学校の怪談で勧誘

 昼飯食べて、お昼過ぎ。修学旅行はいきなり終わって学校に戻ってきた。


「はい、そんなわけで昼の二時だというのに七不思議探検です! 何やってるんでしょうね私達」


「素に戻るなや!」


「もう高校生ですよ。なのに学校の怪談って……」


「いやもう帰ってだらだらしててもいいんじゃねえか?」


「もうオファーしちゃいました」


 しちゃったらしい。オファーってことは完全に存在しているってことだろう。


「はい、じゃあ七不思議の定番一発目。グオルガガヴァルクさんでーす」


「ヨロシクオネガイシマース」


「そいつ誰だよ!?」


 なんかピンクの球体がふよふよ浮いている。なにこいつ。げごるが? 名前からして知らん。


「いやあどうですか大和様。ド定番のチョイスですけど」


「知りませんけど!?」


「まあ最近の子は知らないと思うでヤンスよ」


「まさかのヤンスキャラですか!?」


 喋る時だけ口が現れる。うわ怖い。地味に怖いよ。夜中に見たら怖いなこれ。


「七不思議と言えば! というアンケートでぶっちぎりの一位でした」


「うそつけバカ野郎!」


 結名が持っているボードでは、花子さんにダブルスコアつけて勝っている。


「マジで知らないけど有名なのか? えっとそのグゲルガさん?」


「長いから『ぐっさん』でいいでヤンスよ」


「フレンドリーっすね」


「今日はこの三人で学校探索です」


「新しい怪談できちゃうぜ?」


 不安だ……この学園に来てから不安しかない。この場所が怪異そのものではないだろうか。


「やるしかないか。最初はなんだ? 花子さんか? 口裂け女とか?」


「口裂け女は学校に関係ないので、今回はお休みです」


「次回も来ないでくれ」


 来られてたまるかボケ。ぐっさんも学校キャラとは認めないぞ。


「ガイドとして出そうという案もありましたがボツになりました」


「ナイス判断だ。常識的なやつもいるんじゃあないか」


「それは私の提案でヤンスね」


「どうコメントすればいいかわからないから先に進もう」


 学校内を歩くが他の生徒がいない。静まり返っていて怖いぞ。


「怖さを出すために、普通の生徒はまだ修学旅行中です」


「そっち行きたかったわ……」


「極寒と灼熱の地獄で鬼と職業体験のあと、バーベキューの予定ですが」


「まさか学校の怪談より恐ろしい場所に行くとはな」


 油断も隙もないわこいつら。行き先は確認しようと誓った。


「はい、ここは理科室です」


「おおーでっかいな……百人くらい入れるだろ」


「ぎっちぎちにつめて三百人でしたね」


「なにやってんだ!?」


「最後とかもう肩車だったでヤンス」


「無駄なことすんな!!」


 そこでかたん、となにかが動く音。振り向くと誰もいない。


「おいやめろよなんだよ怖いぞ」


「テーマが怪談ですからね」


 また音がする。振り返っても誰もいない。いや、違和感が……なんだ?

 そうだ、壁にある人体模型が近づいている。


「なあ、人体模型……こっちに来てないか?」


 言いながら振り返った俺が目にしたのは、結名ではなく……ドアップの人体模型の顔であった。


「うおおおおぉあああぁぁぁぁ!?」


 絶叫しながらバックステップ。びびった……生きてきた中で一番びびった。

 心臓が大きく動きすぎて胸に叩きつけられるんじゃないかというほど動いている。


「お前……そういう……お前ずるいわ!! 今の絶対ずるいわ!!」


「はいドッキリ大成功ー! びっくりしましたね?」


「すっするわボケ!! はっ、はあ……お前……俺の心臓どうなってんのか、わかんねえ……マジかおい。お前超怖いわ」


「どうもすみません。人体模型です。一応七不思議やらせてもらってます」


 丁寧にお辞儀されてもお前への憎しみは消えないからな。


「除霊しなきゃ……」


「いやーすんません大和様」


「模型君もやるねえ」


「いやいやーぐっさんほどじゃないっすよ」


 なんだその先輩後輩みたいなやりとりは。こっちはまだ心臓がおかしいぞ。


「お前ら纏めて除霊されろ」


「じゃあサービスシーンいっときます?」


「なんだよサービスって。この企画が終わることが一番のサービスだよ」


「花子さんをオーディションで選んだって言いましたよね?」


「聞いたな」


 マンガ肉とハイポーションを味わっていた時に聞いた気がする。


「女子トイレにいますので、行ってください」


「何がサービス?」


「着替えていたりするので、好き放題してください」


「最低か!?」


「このカメラで撮ると動きを止められます。シャッターチャンスであり、いたずらチャンスです」


 もう最悪だよ。まず花子さんに欲情できる人っているのか?


