竜宮城で夕食会

 竜宮城で開かれる夕食会に出席するため、ポセイドンと玄武に守られながら海底都市で沈んでいく。

 到着した竜宮城で出会った乙姫は、俺のクラスメイトだった。うむ、意味わからんな。


「大和様、どうか楽しんでいってくださいね」


 乙姫は完全なる黒髪清楚系お姫様だ。姫を名乗るに相応しい気品を兼ね備えた美少女である。


「では改めまして、ようこそ大和様。童話および日本神話に属します、乙姫と申します。どうか末長くよろしくお願いいたします」


「暁大和です。今日はよろしくお願いします。チーム兼任とかできるんですね」


「太古より続く歴史の中で、時には敵として争い、時には共闘してきたものですから」


「大和様が思うよりずっと背景は深いのです。まあ全部台無しになっちゃいましたけどね!」


 結名の言う通りなら、俺は結構迷惑かけているなあ。戦争が中断したらしいので、それでプラマイゼロってことにしてほしい。


「では早速宴を始めましょう。料理をここに!」


 超豪華なテーブルに続々と料理が並べられていく。言うまでもなく完全に場違いな俺。マナーとかまったくわからんぞ。


「左からカニ吉、カニ男、カニスタンです。ご賞味ください」


「食いづらいわ」


 なんで名前言うんだよ。天ぷらになって原型ないのにわかるのか。


「おいしいです!」


 結名が俺より先に食っている。無くなりそうなので俺も食うか。


「めっちゃうまい……」


 カニてこんなうまいのか。今まで食っていたカニってカニだったのか? というレベル。


「最上級のカニと超一流の料理人の合作です」


「そりゃすごい」


「カニ丸は天ぷら職人歴三十年の大ベテランですから」


「そこもカニなのかよ!?」


「本日のコンセプトはカニづくしです」


「そういう意味じゃなくね!?」


 そして響き渡るエレキギターの音。

 ステージに目をやると、美少女軍団が機材の準備を終えていた。


「えー、今日は私たちのライブに来てくれてありがとう! 最高の思い出作ろうぜーい!!」


「宴ってそういうやつ!?」


「竜宮城フェスは初めてだけど全力でいくぜーい!!」


「フェスっつっちゃったよ」


「では行ってまいります」


 乙姫さんがどこかへ歩き出す。そっちステージですけども。


「本日のメインボーカルを担当いたします、龍宮乙女のリーダー乙姫です」


「お前ボーカルなのかよ!!」


「バンドはかっこいいしモテる。ガールズバンドは無敵をスローガンに頑張ってきましたが」


「アホみてえなスローガン出たよこれ」


「竜宮城って水中なんですよね。出会いなんてなかった!!」


「アホだ。アホがいるぞ」


「なので大和様にはとても感謝しています。外の世界で学園生活できる機会を得ましたから。ちなみに軽音部です。青春です。陽キャとしてちやほやされたいです」


 アホの深層心理が垣間見えた瞬間である。


「わかります、わかりますよその気持ち」


「うそやん」


 まさかの結名である。お前モテたいとかそんな思考回路あったのか。


「私もお琴とか三味線できますけど、ギターってなんだかキラキラしてて、みんなで楽しく音楽やるって素敵ですよね! 音楽で人は幸せになればいいのにーって思います」


「うっ、ピュアな……ピュアな箱入りお嬢様の意見が苦しい! モテとか気にしたことない系だ! ごく自然にモテるやつだ!!」


 アホが苦しんでいる。乙姫も完膚なきまでに美少女なんだが、どうして残念なオーラが出ているのだろう。アホだからかな。


「大和様がアホと呼んでいる気がします」


「するどい」


「仕方ないでしょう! 私は竜宮城の乙姫なんですよ! お金だけはありますから、海の底からお気に入りのVな人にスパチャ飛ばすしか恋愛の手段がないんですよ!!」


「それ恋愛じゃねえよ! ネットあるんだから同じ趣味の相手とか見つけりゃいいだろ!」


「そして同じVと音楽が好きで、ネットでくだ巻くことしかできなかった四人が集まったのが龍宮乙女です」


「アホの集まりやんけ」


 全員海関係の姫とか女神らしい。あんまり知りたくなかった裏側を知ったぜ。


「なんか盛り下がりましたけど、負けずに元気にいきますよー!」


「全部お前のせいだよ」


「姫や神なんてやっていると、いっぱい出会いと別れがあります。それは竜宮城でも同じです。寿命が永遠に近いからこそ、そこにはたくさんの思い出が増えていくのです」


 これは独特の死生観だな。興味がある。普通の人間として暮らしていた俺には、特別な連中の思考がわからない。けどいい奴らも多いんだ。せっかくだし知っておきたいな。


「今でも様々な思い出が蘇ります。昨日たたかれて命を断った、カツオのカツ太郎」


「叩かれて……?」


