お昼ごはんと学校の七不思議で勧誘
「はい、では無事にVRMMOの世界から帰ってきましたので、全員でお昼ご飯ターイム!!」
最高級旅館のだだっ広い宴会用の部屋で、修学旅行二日目の昼食が始まった。
とりあえず横に座っている結名に気になったことを聞いてみよう。
「言っていいのかわからんけどさ」
「なんですか大和様? お料理なら蓋を取ったら出てきますよ」
大きなお膳に銀の蓋がしてある。明らかにでかい。何が入っているのかとても不安だ。まだ学園生活二日目なのに不安が支配しつつある。
そしてなんとなく周囲を見渡せば、明らかにおかしい人がいっぱいだ。
「いやそうじゃなくてさ。なんか光るわっか? が頭の上にある生徒がいるけど……あんなんなかったよな?」
「ああ、あれは死んだからですよ」
「そんなサラっと!?」
なんでもないことのように言われたけど本当に死んでるの? なんで普通に飯食ってるの?
「一部の人は死ぬとああなります」
「なんで死んでるんだよ!」
「VRMMOの世界で死んだからです」
「無事じゃねえじゃねえか!! 無事に帰ってきましたのでとか言ってたろ先生が!」
「帰ってきましたよ。黄泉の国から」
「怖いわ!! ただひたすら怖いわ!!」
もうやだ幽霊出てるじゃんこの旅館。しかもクラスメイトの霊じゃん。まだ顔も覚えてないから悲しめねえよ。
「ちゃんと数時間でわっかも取れて完全回復しますのでご心配なく。魔王さんもわっかついてましたよね」
「やっべえ……そういやノリで倒しちまったな」
「まあすぐ復活してましたけど。だから大丈夫です」
「だからの意味はよくわからんけども」
魔王ほどになると、命も一つではないらしい。そして復活も早いらしいよ。
「ほら、よくあるじゃないですか。いずれ復活し、人類を根絶やしにどうのこうのってセリフ」
「あーたまにあるなそういうゲーム。死に際の一言的なやつだろ?」
「そうですそうです。そんな感じのあれです」
あれらしい。深くはつっこまないでおこう。食事中に面倒なことを考えてはいけない。どうせアホみたいな理由だろうし。
「いいや飯食おう。さて、どんなもんが出てくるかね」
でかい蓋を取ってみれば、そこにはまず両サイドに白い棒が飛び出た塊があった。
「結名、これはまさか」
「はい、マンガ肉です」
「やっぱりか! うーわこれが……どう食べるんだよ」
「手づかみが一番ですよ。マンガ肉に特定のマナーなんてありませんし」
そりゃそうだ。両端の骨をつかんで豪快に肉をかじる。なぜか知らんが弾力のある皮がなっかなか噛み切れない。なんとか噛み切って味を確かめる。
「ん、美味いな」
口の中で肉汁がぶわっと広がって、それでいてしつこさがない。普通の肉より味がしっかりしていて濃い目だ。皮と違って中の肉は驚くほど柔らかくて、口の中でとろけるというTVとかでよく聞くフレーズを始めて理解できた。
「ちょっと味が濃いところがマニアには受けているみたいですよ」
「これは米が欲しくなるな」
茶碗に盛られた炊き込みご飯に手を伸ばす。なんだろうキノコか?