「五人くらい各個室に入ってますので、好みの子に学校の猥談ぶちかましてください! やりましたね!」


「誰かー! 誰か助けてくださーい! 幽霊と下ネタ巫女から僕を助けてくださーい!」


「じゃ、私はこれで失礼します。脅かしてすみませんでした」


「じゃあついでに失礼するでやんす」


 人体模型とぐっさんが去っていった。いやいや、模型は理科室にないとダメだろ。


「さ、行きましょうか」


「もうここで言っておくぞ」


「なんです?」


「このペースで七個とか絶対に終わらないからな」


 まだ二個だよ。あと五個どうすんのさ。長丁場になると体力もたねえよ。


「終わらなかったら深夜までかかりますね」


「……急ごうか」


 廊下を歩くとピアノの音だ。プレートには音楽室と書いてある。


「うーわ絶対いるわもう」


「じゃ、行ってください」


「俺だけで!?」


 終わらせたいから入るよちくしょう。

 部屋の中は真っ暗だ。ぼんやりとだが、楽器が色々置いてあるのがわかる。


「ん? なにこれ?」


 赤絨毯の先に椅子と『怪談コンサート・イン・大和様』という垂れ幕がある。


「勝手に俺をインしないでもらえるかな」


 渋々座ると部屋の明かりがつく。急に明るくなるもんだから、まぶしくて目を閉じてしまう。


「ようこそ大和様!」


 目が慣れてきたので周囲を観察すると誰かいる。


「ピアノ担当、ベートーベンの肖像画です」


「弾けねえだろ!?」


「バイオリン担当、ベートーベンです」


「またベートーベン!?」


「ドラム担当。音楽室に現れるベートーベンです」


「他の人も呼びましょうよ!」


 それからもギターやトランペット担当のベートーベンが出てくる。


「他にもモーツァルトとかいるでしょ。肖像画飾ってあるじゃないですか」


「いやあれは絵のタッチが違うだけで私ですよ」


「完全に別人だって! 髪型とか違うじゃん!」


「エロ同人で貧乳が巨乳にされたりするでしょう?」


「たとえ最低っすね!?」


 そして演奏会が始まった。


「……めっちゃうまいな」


 演奏クソうまい。生演奏の迫力もあいまって感動すらしている。ヘタすると泣くなこれ。


「凄いでしょう? あ、紅茶どうぞ。喉渇く頃でしょう?」


「あ、どうも」


 赤い帽子を被った人に紅茶のカップをもらう。なんだか手が石みたいな人だな。


「どうも二宮です」


「何故音楽室に?」


「なんかコンサートって観客一人だと恥ずかしくないですか? 乗り切れないというか」


 確かに。コンサートなんて行った事がないけれど、客が一人はきついな。


「なんで、終わるまで一緒にいます」


「それはどうも……」


 親切だ。二宮くんと並んで演奏を聴く。

 すると奥にスポットライトが当たり、ゆっくりとベートーベンが歩いてくる。

 ゆっくり歩いてピアノの前まで行くと、肖像画のベートーベンが物凄く驚いた顔をする。


「ん? なんだ? なんか始まったぞ?」


 そのまま一つのピアノを二人で弾き始めた。


「まさかのご本人登場だね」


「モノマネ番組か!?」


 そんなこんなで演奏会は終わる。自然と拍手していた。だって超うまいだもんよ。


「いやあ、感動しました。最高の演奏でしたよ」


「その言葉こそ最高の報酬です」


「リラックスして頂けたみたいですね」


「もう最高にリラックスしましたよ。ありがとうございます。ベートーベンさんも二宮君も」


「では、引き続き怪談探索、頑張ってくださいね」


 みんなに見送られて音楽室を出る。生演奏って迫力あってかっこいいな。得したよ。ああいうサプライズは歓迎したい。


「大和様、演奏はどうでした?」


「最高。やる気出た」


 出迎えの結名に笑顔で答える。音楽というものの見方が変わった気がした。


「それじゃ、張り切って花子さんの所に行きましょう!」


「えぇ……」


「目指すは女子トイレです!!」


 本気で目指したくねえなあ。やっぱり長くなりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る