪符っぽいものから炎を出して敵を焼いている結名。お前やっぱ強いんだな。


「危なくなったら助けるから、大和の好きなようにやっていいぞ」


「そうだね。実戦は初めてなんだから、まずは命を大切に、だよ」


 ジェイクと人川が優しくフォローしてくれる。人魂ジョークは心配してくれていると解釈しておこう。っていうかお前らめっちゃ強いな。まさかクラスメイト全員強いやつで構成されているのだろうか。


「くっ、さすがは暁大和様だゴブ。ファンタジー世界に永住してもやっていける逸材として才能を見せつけられたゴブ」


「急に褒めてきたな」


「当然さ。大和は勇者にだってなれる男だからね」


「初耳だよ」


「そうか、やはり偉大な男ゴブ。ファンタジー世界こそ最も似合うゴブねえ」


「さてはこれ勧誘の一種だな?」


 急に芝居臭くなったぞ。全員戦いをやめてこっちを見ている。完全にそういうことだろう。


「夢と魔法と冒険の世界……それがファンタジー。水回りも魔法で解決! 冷暖房も魔法で完備! なんなら別世界から取り寄せる!」


「最後ダメだろ」


「魔王を倒したり、お宝を見つけたり、やれることはいっぱいだ!!」


 魔王は修学旅行で倒したんだよなあ。お宝の実も貰ったな。お宝でいいのかなあれ。美味しかったからたまに食いたいんだけど。


「まあ考えておきます」


「よかった……これで心置きなく成仏できるゴブ」


 そしてゴブリンは討伐された。なんだかんだ適度に運動できた気がする。


「さて、それではみなさん無事ですね? 体育は帰るまでが体育ですよ」


「遠足じゃないんですから」


「黄巾党が出たぞおおおぉぉ!」


「黄巾党!? 三国志の!?」


 ちょっとは脈絡とか考えてくれ。即座に三国志が出てきた俺を褒めろ。


「どうやら異世界でも悪事を働いているようですね」


「んなことしれっと言われてもさあ!?」


「なんで異世界にいるんでしょうね?」


「俺に聞く?」


「来るなんて報告はなかったんですが……」


 これ本当に想定外なのか。先生もどこかに連絡を取っている。


「どうやら偶然黄巾党に街が襲われそうらしいです」


「ねえよそんな偶然」


 あってたまるかボケ。百歩譲って三国志の世界ならいいよ。なんでファンタジーに来てんのさ。


「許せないぞ! 勇者として見過ごす訳にはいかない!」


「失礼、これは実戦になりますので、大和様はお下がりください」


 俺を護衛する動きを見せるみんな。迅速だなあ。結名まで真面目モードだ。


「いいですか、私から離れないでくださいね。防御結界とかあるんですから」


「帰ってからでいいから、そういうの説明してくれ」


「いました!」


 高い場所から見下ろすと、黄色い布を巻いた集団がいる。これはもう軍だ。


「多すぎるだろ。どんだけいるんだよ」


「はいじゃあお昼休みが近いので、ぱぱっと倒しちゃいましょう!」


「そんな軽いノリで?」


「これが勇者の力だ! シャイニングファイナルクラッシャー!!」


「こちらジェイク。指定ポイントへ攻撃衛星による狙撃を要請する」


「人魂妖怪魑魅魍魎……口寄せがしゃどくろ!!」


 聖剣から極太のビームが迸り、空からレーザーが降り注ぎ、でっかい骸骨の化け物が黄巾党を叩き潰していく。


「俺いる?」


「いりますいります」


「いやパワーとか与えなくても強いじゃん」


 敵が弱いのかもしれないが、あいつらの必殺技っぽいものがとにかく強い。こんなん俺がいなくても決着つくんじゃね。


「あのレベルの人達が、常に殺し合いやにらみ合いを続けていたんです。それが一時的にとはいえ休戦状態となったのは史上初なんですよ。大和様のおかげです」


「無駄な血が流れることなく終わるなら、それでいいのかもしれないよ。大和がどの勢力を選ぶにしても、平和に近づくと願っている」


 結名もライトも俺に気を遣いながらも、どこか本心のように感じた。

 確かにこいつらに死なれるのは嫌だな。勢力のためか平和のためか、なんにせよ親切にしてくれていることは確かなんだ。


「ぼちぼちちゃんと考えていく。今は色々と見て回りたい」


「それでいいさ。どんな勢力がいるのかわからなければ選べないからね。困ったら勇者を呼んでくれ。駆けつけるさ」


「私もお世話しますからね」


「すまない。助かるよ」


 凄くいい雰囲気で終わろうとしているけれど、これ体育の授業だったはずなんだよね。しかも黄巾党がほぼ蹂躙されていらっしゃるよ。まあ悪事を働くとこうなるという見本だね。俺も自分の力に溺れないように気をつけよう。


「あまり乱用するべきじゃないな」


「大和様、そろそろ終わりにしないと、お昼にお弁当食べる時間なくなっちゃいますよ」


「みんなー! パワーあげるからダッシュで終わらせてくれー!」


「成長期にお昼抜きだと!? そんな不健康な真似、勇者として絶対に認めんぞおおおおぉぉぉ! ギャラクシーファイナルノヴァアアァァ!!」


 今回はしょうがないよね。だってお昼ごはんは育ち盛りには必須だもの。

 だからみんなが限界ぶっちぎりパワーを出しても仕方がない。

 そう自分を納得させることで全滅させて帰るのだった。

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