VRMMOで魔王が勧誘
VRMMOの世界で遊ぶことになった俺達は、なんとか魔王のいる場所までたどり着いた。
『はっはっは! よく来たな勇者よ! だが貴様の冒険もここまでだ!』
「あれが魔王か……いかにもな敵だな」
二本のツノに黒い体毛。赤い瞳に鋭い牙で二足歩行。黒い翼は四枚。悪魔の王という表現がぴったりだ。
「そういや四天王って全部は出てこなかったな。実装されてねえのか?」
『四天王は現実世界で昼ごはんのしたくを手伝っている!』
「実在してんの!?」
「魔王は異世界の魔王にオファーしまして、隣の部屋で同じくヘッドギア被って寝ています」
「アホか!?」
つまりあいつあのまま実在してんのか? あれが旅館で布団の上に寝ているところを想像してしまったよ。なんちゅうシュールな光景だ。
『三つの魔界を統治している! 名産品は魔女の作るアップルパイと魔界風お好み焼きだ! 興味がわいたらぜひ一度立ち寄って……』
「なんか勧誘してきた!?」
「今回の出演料として、十分のアピールタイムが送られました」
『我々はいつでも大和を歓迎するぞ! なんなら新しい魔界もプレゼントだ! キミだけのオリジナリティ溢れる魔界を作ってみよう!』
「えぇ……そんな夏休みの工作感覚で作っていいのかよ……」
やりこみ箱庭ゲーじゃないんだぞ。魔界ねえ……なんか魔物とかいて危険なイメージなんだよなあ。
『サキュバスもいる。モンスター娘もいる。そんな魔界とファンタジー陣営をどうぞよろしく! 清き一票を!! あ、これお近づきの印にどうぞ。超魔の実です』
丸くてトゲのついた紫色の実を渡された。食えとでも言うのか。
『現実世界でも使えます。全能力十倍になりますんで、これから大変でしょうし使っちゃってください。今日の朝取ってきた新鮮なやつです』
「ああ、どうもご丁寧に……起きたらいただきます」
もう完全に敵対できないムードだよ。一応ボスキャラですよね? お土産くれた人を今から攻撃するのすげえ罪悪感なんだけど。
「あと三十分でお昼ご飯ですよ大和様」
『おっといけない。それでは死なない程度にかかって来い!! 必殺技は気分が出るように音声認識だ!』
俺のキャラに叫ぶと自動的に必殺技が出る機能が追加されているらしい。
「いや恥ずかしくね?」
「羞恥心は捨てましょう大和様」
「よし、じゃあオレたちにもその機能をつけてくれ。全員でやればいいんだ」
気配りできる人だなあジェイク。その細かい気配りはスパイとして役に立つスキルなんだろう。
「よーしいくぞ! バーニングレーザー!」
ジェイクの持つ銃から真っ赤な光線が打ち出される。光が結構強くて眩しいけどかっこいいな。
『ふはははは! どうしたその程度か!! あ、こっちにもその機能お願いします。魔王爆撃波!!』
「うおおおぉぉぉ!? それありなんかい!?」
魔王まで機能使ってきた。俺たちの周囲でどんどん爆発が起こる。HPがりがり減ってるぞ。
「回復は任せてくれ! 浄化の光よ、我らの傷を癒したまえ。ホーリーヒーリング!!」
人川がどう考えても弱点属性な技名で回復魔法をかけてくれる。よっしゃ全回復だ。反撃いくぞ。
「大和様! 今です!」
「やるっきゃないか。いくぜ、疾風魔裂斬!!」
俺の剣から光の刃が飛び出した。見事に魔王に直撃し、9999ダメージ。バランス壊れるだろ。
『やるではないか。だがまだまだ倒れはせんぞ』
「畳み掛けるぞ大和。プラズマバズーカ!!」
バチバチ音をたてる雷球が勢いよく打ち出され、魔王に5000ダメージ。ここで追い打ちかけてやる。なんだかんだ男の子なんでな。テンション上がってるぜ。
「二刀撃滅乱舞!!」
日本刀と西洋剣を回転しながら振り回し、まるで演舞を踊るように切り刻む。
VRMMOの世界だから、現実ではできない動きができて気持ちがいい。いいぜいいぜ乗ってきたぜ。
『無駄だ無駄だ! 我が編み出したオートリカバリースキルで一撃ダメージが入ると9990回復するのさ!』
「えぇ……ずるくねえ?」
『貴様らは仕様上、9999までしかダメージを出せぬ。そんなゲームシステムの裏をかいてやったわ!』
「それ敵側がやっちゃだめだろ!?」
普通システムの裏をかいて攻略するのは、主人公チームの最後の手段だろう。
そうやってVRMMOの世界で生き抜いたりするんだろうに。魔王がやってどうする。こっちガン不利なままだろうが。
「大和様、超魔の実です。あれチートアイテムです」
結名にこっそり耳打ちされた。そうか、あれそのために渡されたのか?