「これは何が入っているんだ?」
「それはタケノコと松茸とにんじんですね」
「普通だな。そして超うめえ。流石の高級旅館だぜ」
ちょっとのどに詰まったので飲み物に手を伸ばして、止まる。なんか赤く光っている。コップじゃなくてビンに入っているのが怪しい。
「それはハイポーションです」
「急にファンタジー要素ぶっこんできたな」
「ハイポーションはHPが2000回復します」
「高いか低いかわかんねえよ。俺は今いくつなのさ?」
「3000くらいですね。普通の人が300くらいです」
「俺めっちゃ高い!? なにがあったんだよ!!」
「超魔の実ですよ。あれで十倍になったでしょう」
そういや現実でも使えるとかなんとか……お手軽にパワーアップしたなあ。
「まあそのくらいHPないと即死しかねませんし」
「怖い!? どんな危ない目にあうのさ!!」
「なーにいってるんですか! 今まさに綱渡りじゃないですかー! あははは!」
なぜここで爆笑できるんだ結名よ。やっぱこの子もどっかおかしいって。
「……まったく未知の味だが、なぜかフルーツ味だと認識できる」
「正解ですよ。不快感が無いように味付けされています。体にいい成分ですからご安心を」
「まずくはないけどさ。フルーツ味と炊き込みご飯とマンガ肉があんまり合わねえんだよなあ」
「でしたらほうじ茶もございます」
「んじゃそっちくれ、悪いな」
湯飲みにほうじ茶をいれてもらう。色も香りも味も完全に俺の知るほうじ茶だ。
「ハイポーション・オア・ほうじ茶ですね」
「ビーフ・オア・チキンみたいに言われても困るわ」
その後もシーザーサラダと人魚姫から出汁をとったという、フカヒレと卵入りのスープ食って満腹になった。どれも本当にうまかったので大満足だよ。
「次はどうするんだ?」
「ノープランです。そもそも修学旅行自体が朝の思いつきです」
思いつきでここまでできる行動力は褒めてやろう。
「なにをやるかなんて、俺は思いつかないからな」
どんな勢力があって、なにができるかがわからないと提案もできない。そもそもこの旅館はどこにあるのさ。
「もう家に帰って動画でも見てごろごろします?」
「急にやる気なくなったな」
「あーあれ、動画といえばですけど。見ると死ぬ系の動画とか見ます?」
「見ねえよ! どうせ本当に死ぬんだろ?」
「そりゃ死にますよ。嘘話と一緒にしないでください。ノンフィクションです」
「フィクションじゃなかったら困るのは俺なんだよ」
ちょくちょく死ぬ要素盛り込むのマジやめて欲しい。命は一つ……じゃないっぽいけど、俺の命は一つなんだよ。
「霊が映っている動画とかどうです?」
「人川と女将でもう見てるんだよなあ……今更画面越しに見てもさ……」
「人川さんを画面越しに見てみます?」
「作り物くささ100%だろ」
あいつくっきりしすぎ。ホラー番組に出たらコント扱いになることほぼ確定。
「そういやさ。ホラーってどこまで本当なんだ?」
「……どういう意味ですか?」
首かしげる結名はちょっとかわいいが、俺の言いたいことは伝わっていない。
「質問が悪かったか。幽霊は実際いるわけだろ? 学校の七不思議とかさ、ネットで有名な怖い話ってどこまで本当なんだ?」
「ああ! そういうことですか! すみません気付かなくて」
「いやいい、俺の質問もよくわかんねえからな。で、やっぱ全部嘘ってわけじゃないんだろ?」
火の無いところになんとやら。どうせならこういうことを検証するのも悪くないだろう。
「はい、本物もありますよ。花子さんなんかは、うちの学校にもいます」
「いんのかよ!?」
「オーディションして、一番かわいい花子さんに来てもらいましたよ」
「複数いんの!?」
「呂布が複数いるのに何を今更」
ぐうの音も出ないとはこのことだあね。いやあコメントが難しいったらないぜ。
「……夜中に走る銅像とか、音楽室の目が動く肖像画とかは?」
「あ、そっちは本人がいます」
「本人が!?」
「隣のクラスにいますよ。別に本人も呼ぼうと思えば過去から連れて来ますよ、五人くらい」
「多いわ! かわいそうだからやめなさい」
「この前、本人と七不思議で記念写真とってましたね」
「受け入れたのか……遠い未来で幽霊扱いされていることを……」
っていうかそんなことで有名になって嬉しいのか?
偉人と呼ばれて学校ホラーの一員になった経験がないからわかんねえ。
「じゃあ腹ごなしに七不思議を調べるということで決定です!」
「なんでそうなった!!」
「巫女だからです!」
「正直忘れかけてたわ。っていうか巫女関係ない!!」
結局お昼なのに七不思議探索に行くことになりました。
修学旅行の自由行動らしいけど、自由にも限度があると思うよ。
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