「とてもおいしかったです」


「カツオのたたきだな!? 何ネットで叩かれましたみたいに言ってんだ!?」


「マグロのマグ夫は……ふと目を離したら、その時には、その時にはもう冷たく……いいえぬるくなっていたんです」


「刺し身の話だな! 刺し身置いとくとぬるくなるもんな! ばーか!!」


「みんな生きている以上、必ず死ぬ日は来る。誰だってそうだよね。けど私たちが死んで冷たくなったとしたら、思い出して欲しい。ぬるくなる前に食べた方がおいしいって」


「まだ刺身の話!?」


「聞いてください、いつか刺身になるとしても」


「どんな歌だ!?」


 なんかロックな曲だったけど、お前らの思考が一番ロックなんだよ。歌はなんかよかったよ。ちゃんと真面目に楽器やってんだなーって。MCが完全に邪魔だったね。

 そこからライブは続き、盛況で終わった。乙姫は俺の隣に来る。


「いかがでしたか?」


「曲は凄くよかった。歌うまいんだな」


「それは何よりです。お食事もまだまだあるんですよ。舟盛りもありますからね」


「舟盛りってこういうのか」


 そこからは普通の食事会である。とてもおいしい。普通に暮らしていたらまず食えない豪華な料理である。庶民の俺にもうまいと理解できるので、自然と箸が進む。


「希望があればすぐ用意できますよ。炙りサーモンとか、ふぐの踊り食いなどもできますが」


「死ぬわ。完全に死ぬだろ」


「毒耐性のスキルはお持ちでは?」


「ねえんだよスキルとか。一般人は取る機会がねえの」


 まずスキルの取り方がわからん。毒ってそうやって防ぐの?


「今度スキル屋さんに行きましょうね」


「なんだその怪しい商売は。現代にあっていいもんじゃねえだろ」


「だめですよ乙姫様。まずスキルポイントを稼がないと」


「おっと、そうでしたね」


「そうじゃねえと思うよ」


 意味がわからんのでふぐちりを食う。そうか、ふぐってこういう味なんだな。


「竜宮城特別メニューとかないんですか? 珍味的なやつ食べたいです!」


 結名がまた変なことを言い出した。こいつ図々しさのパラメータマックスだな。


「ナマコとか食べます?」


「急に不穏なもん出てきたな」


「ザリガニ、ウツボ、ナマコ、エスカルゴのセットがあります」


「全部ちょっと抵抗あるわ」


「ではそれをお願いします」


「頼むな頼むな」


 ほら俺の分まで出てきちゃったじゃん。絶対こうなると思ったよ。


「はい大和様あーん」


「俺で試してるよな?」


「あーん」


「お前がくいやがれオラ」


「んぐうぅぅ……おいひいれす」


 うまそうな顔だ。これがフェイクの可能性もあるが、俺も食ってみよう。


「独特だ……多分うまいんだけど、食ったことない味だ」


「すぐ慣れますよ。ご一緒にピラニアはいかがですか?」


「ポテトのノリでピラニアすすめんなや」


「おいしいれす!」


「お前すぐ食うなや! なんで抵抗ねえんだよ!」


「食べておいてください。スキルポイントが10上がりますので」


「ゲームとかにあるやつじゃん」


「大和様がスキルポイントすかんぴん野郎だと聞いて、板長が急遽入れてくれたんですよ」


「言い方考えろや!」


 結名のボキャブラリーは急遽改善しよう。ナチュラルに煽りやがって。


「熟練の板長が真心込めてスキルポイントを入れました」


「真心で入れんの?」


「知らないですけど」


「じゃあなんで言ったんだよ!?」


「でも心はこもってるはずですよ」


「そりゃそうだろうけど、スキルポイントはちがくね?」


「いいですか大和様、板前の修業というのはとても厳しいのです」


「急にどうした」


 修行がきついのはよく聞くけれど、なぜそれをお前が得意げに話すんだ。


「見て覚える下積みで三年、飯炊きで一年、そこからようやく包丁を覚えて五年、さらにスキルポイントで一年です」


「最後絶対違うわ!」


「ふふっ、お詳しいですね」


「あってんの!?」


「板長はスキルポイントの振り分けに関しては誰にも負けません」


「張り合うポイント間違ってんだよ!」


「おかわりください!」


「お前は空気読めや!!」


 疲れる……料理もうまいし乙姫とも距離が近くなった気がする。けど疲れる。

 明日は普通に自宅で晩飯を食おう。なんとなくそう誓った。

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俺が覚醒したら所属した勢力が世界の覇権を握ってしまうらしいのでみんなが全力勧誘してくるそんな高校生活 白銀天城 @riyoudekimasenngaoosugiru

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