「まあいい、使うだけ使うか。魔王! お前の野望もここまでだ!」
『ほう? このゲームにベータテストから制作スタッフとして関わっているこの我に勝てるとでも?』
なにやってんだこいつ。純粋にかわいそうだわ。倒したくなくなるほど同情させるのは卑怯だぞ。
「勝てるさ、こいつでな!」
超魔の実を豪快にかじる。俺の体から今まで感じたことのない強烈な力が溢れ出て止まらない。
「それが魔力です。今のうちに慣れておいてくださいね。今度剣と魔法の世界に行きますから」
「そういう大事なことは先に言ってくれるかな?」
「大丈夫ですよ。まだ三日は後のお話です」
三日後、俺は剣と魔法の世界に行くらしいよ。びっくりだね。
「そんなこと言っている間にも、なんか魔力が溢れて止まらねえ! もうちゃっちゃと終わらせてやるよ!! 正直帰りたいしな!!」
『こい勇者よ! 魔王黒炎波!!』
「極最光牙閃!!」
両手の剣からまばゆい光の波動が迸る。魔王の黒い波動と真正面からぶつかり轟音と激しい火花を散らす。
まだ俺の力の方が弱いのか、じりじりおされている。
『どうしたどうした! 超魔の実をもってしてもその程度か!!』
ここでふと思いつく。俺の力ってゲームでも適応されるのだろうか。
「結名、人川、ジェイク! 能力解放! パワーアップしろ!!」
一斉にオーラを纏い、ゲーム内だというのに地面が震え、暴風を巻き起こす。みんなのステータスがわかりやすく爆上がりしている。
「おおおぉぉぉ!? ゲームにも影響出るんですね! これならいけます!」
「こいつは……なるほど、躍起になってスカウトするわけだ」
『素晴らしい。あとでちょっとかけてもらっていいですか?』
「いいですけど人間界侵攻とかやめてくださいね」
魔王をパワーアップさせた結果、人間の敵になるのは避けたいのだ。
あと戦闘中なのでそういう相談はあとにしてください。
「お見事だよ大和。期待に応えよう。シャイニングフラアアアッシュ!!」
人川の杖から白いビームが出る。とてつもない波動が迸り、魔王に向けて突っ込んでいった。
『いった!? 痛い! 魔王の装甲が足りない!!』
「なら追い打ちといこう。ロングバスターカノン! 発射!!」
長い砲等から青色に輝くビームが撃ち出された。これはロボットが主役の作品とかでよく見るやつだな。
『くう! 魔王である我が! 圧し負けるというのか! 強い! いや本当にお強い! 正直無理だってこれ!!』
この時点でダメージが9999から999999999になっている。どうやらゲームシステムすらも改変してぶっちぎれるらしい。なるほど、世界の法則まで巻き込んでぶっ壊せるのか。
「さあ、とどめですよ大和様!」
ついでに結名のビームも混ざって四人一斉攻撃だ。この展開だけ見たら燃えるぜ。
「だりゃああぁぁぁ!!」
『ぬうおああぁぁ!? かっ回復が追いつかん!? この我が……ぐおおあああぁぁ!!』
ついに魔王は光にのまれて消えた。俺たちのそこそこ長くてクソゲーだった戦いも終わりを告げたのだ。
「ふう……やったぜ」
「おめでとうございます大和様!」
「やったな大和」
「ハッピーエンド確定だよ」
無我夢中でやったらうまくいった。これもみんなのサポートあっての成果だろう。
「これもみんなのおかげさ」
それは本心だったし、なんだかんだ楽しかったので大満足だ。みんなとも仲良くなれた気がする。
そして真っ白な空間に四人で立っている。いや何ここ?
「ここはデバッグルームだね。どうやらゲームごと壊れたらしい」
「マジかよ」
「予想を遥かに超えた能力だな。現実世界で使わなくてよかったと思うべきか。今後の予定のためにも、データは増やしておきたいところだ」
「この戦いは各勢力に資料として配布する予定なんですが」
「絶対にやめろ」
そんな恥の晒され方があるのか。大声で必殺技名を叫んでいるところが全世界に出回ったら死にたくなるだろうが。
「そうですか。まあ楽しくパワーアップできましたし、今回は良しとしましょう」
「次回もやめてくれ。そもそも次回があるのか?」
「なにを言っているんだい大和。剣と魔法の世界に行くって言ったじゃないか」
「忘れてたよ……ってか疲れるからそんな色々行くハードスケジュールは見直して欲しい。こちとら生身の人間だぞ」
「そうですね。ちょっと上と掛け合ってみますね」
「頼むわ。切実にな」
これからは発言に気をつけつつ、学園生活を謳歌しようと心に誓ったのであった。
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