竜宮城会談
「大和様、夕食は竜宮城に行きますよ」
「気軽に言うなや。近所の焼肉屋じゃねえんだぞ」
自室でくつろいでいたら、わけわからんこと言い出した。いや最初に行くって予定は聞かされたな。前倒しになったのだろうか。
「ここで大和様に聞いておくことがいくつかあります」
「なんだよ?」
「水中でどのくらい息を止められますか?」
「素潜りなの!?」
「手続きとかめんどくさいし、素潜りでいけるならいっとこうぜ的なノリです」
「いけねえから移動手段お願いします」
そこから説明しないといけないのか。やはり一般人との溝は簡単に埋まるものじゃないな。
「あとタイやヒラメの舞い踊りですが、魚に人間の手足が生えているパターンと、人魚の美少女とどっちがいいですか?」
「何その二択……人魚の方で」
「ほほう、いやらしいですね」
「違うわ! もう片方怖いだろ! なんかホラーじゃん!」
「彼女らだって人間社会の裏で立派に轟いているのですよ」
「その事実がすげえ怖いんだよ」
海で出くわしたら泣く自信がある。絶対人間サイズだろそいつら。
結名が少し残念そうなんだけど見たかったの?
「じゃあ亀を用意しますので、背中に乗ってください」
「まあ定番だな」
「乗っている間は息を止めているだけでいいですから」
「ほぼ素潜りだよね!?」
「ではシュモーケング? みたいなやつつけます?」
「シュノーケリングな。あれさきっぽが水面から出ていないとだめなんだよ」
「まったく使えない道具ですねえ」
「お前だよ。完全にお前がだめなんだよ。道具のせいにすんな」
結名は家事万能だし気を利かせてくれるんだけど、こういうところで常識外の存在だからなあ。近々ちゃんと教えてあげるべきだろう。
「じゃあ潜水艦とかチャーターします?」
「斬新だな。乗っていいのかそれ」
潜水艦って乗り心地いいのだろうか。少し興味があるけれど、海の中で逃げ場がないって怖くないのだろうか。よく考えたらそこに亀で行くのだいぶ怖いな。
「あらゆる軍と国家がこちら側です」
「そういやそうでしたね。じゃあ頼む」
「はい、では連絡取りますね。はい大和様お世話係の結名です」
「それマジで肩書なんだな」
スマホでどこかに連絡を取っている。あんまり会話とか盗み聞きするものでもないので、テレビでもつけようかな。
「はい、はい、大和様は素潜りは無理みたいです。はい、よく言って聞かせましょう。問題ありません」
「俺が悪いみたいに言うなや!?」
「いえ先方によく言って聞かせておきます」
「それもなんか不穏だな」
「あとこれあっちからの質問なんですが、魚雷って何発撃ちたいですか?」
「どこに!? もしくは誰に!?」
撃つとしたら敵か龍宮城だよねそれ。そんな物騒なもんしまっておいて欲しい。
「はっしゃー! とか言ってみたくないですか?」
「みたいけどそのために実弾はやめようぜ」
「そうですか、艦長命令ならやめておきます」
「勝手に艦長にすんなや。攻撃的なやつじゃなくて、エンターテイメントに舵を切ったらどうだ?」
「船だけに舵を切るということですか?」
「やかましいわ」
そして結名と一緒に海辺に行ったのだが。驚くほどでかい亀がいる。下手な五階建てのマンションよりでかい。
「めっちゃでかい亀がいるんだけど」
「玄武さんです」
「げんぶ……あの朱雀とか白虎とかの?」
「その通りです! ご存知ですか!」
「まあゲームとかで」
「光栄ですな。護衛を努めさせていただきます、玄武です。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に、よろしくお願いします」
礼儀正しい人だ。人じゃない亀だ。とても穏やかで紳士的な声がする。落ち着くのは人柄というやつがにじみ出ているからだろうか。
「ようこそお越しくださいましたな大和様!」
玄武さんの上に誰かいる。三叉の槍を持った、豪華な鎧のイケメンだ。
「とう!」
ジャンプしてかっこよく着地。サラサラロングヘアーの外人さんだが、知らない人だな。クラスメイトじゃない。
「案内役を仰せつかったポセイドンだ。以後よろしく頼む」
「よろしくお願いします。ポセイドン? あの神話の?」
「はい、今回はポセイドンさんに来ていただきました」
「おおー、神様が直接来るとは豪華だな」
「それほどのイベントということさ。まあ一時的に平和だからというのもあるがね」
どうやら自由時間も増えているようで、俺の存在が平和な時間を作っていると結名からも言われた。それならそれでいいことだろう。
「では乗り物を用意しましたのでどうぞ。いでよアトランティス!!」
ポセイドンさんの槍が光り輝き、海の向こうへと飛んでいく。そして海から何かがせり上がってきた。それは巨大な島のようで、透明なバリアに囲まれていた。
「これが今回の移動手段、水中都市アトランティスです」
「都市は目的地であって移動手段じゃないと思う」
「初見のインパクトに全振りしてみました」
「すっげえ驚いたけども」
そらインパクト絶大よ。こんなんアニメの世界やん。こいうの見るとテンション上がるさ。
「ご一緒にムー大陸はいかがですか?」
「ポテトのノリでおすすめされても困ります」
「ただいまお持ち帰りで50%オフキャンペーン中ですよ」
「持ち帰れるかボケ! お前ムー大陸お持ち帰りってどうやるんだよ!」
「学園の横にくっつけますけど?」
「ますけどじゃねえって! えっできんの?」
「できるに決まってるじゃないですか」
ここで滅多なこと言うと実現するよ! 気をつけようね!
クソ怖いわ。次の日には地図変わってそう。
「直前まで手作りのイカダとどっちにするか会議してました」
「極端すぎるんだよ。中間を取れ中間を」
「逆にイカダとアトランティスの中間ってなんでしょうね?」
「知らねえよそんなの。お前らがわかんなかったら全員わかんねえよ」
まずイカダって沈んだらいけないんじゃね。水中を動くもんじゃないだろ。
「ではまいりましょう。足元滑りやすくなっています。水浸しなので」
「水中都市ですもんね」
島は完全にギリシャ風だ。いやギリシャそのものなんだろうけど、これは壮観だな。古代の神殿みたいなものや、普通に人が住んでいる家まである。
「普段は海底で過ごしていますが、酸素のあるエリアもございます」
「ギリシャ風だ……こういうのかっこいいよな。神殿とか動画で見たことあるぜ」
「お気に召しましたかな?」
「はい、神話っぽいというか、かっこいいですよね」
「では観光を楽しみつつ参りましょう。潜航開始!!」
ゆっくりとアトランティスが海中へと沈んでいく。ちゃんと空気はあるので、動く水族館みたいでテンション上がる。海の中はとても綺麗だ。
「おー……いいなこれ。普通じゃ見られない光景だよ」
「おっ、大和様も乗り気ですね! 今日はちゃんとしたおもてなしですよ! 期待していてください!」
楽しみだなーなどと思っていたら、ポセイドンさんがどこからともなく網を出してきた。中にはでっかいカニが入っている。
「うーわでっかいカニだ……これ食べるんですか?」
「はい、こいつはカニ吉ですね」
「名前付いてるんですか」
「ええ、こちらはカニ男ですね。十年生きています。カニ吉とはとても仲のいい兄弟なんですよ」
「食いづらいわ。今日の晩飯なんだろ?」
「もちろんです。生でいきますか? テンプラという日本食があると聞いておりますので、それでもいいかなと」
カニ吉の動きが激しくなっている。なんか抵抗してないかこれ。
「めっちゃじたばたしてますよカニ吉」
「本人に知らせていませんでしたから」
「俺なんて言えばいいんですか」
「おいしそうとかでいいんじゃないですか?」
「それでいいの? マジで?」
「カニのテンプラをご用意しますね」
100%善意だなこれ。人と神は考え方が違うね。いや普通に美味しそうだし、食えるなら食いたいけどさ。
「食いでがありそうですね、楽しみにしてます」
すまんカニ吉。腹減ってきたんで食いたいです。完食するから許して。
「ほらもうつきますよ、あれが龍宮城です」
歩いて到着したのは、なんとも和風な龍宮城だ。絵本よりも豪華ででかい。
「アトランティスにくっつけてみました」
「それはもうアトランティスの城なんですよ」
でっかい門が開き、中から護衛の魚人兵士と一緒に美少女が出てきた。
「ようこそいらっしゃいました、大和様。この乙姫、精一杯おもてなしいたします」
流れるような黒髪と、綺麗で豪華な和服に身を包んだ美少女だ。
清楚で気品溢れる美しい外見である。
「あれ? どっかで見たような……」
「はい、大和様のクラスメイトです」
「まさかの。でも見覚えあるわ」
「今日は楽しんでいってくださいね」
笑顔の乙姫からは邪気が感じられない。純粋そうでとても好感触だ。
「クラスメイトの女子の家で晩ごはんですよ大和様」
「一気にスケール小さくなったな」
さて何が出てくるのだろうか。不安と期待がごっちゃまぜである。
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